TVアニメ『メダリスト』で注目された“モーションキャプチャー” “ロトスコープ”と比較考察
第2期の制作も決定した2025年冬アニメの『メダリスト』。各キャラクターの置かれた境遇や葛藤が熱を帯び、視聴者から様々な感情が「見なよ(…俺の司を…)」とばかりに溢れ出た。実際の試合では見られないようなアオリのアングルで、フライングシットスピンもダイナミックに描かれるなど、数々の演技シーンでGOE(出来栄え点)が加わること必至の映像美だった。
参考:TVアニメ『メダリスト』第2期制作決定 いのり、司らが描かれビジュアル&ムービーも
映像制作技術が進歩するたびに、作品ジャンル(※1)の境界線が揺らぐ。それは同時に従来の慣例を再考する機会を与えてくれる。本稿では『メダリスト』でも注目されたモーションキャプチャーを、改めてロトスコープと比較してみたい。
■2Dの印象が強いロトスコープ 2D限定の技術ではなかった? モーションキャプチャーと聞くと、実写カメラの前で演者が黒いスーツを着ている画を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。黒いスーツの各所には身体の各部位の位置を示すマーカーがついており、演者の動きが3Dツールのキャラクターにリアルタイムで取り込まれる仕組みになっている。
『メダリスト』ではプロフィギュアスケーター・鈴木明子が演技の振り付けを担当したことも話題になった。カメラを複数用意し、キャプチャーツールで位置情報を検知して鈴木の動きを取り込んでいる(このほかキャプチャーツールとしては、スーツやマーカーも要らないもの、録画からでも取り込み可能なものなども増えてきた)。
モーションキャプチャーと似た技術であるロトスコープは、撮影した実写の動きをリファレンスとして、1枚1枚2Dとして最適化していく技術である。2024年度前期のNHK連続テレビ小説『虎に翼』のタイトル映像や同じく2024年の長編映画『化け猫あんずちゃん』でも注目されたのも記憶に新しい。
ロトスコープはモーションキャプチャーに似ているというよりも、実写の動きをキャラクターの動きのリファレンスにするという用途においては、モーションキャプチャーと同じである。実写の動きへの対応という点では本質的に同じではあるものの、3Dと2Dといったアニメーション作品のジャンルの出自や来歴によって、これまで別個のものとして扱われてきた。
なおロトスコープでは、演者の輪郭までトレースすることまで含まれがちだが、あくまでも演者の動きをリファレンスとすることに主眼が置かれている。演者と体型が近いに越したことはないにしろ、『化け猫あんずちゃん』でも、リファレンス元の演者・森山未來とあんずちゃんでは、まるで体型が異なっていることから分かるだろう。
とはいえ、3D映像においてもロトスコープが使われる場合もあることまで知っている人は少ないかもしれない。1988年の発売から長く愛され、2016年に開発が終了した3Dツール・Softimageのマニュアルにロトスコープが明記されていた(※2)。それによると、実写をリファレンスにしてキャラクターを3Dモデル化することまで含まれている。
ちなみにロトスコープを知る際には、ロトスコーピング(※3)について調べておきたい。例えば3Dツール・3ds Max 2024のマニュアルにある用語集からも確認できる(2025年版からは用語集そのものが未掲載)。そもそもロトスコープは英語なので、MayaやBlenderなど他の3Dツールも英語の解説まで含めて調べてみると、より理解が深まるのではないだろうか。
このほかイラスト制作ソフト・CLIP STUDIO PAINTの機能を例にすると、2Dツールではあるが3Dのデッサン人形が付属している。3Dのデッサン人形にポーズをつけながらリファレンスとして作画していけば、理屈としてはロトスコープということになる。
モーションキャプチャーは3Dだけでなく、2Dの制作にも応用が効く。例えば2Dアニメーション制作ツール・Character Animatorでは、実写をリファレンスとしてキャラクターのイラストをアニメーション化することができる。各関節にマーカーを入れることによって(リギング)、リアルタイムで実写の人物の動きと連動させる(録画後の細かい調整はAfter Effectsで行う)。
