アパレル会社「yutori」は、創業7年で過去最高の売上高83億円を達成した。社員の平均年齢が25.7歳という若い企業を率いる片石貴展社長は、どんな基準で人材を選んでいるのか。著書『若者帝国 好きな人たちと、好きなことに熱狂して働く』(KADOKAWA)より、一部を紹介する――。
yutori社長の片石貴展さん(片石さん提供)

■yutoriが希望する「人となり」の要素とは

yutoriに入社を希望する若者はどんどん増えている。応募者は、面接や課題提出、社長プレゼンなど、複数のステップを通過しなければならないが、それら採用活動は部長と社長判断で行っている。

その際、応募者が有する客観的なスキルと、それがビジョンや会社にマッチするかどうかの評価と同じくらいに、こちらが希望する「人となり」の要素を決めている。

それを表す言葉が、「優しい、強い、面白い」だ。

株式会社ほぼ日の行動指針「やさしく、つよく、おもしろく」の受け売りなのだけど、この3要素は面接のときに必ずチェックし、採用基準としている。

まず、あくまでファッションが仕事なので、基本的におしゃれであることは大前提だ。そのうえで協調性があり、他人のことを思いやり、助け合える優しさがあるかどうかを必ず見る。

■SNSフォロワー数が少ないと採用は難しい

ここで注意が必要なのは、優しくなければ駄目だけど、「優しいだけでは人は救えない」という真実だ。

人を助けたり、支えたりするためには、やっぱり強くなければならない。自尊心が高いことは当然含まれるし、打たれ強さや芯の強さがあるか、また数字や結果に向き合える真摯さがあるかどうかもチェックする。

もちろん、具体的なスキルなどが強さになることもある。例えば、若い子の場合、ひとつの基準として、自分が運営するSNSで、ある程度のフォロワー数を持っていなければ採用が難しくなってきている。ちなみに、世間では学歴を強みとみなすが、僕自身はまったくそうは思わない。

さらに、優しくて強いことを満たしていても、ときどき凄く真面目な人である場合がある。真面目であることは素敵な資質なのだけど、yutoriはクリエイティブな会社だから、人間的な面白さも重要な要素だ。

つまり、この「優しい、強い、面白い」を満たす人は、かなりレアな人という可能性があり、現在、約300人の応募があるとすれば、そのうちひとりが受かるかどうかという狭き門になっている。

■「研修」や「育成」の効果に期待しない

なぜここまで入口を狭くするのかというと、最初から「仕事に本気で取り組む人間」を採用することがもっとも大事だからだ。

通常、企業は採用後に研修や育成をするが、僕はそうした活動の効果はさほど大きなものではないと考えている。仮に、本人がもともと有するポテンシャルを5としたら、会社や上司が足せるのは、せいぜい2〜4くらいのイメージだ。

ただし、それとは別に、場や環境が与えるものは掛け算で考えている。もともと持っているものが5なら、例えば5×5で25。でも、もともと10や20のポテンシャルがある者なら、それだけで100や400になるわけである。

つまり、上司の指導(足し算)や環境(掛け算)で変わるけれど、もともとポテンシャルが高い人を採用することに尽力するのがポイントなのだ。

そのためには、そんな若者たちが恒常的に入社してくるような面白い会社の匂いや空気感が、世の中へ伝わり広がっていることも大事な要素だろう。

いずれにせよ、社名とはまるで違う厳しい選考をしており、「ゆとらない日々を一緒に過ごす」ことを念頭に、それらを「ゆとらない採用」と呼んでいる。

他にも、事業の成長を推進する「つよさ」と、若者の才能や個性を引き出す「やさしさ」を兼ね備えた幹部人材を募集する「やさしい幹部採用」や、一次選考をスキップし、候補者に自分の「好き」について存分にアピールしてもらい、特定分野に対する深い愛着や専門性を持つ人材を募集する「オタク採用」などを設けている。

片石さん(yutori提供)

