主演のジーン・カオ「見過ごされてきた人生に目を向けて」 台湾映画「娼生」

台湾で児童売春や人身売買が横行していた時代を舞台に、実話を基にして制作された同作。今作が初の長編作品となったブルース・チウ(邱新達)監督がメガホンを取った。ジーンはエグゼクティブプロデューサーも務め、資金調達、キャスティング、ロケ地選び、ポストプロダクション(撮影後作業)まで関わった。
「プロデュースの経験はこれが初めてではありませんが、一つのキャラクターと一つの作品に、ここまで自分自身を全てささげたのは今回が初めてでした」とジーンは同作への熱い思いを打ち明けた。
作品中では体当たりの演技も披露した。一番の挑戦は「声にならない痛み」をどう表現するかだったという。「この映画には激しく取り乱すような場面はあまりなく、内に秘めた葛藤と抑制が中心になります。だから私は、身体の動きや視線の交わし方に意識を集中させました」。鏡の前で繰り返しリハーサルをしながら、フォンという人物が「ここで何を隠しているのか」を問いかけ、観客がフォンの感情の奥に入り込めるように、あえて動きをゆっくりすることも意識した。
撮影中、特に印象に残ったシーンの一つはフォンが窓辺に一人立ち、拒絶され、弟に存在を認めてもらえなかったことを悟ってたばこを吸う場面。監督から「カット」の声がかからず、一本丸ごと吸い終えるまで演じ続けた。撮影が終了するとその場で泣き崩れてしまったという。「それはフォンのためだけではなく、『私たちは本当に、社会に忘れられた女性たちに向き合ったことがあったのだろうか』という思いが込み上げてきたからです」と明かした。
「性労働に従事する人々は、その仕事だけで語られる存在ではありません。彼女たちにも家族がいて、夢があり、個人的な痛みがあります。フォンという人物を通して、女性たちが抑圧の中でどのように耐え、自分自身、そして他者を守るために立ち上がってきたのかを、見届けてもらえたらうれしいです」と日本の観客にメッセージを送った。
(名切千絵)