出張や帰省のあとにもう1泊するなら、「素泊まり」や「1泊朝食」が気軽でいい。最近は宿泊プランの選択肢が増えてきて、「ついで旅」がしやすくなっている。北陸の人気温泉地・石川県の山代温泉に素泊まりしてミシュランビググルマンの居酒屋で旨い魚を食べてきた。

※トップ画像は、山代温泉の旅館「ゆのくに天祥」の温泉玉子手作り体験コーナー

北陸の人気温泉地・山代温泉、素泊まりプランを宿のオリジナルHPから予約

「素泊まり」というと小さな宿をイメージするが、大きな温泉旅館なら大浴場で手足が伸ばせるし、泊まる客室が狭くてもロビーでくつろげるし、何かとゆったりできそう。そう考えて、山代温泉にある「ゆのくに天祥」を予約した。

「ゆのくに天祥」の開放感あるロビー

「ゆのくに天祥」の客室数は全136室(うち露天風呂付きは44室)。このほかに素泊まりができる洋室が20室ある。1泊2食付きで普通に泊まると、1室2名利用で1人2万5450円〜(消費税・入湯税込み)で、この宿の最も多い料金帯は3万円台。山代温泉は1泊8万円以上という宿もあるエリアだから、この宿はミドルクラスの旅館という位置づけだろうか。

「ゆのくに天祥」天祥の館「和室スイート客室」

今回、予約したのは洋室のシングルルーム、素泊まり1泊7700円。「じゃらん」や「楽天」といった宿泊予約サイトを覗くと、ツインベッドルームを1人利用する1万2800円のプランは出てくるものの、7700円という料金は見つからない。最安値のシングルルームは自社オリジナル予約サイトのみの取り扱いだ。

素泊まりの客にも親切に対応してくれる。ただし、客室までの案内はなし

それは「添乗員部屋」だった!破格の「7700円」でもベッドはシモンズ製

なぜ安いのか? 

それはこの部屋がいわゆる「添乗員部屋」だから。旅行会社の添乗員がツアー客を引率してきたときに泊まる部屋である。団体旅行が減少傾向にある中で、こういった添乗員部屋を一般向けに販売するケースをたまに見かけるが、この宿のようにシングルルームをきれいにリニューアルし、寝具までいいものを入れているケースはかなり珍しい。

シモンズ製のベッドが置かれた洋室のシングルルーム

洋室は「白雲の館」にシングルベッドルームが14室、「天祥の館」にツインベッドルームが6室の全20室ある。シングルは狭いが、2022年にリニューアルされていて、トイレもきれい。客室内に洗面台もあって、泊まるには十分である。浴衣やバスタオル、浴用タオル、歯ブラシなど、通常の宿泊と同様に提供される。足袋ソックスもある。もちろん、大浴場も利用できる。

広い客室がいいなら、ツインベッドルームのシングル利用もできる

ベッドは一流ホテルで導入されている、アメリカ発祥の高級ベッド「シモンズ」製だし、掛け布団は羽毛布団。いくら安くてもコイルがバカになった古いベッドで眠るのはつらいが、このベッドは寝心地がいい。

大浴場は広々。3階の「悠幻の湯殿」にはサウナや寝湯もある
源泉かけ流しの壺湯。少し熱めの笹濁りの湯が注がれる

素泊まりでも利用OK、無料サービスが充実

この宿には数々の無料サービスが用意されている。

チェックインから夕方までは温泉まんじゅうとゼリーのサービス。そして、源泉に卵を浸して「温泉玉子」づくりの体験ができる。さらにコーヒーなどのドリンク類に加えて、売店で売っている加賀棒茶せんべい、焼き芋サブレも自由に食べられる。

「ゆのくに天祥」の温泉まんじゅうのサービス
ゼリーの無料サービス
温泉玉子は目印のイラストを描いて

翌朝もコーヒーなどのドリンクサービス以外に、蒸しじゃがいも、白玉あん、甘夏ゼリーのサービスがあった。

翌朝の蒸しじゃがいもサービス

私は普段、朝食は食べないことが多いから、朝食はなくてもいいのだが、念のため旅の途中で見つけた「手作り豆腐」を買ってあった。朝は豆腐に、蒸しじゃがいも、前日作った温泉玉子を朝食代わりとした。宿のすぐ横にコンビニがあるから、そこで何か買ってもいい。

温泉街の食事処はひとり客にも優しかった

「夕食を食べるところがなかったらどうしよう……?」

そんな不安はすぐに払拭された。フロントで渡された「ごはん処☆まっぷ」には10店が紹介されていた。

宿オリジナルの「ごはん処☆まっぷ」

気になった「ブルースの聴けるおでん屋 kaze」はこの日は休み。一人なので定食屋にしようかと思ったが、宿の人が「ここがおいしいですよ」と絶賛する「一力」に行くことにした。電話で問い合わせると「一人盛り」にも対応してくれるという。