■本人も意識していない可能性を引き出す

徹底的に人を見て、「優しい、強い、面白い」を重視して採用する真意は、yutoriでは働く一人ひとりを「会社のパーツ」として捉えない点にある。

人を管理目線で捉えるのではなく、本人も意識していない可能性を引き出すために採用する。だから、当然面接でも表面的な志望動機や自己PRなどの話はほぼしない。でも、もし一般の企業が、yutoriが行っているレベル感で人をじっくり見て採用していないのなら、それははっきりいって、ひとりの人間に対する尊厳の軽視ではないかと僕は思っている。

以前、株式会社スタジオジブリのドキュメンタリー番組で、宮崎駿さんが職場でラーメンをつくったり、当番制でスタッフみんなが夜食をつくって食べたりしている様子が映されていた。アニメーション映画の制作現場も過酷な環境だと推察するが、そうしたなかでも人間らしさや温かみのある職場ができあがっていて、とてもいいなと思った。

■働く人に対する尊厳がなくてはいけない

そこに存在するのはあくまで生身の人間であり、決して会社のパーツではない。それぞれの人には、抱える悩みや葛藤があり、背景となる様々な人生のストーリーがある。そんな人と人が、偶然にも仕事を通して同じ場所に行き着き、そこで支え合い、助け合いながらひとつの神話を信じている。

その誇らしさのような感覚が、そのドキュメンタリー番組からも伝わってきたし、ジブリがプロデュースした多くの作品からも、それは伝わっているはずだ。

逆にいうと、少子高齢化などを背景にして、徹底的に人と向き合い、働く人に対する尊厳がある場所でなければ、もはや会社として目立った価値が出せない時代になっている。

かつての日本には、目の前の仕事をこなすだけで自動的に給料やステータスが上がっていく時代があった。高度経済成長期は、国全体が右肩上がりに成長していたからだ。それこそ1980年代に栄養ドリンクCMで流された「24時間戦えますか?」というキャッチコピーは、まさにそんな時代性と盲目的な働き方を象徴している。

■平均給与を469万円→490万円にアップ

仮に、頭を使って考えたり、クリエイティブなものを創造したりする仕事の人が24時間働いたなら、創造性からどんどん遠ざかっていくはずだ。もちろん、当時は別のつらさがあったと思うが、ただ目の前の仕事をやるだけで給料が上がっていくのなら、ある意味では楽な面も多かったのだと感じる。

片石貴展『若者帝国 好きな人たちと、好きなことに熱狂して働く』(KADOKAWA

yutoriのような会社は、そうしたもともと用意されたような仕事がなにもなく、自分たちで仕事を生み出していくことが前提となる。

だからこそ、一人ひとりが常に本気で仕事に向き合い、必死になってものごとを考える必要がある。表面的なスキルや学歴などのパーツだけで人を集めても、クリエイティブなものはまったく生み出せないだろう。

そして、同じことが、いまほぼすべての企業に求められていると思うし、経営はますます厳しい時代になっていると考えている。

もちろん、yutoriでは、社員のみんなに待遇面でも最大限リスペクトを表している。社員の平均年齢は25.7歳で、上場企業でも非常に若い部類だが、2024年7月分から、社員のベースアップ(給与水準の引き上げ)を図り、従業員の平均給与を469万円から490万円に増加させた。

年齢や学歴は関係ない。「好き」という熱狂と才能があれば、それに見合った給料を支払い、より力を発揮してもらえる場を提供するのが会社の使命だと考えている。

----------
片石 貴展(かたいし・たかのり)
yutori代表取締役社長
1993年、神奈川県生まれ。ニックネーム「ゆとりくん」。「9090(ナインティナインティ)」「Younger Song」「PAMM」など、2024年時点で約30のアパレルブランドを展開し、独自のSNSマーケティングによって創業わずか6年で年商43億円を達成。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。2023年12月、ZOZO傘下を離れ、アパレル業界では最年少&最短で東京証券取引所グロース市場に上場を果たし話題になった。今後5年で100ブランドまで増やすことで「日本で一番ブランド数が多い会社」として成長し、若者の好きや熱狂が溢れる「若者帝国」をつくるというビジョンを打ち出している。
----------

(yutori代表取締役社長 片石 貴展)