『あんぱん』“寛”竹野内豊は最期まで良き“父”であり続けた “生きる道”示した嵩への遺言
NHK連続テレビ小説『あんぱん』第9週「絶望の隣は希望」が幕を開けた。そのサブタイトルと予告映像に映った千代子(戸田菜穂)の涙からすでに覚悟していた視聴者もいるかもしれないが、第41話では寛(竹野内豊)が帰らぬ人となり、お茶の間に悲しみが広がっている。
参考:『あんぱん』第42話、悲しみに暮れる嵩(北村匠海)にのぶ(今田美桜)が寄り添う
嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)の実父・清(二宮和也)の兄であり、育ての親となった寛。千代子との間に子宝に恵まれなかったことから千尋を養子に迎え、清の死後は嵩のことも引き取って分け隔てなく愛情を注いだ。自分の病院を無理に継がせようとせず、「何のために生まれて何をしながら生きるがか、見つけるまでもがけ」と説き続けた懐の広い人。一方、跡取りを産めなかった罪悪感に苛まされる千代子には「わしは千代子に惚れて一緒になれて、これ以上の人生はないと思っちゅう」と寄り添う愛妻家でもあった。
しかし、寛は子供にただ甘いだけの親ではない。絵で描いて生きていきたいと自分の道を見つけた嵩に、「現実的やないにゃあ。絵では食うていけん」としっかり現実を突きつける厳しさも。その上で未来が確約されない人生を歩む覚悟を問い、嵩が真剣だと分かると「自分が決めた道やきにゃ。おまんが責任を持て」と背中を押した。
だから、寛の危篤の知らせを受けたとき、嵩は真っ先に家へ帰ることより、目の前の卒業制作を完成させることを優先した。「これを仕上げないと、伯父さんに顔向けできないから」と。こんなにも嵩の真剣な顔つきは初めて観たかもしれない。寝食も惜しんで作業に没頭し、ようやく完成したのは夜の銀座を人々が行き交う楽しげな嵩らしい絵だった。
担任の座間(山寺宏一)から「この作品の提出をもって、本稿での課程を修了と認める」と卒業のお墨付きをもらった嵩は寛にそのことを報告すべく、急いで汽車に乗り、高知へ向かう。しかし、家に着いたとき、寛はすでに息を引き取った後だった。
地域の人から頼りにされる町医者だった寛。その思いに応えるようにひたすら働くうちに疲労が蓄積されていたのだろう。おそらく御免与町には寛の他に医者と呼べる人はいないのではないだろうか。ましてやまだ医療が十分に整っていない時代。寛は倒れてからあっという間にこの世を去ってしまった。
血の繋がりに関係なく愛情を持って育ててくれた寛の死に目に立ち会えず、放心状態で「ごめんなさい」と呟くことしかできない嵩に千代子は「寛さんは、怒ってなんかいませんきね」と語りかけ、その最期を伝える。寛がまだ生死を彷徨っていたとき、「嵩さん、きっともうすぐもんてきてくれますき」と励ました千代子。しかし、寛は「今頃卒業制作、必死に頑張りゆうがやろ。わしが邪魔してどうするがな」と返し、「最後まで描き上げんと、半端でもんてきたりしよったら……半端でもんてきたりしよったら、殴っちゃる」と弱々しくその拳を掲げた。
「嵩が決めた道や。嵩の生きる道や。投げ出すがは許さん」
それが、寛の嵩に残した“遺言”だった。人も物もすべて国のために捧げることが正義とされた戦時下において、自由を忘れない嵩の心や作風は寛の下で育まれたもの。けれど、同時に自由には責任が伴うことを嵩は寛から教わった。その教えを貫いた嵩。「寛さんと嵩さんは、やっぱり心が通じ合うちょったがやね」という千代子の言葉を受け、その目からとめどなく涙が溢れる。寛は最期の最期まで、厳しくも温かい愛のある人だった。人は亡くなってから49日は魂がこの世に漂っているとされている。きっと、寛もあの優しい笑顔で「よう頑張ったにゃぁ」と嵩の頭を撫でてくれているのではないだろうか。
一方、朝田家では次郎(中島歩)と婚約が決まったのぶ(今田美桜)の祝言の準備が進められていた。卒業制作が完成したら、のぶに思いを伝える決心をしていた嵩は再び絶望を味わうことになる。(文=苫とり子)