宿から歩いて15分。平坦な道のりだから、晴れていれば散歩にちょうどいい。温泉通りから温泉街の中心部にある共同浴場「古総湯(こそうゆ)」を右折し、さらに郵便局のある通りを左折すると、「一力」にたどり着いた。お店の人と話せるカウンタースタイルの店は一人旅にもうってつけだ。

前日はブッフェ料理をたっぷり食べてきたので、地酒とお造り、ご飯、味噌汁を頼んで、お刺身定食程度の夕食にしようと思ったのだが、思いのほか注文してしまうことに……。

「一力」の味のある手書きのメニュー

なまこ、ガスエビ、北陸の海の幸と地酒を満喫した夜

「食欲がないから」と「なまこ酢」を一皿注文。能登のナマコはコリコリとした食感が何ともいえずおいしい。地酒とともに味わううちに、ほかのメニューも食べたくなってしまった。

「なまこ酢」が食欲を誘った

「うちに来たらやっぱりガスエビは食べた方がいいですよ」。お店の人にそういわれて、ガスエビの石焼きを頼んだ。鮮度が落ちやすいから、地元でしか流通しない “幻の海老”で、「白ガスエビ(クロザコエビ)」という種類らしい。「生で食べられるくらいのものだから、すぐ食べたほうがいいですよ」。促されるままに口に放り込むと、プリっと甘くて濃厚な身が、口の中でとけていった。

旨すぎる−−。ガスエビの尻尾もカリカリに焼いて、日本酒でキュッといくと、これも酒の肴にちょうどよい。

名物のガスエビ

お造りの皿には、白皮カジキ、柳サワラ、甘エビ、イカ、マトウ鯛の昆布じめなどがのっている。「刺身は全部、エイジングしています」と店の人が言う。北陸でしか味わえないような魚ばかりで、幸せな気分になれる。隣の席の男女客とも仲良くなって、まさに一期一会の出会いに盛り上がった。温泉街に繰り出す楽しみはこんなところにもある。

お造りも一人前で盛り付けてくれる

全く事前に調べることなく、店選びをしたが、この店は『ミシュランガイド北陸2021』で価格以上の満足度が得られる「ビブグルマン」に選ばれた店だった。当日の予約で入れたが、平日でも満席のときもあるようだ。

さらに「たらの芽の天ぷら」を頼み、おにぎりで〆る。「お腹が空いていない」と思っていたはずなのに、複数の皿をぺろりと平らげてしまった。お会計は、6380円。素泊まり金額を合わせて1泊1万4000円程度ならば、リーズナブルな温泉旅だったといえるのではないだろうか。

ラブライバーのためのタオル&ポストカードも

宿泊した「ゆのくに天祥」に置かれた女の子のキャラクターが気になっていた。スクールアイドルプロジェクト「ラブライブ!」のキャラクターで9人中6人が宿の制服を着用している。「ゆのくに天祥」とのコラボは2024年12月から始まったそうである。

「ゆのくに天祥」の制服を着た「ラブライブ!」のキャラクターのパネル

スマートフォン向けアプリ「Link!Like!ラブライブ!」をメインに、メンバーおよびキャストによる動画配信、雑誌展開、楽曲CDのリリース、ライブイベントなどがメディアミックスで行われていて、「ゆのくに天祥」も動画中に登場している。

キャラクターのパネルと記念撮影をしたり、声優さんが宿泊した客室に泊まったりする聖地めぐりがファンの間で流行っていて、入浴プランの利用か宿泊で、タオルとポストカードを500円で購入できる権利が得られる。

「ラブライブ!」のタオルとポストカードは500円。入浴プラン以上で購入できる

「ラブライブ!」のファンの人もそうでない人も、オリジナルHP限定の素泊まりプランはかなりお得。ぜひチェックしてみてほしい。

【山代温泉】
神亀2(725)年、僧・行基が霊峰・白山へ修行に向かう途中、カラスが泉で傷を癒やしているのを見て、温泉を見つけたといわれる。江戸時代には加賀藩の湯治場として栄え、明治・大正期には与謝野晶子・鉄幹夫妻、泉鏡花、北大路魯山人ら文人墨客が訪れている。

【宿データ】
『ゆのくに天祥』
住所:石川県加賀市山代温泉19-49-1
電話:0761-77-1234
泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉
アクセス:北陸新幹線加賀温泉駅から無料送迎バスで約10分

文・写真/野添ちかこ
温泉と宿のライター、旅行作家。「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。「NIKKEIプラス1」(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、「旅の手帖」(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)や『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。