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モデルライフ終了は、刻一刻と近づいている

アルピーヌA110を奇跡のクルマと呼ぶことに、賛同頂ける方は多いように思う。2015年6月のル・マン24時間レースで、プロトタイプがサプライズデビューしてからもうすぐ10年。そのモデルライフ終了は、刻一刻と近づいているようだ。

【画像】奇跡のマシン!アルピーヌA110Rチュリニ 全67枚

伝説的アルピーヌの車名『A110』をそのまま採用した市販版がデビューしたのは、2017年3月のジュネーブ・ショーだった。当時、デビューまでの動きを追いかけてきた私は、ショー会場で数時間前から場所取りをして、緊張しながらプレスコンファレンス開始を待っていた。車名がA110と発表されたときは「そのままかい!」と突っ込みを入れそうになったが、とにかく興奮しながらシャッターを押し続けたのをよく覚えている。


本稿執筆のきっかけとなったのは、アルピーヌA110Rチュリニの取材だった。    山本佳吾

それ以降も多くの記事を作り続け、2019年2月には『スクランブル・アーカイブ アルピーヌ』(ネコ・パブリッシング刊/当時)というアルピーヌのワンメイクムック製作を担当。念願だった、アルピーヌ生誕の地であるフランス・ディエップ工場も訪れることができた。

ディエップ工場では、半分は手作りと呼べるほど職人たちが1台ずつ丁寧に、生産というよりは製作していた。直接話をすることはできなかったが、彼らは伝統の地でアルピーヌを作っていることに誇りを感じているようで、そういった空気感を覚えたことは一生の思い出だ。

ルノー・グループという大きな枠組みの中で

しかし決して生産能力が高いといえないディエップでA110だけを作り続けるのは、やはりルノー・グループという大きな枠組みでは、あまりに規模が小さかった。またコロナ禍と急速な電動化を受け、『ルノー・スポール』の役割をアルピーヌに受け継ぐというウルトラCが誕生する。F1チームからルノーの名が消え、ルノー・スポールの設定がなくなり、日本では在庫販売の残すのみとなった。アルカナに『エスプリ・アルピーヌ』というトリムが登場したのも記憶に新しいところ。

2月21日に公開したUK編集部のレポートで、ルノー・スポールの名前が復活する可能性も出てきているが、それはまだ正式発表ではない。


BEVとして復活したルノー5をベースに、アルピーヌ版がA290として発売されている。    アルピーヌ

そういった中で、利益率の高くない少量生産モデルとしてアルピーヌA110が存続しているのは、まさに奇跡のような話だ。今後アルピーヌがルノーとプラットフォームを共有するBEVのみとなっていくことは確実で、A110がそのまま生き残ることは考えにいくい。

先日、プジョーCEOのリンダ・ジャクソンさんのインタビューで(注:取材直後に退任を発表)、欧州を直撃している中国車の脅威が、大幅なコストダウンやフランス国内のサプライチェーン強化を強いていることを聞いた。同じフランスのルノーも状況は同じだろう。

A110は『バランス命』のクルマ

そういった状況下で、先日日本でも発売になった『アルピーヌA110Rチュリニ』に乗る機会があった。以前発売されたA110Rと基本的には同じで、カーボンホイールがアルミホイールへと変更され、取材車はオプションのOZ製ホイールと、アクラポビッチ製エキゾーストシステムが装着されていた。詳しくは吉田拓生さんのレポートも参照頂きたい。

A110は『バランス命』のクルマだと思っていて、絶対的な軽さを武器に、リアミドシップに適度なパワートレインを組み合わせ、初手から完成度の高さを見せつけてきた。だから、スポーティなA110Sは足が硬すぎると感じてしまい、最初はA110Rにも期待していなかった。


様々なエアロパーツ追加により、吸い付くようなコーナリングを実現している。    山本佳吾

ところがエアロパーツの効きが素晴らしく、明らかなダウンフォース向上が公道でも感じられ、吸い付くように曲がる、とにかく楽しいハンドリングマシンになっていて驚愕したのだ。表現を変えるならば、優秀なレーシングエンジニアが本気で仕上げたと思わせる、ベースのA110とは別次元の『バランス命』を見せつけたのである。

今回も乗っていて、硬いけど柔らかい懐の深さを感じさせる足まわりに感動。いかにもコストがかかっているイメージで、本当にいいアシだなぁと思う。エクステリアもやる気に満ちた雰囲気で、こちらに元気がないと気後れしそうなほどだ。ところが、乗っていたらどんどん元気になってきて、帰り道で遠回りをしたくなった瞬間に、このクルマに惚れてしまったと気が付いた。

常日頃、今新車で買いたいクルマはマツダ・ロードスターとアルピーヌA110の2台しかないと言い続けてきた。他にも欲しいクルマはたくさんあるが、『たった今』という条件を加えたときに、この2台には明確な理由があると思うからだ。

ロードスターの話は機会を別に譲るが、A110は、二度とこういうクルマが現れないことが確実だからである。もちろんバランス命のドライバビリテイが素晴らしいことは、書くまでもないだろう。

これまで買うならロングツーリングにも適したA110GTだと思っていたのだが、二度のA110R試乗で、すっかり参ってしまった。もちろんA110Rチュリニの1610万円〜という価格は、ベースのA110が1040万円〜だから、なかなか高いハードルではある。しかし、本当にモデルライフ終了が迫っていて、そしてこれがかつて見たあのディエップ工場からやってきていると考えれば、決して高くはないと感じるのであった。

SPEC:アルピーヌA110チュリニ

●全長×全幅×全高:4255×1800×1240mm
●ホイールベース:2420mm
●車両重量:1100kg
●エンジン:直列4気筒DOHCターボ
●ボア×ストローク:79.7×90.1mm
●総排気量:1798cc
●最高出力:221kW(300ps)/6300rpm
●最大トルク:340Nm(34.6kg-m)/2400rpm
●トランスミッション:7速DCT
●燃料タンク容量:45L
●駆動方式:後輪駆動
●サスペンション:F&Rダブルウィッシュボーン
●ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク
●タイヤサイズ:F215/40R18 R245/40R18
●ホイールサイズ:F7.5J×18 R8.5J×18
●車両価格:1610万円〜


取材車はオプションのOZ製ホイールを装着。エキゾーストはアクラポビッチ製だ。    山本佳吾