こちらは2Dでもカットアウト(切り絵)と呼ばれる作品ジャンルで、現実世界ではコマ撮り(ストップモーション)で行われているものを、デジタル空間で模擬的に再現するかたちになっている。各部位をパーツに分けて動かすため、パーツアニメーションとも呼ばれている。むしろアニメよりも、ゲームやVTuberなどで観慣れている人が多い技術ではないかと思う。
アニメーション制作における撮影(コンポジット)でもおなじみのAfter Effectsでも、カットアウトの制作は行えるが、ロトブラシという機能があるのも知っておきたい(ロトブラシのロトは、ロトスコープに由来しているのが見て取れる)。
ロトブラシを使うと、動画から人物などの動いている対象物を切り抜くことができる。ただ、こうした技術が使われている動画は、MADムービーやネットミームで見かける機会が圧倒的に多いように思われるので、詳しいことは割愛する。 ここまでモーションキャプチャーとロトスコープに関する事例を挙げてみたが、いずれも実写そのものの動きを使うわけではない。モーションキャプチャーで取り込んだ動きも編集段階では補正することになり、ロトスコープにおいて必要な箇所のみ作画することになる。どのみち最終的に作品のクオリティーを決定づけるためには、制作スタッフによるチェックは欠かせない。
そして比較対象としてはAIも避けて通れなくなった。2025年春アニメ『ツインズひなひま』の全編で、AIが使われているとして放送前から話題になっている。
『ツインズひなひま』公式YouTubeチャンネルは本編のPVに先がけて、メイキングPVも公開している。本稿が注目するのは、やはり「実写からアニメ」の変換である。モーションキャプチャーやロトスコープと同じく、AIが実写の動きをリファレンスとしてキャラクターの動きに変換しているからだ。
『メダリスト』でもAIが使われたことが話題になっているが、こちらはキャラクターや背景など作品のビジュアルに関わる生成ではなく、モーションキャプチャーの関連として、演者のスケーティングの軌跡を補正するために使われている。
『ツインズひなひま』でのAIは、作品のビジュアルに関わる部分での用途になっているものの、あくまでも制作のサポートであると明言している。自前で用意した各素材を学習に使ったAIなのであれば、各スタッフの制作に関する特徴まで反映されやすく、調整も含めて確かに効率よく制作できそうだ。
もっぱらAIを用いた創作をめぐる言説では、リファレンス元が明かされないことが議論の的になっている。一方のモーションキャプチャーやロトスコープでは、リファレンス元が明確になっている。制作には何らかのリファレンスが必要であるにもかかわらず、参照先と出力とを分かつ境界線の揺らぎは着実に忍び寄っている。
2025年冬アニメには、作品制作を題材とした『全修。』もあった。作品制作を題材とした物語も定期的に発表される傾向にあり、アニメーションの制作過程を知る機会にもなっている。
そして制作会社が増えているのは、作品本数が多いからというだけではなく、各社が制作方法を模索しているからでもある。出自や来歴が異なる用語でも、同じ内容を意味するものワードが複数の場で見られるところから、制作事例の増加を見出せるとも言える。
本稿がリファレンスになるかどうかはさておき、なるべく視野を広く持って制作方法や用語を再考する機会があってもいいのではないだろうか。
参照※1.本稿でいうところの作品ジャンルは、アクションやコメディーやホラーなどといった作品の内容に関するものではなく、3Dや2Dやコマ撮り(ストップモーション)などといった作品の技術に関するものとしている。※2. https://download.autodesk.com/global/docs/softimage2014/ja_jp/userguide/index.html?url=files/view_rotoscopy.htm,topicNumber=d30e59719※3. https://help.autodesk.com/view/3DSMAX/2024/JPN/?guid=GUID-2D841F7C-0248-4964-A133-3338C2683610(文=真狩祐志)
