「まあ12年、歳を取っているんで」ローマ熊谷紗希が滲ませた“重厚な欧州キャリア”への矜持。セリエA終盤、そして北朝鮮戦へ「落ち込んでいる暇はない」【現地発】
後半、ローマは特にリスクを負って前に出た。CBの南萌華は後半、早めのチェックでアヤックスの攻撃の芽を摘んだ。アンカーの熊谷紗希はシンプルに前へボールを配給しながら自身も前に出て、敵陣ペナルティエリアの中で激しくボールを刈った。
こうしてアヤックスが2−1で勝利し、パリSGと共に『死の組』を勝ち抜いた。アヤックスの5本に対し、17本ものシュートを放ったローマは最下位で今シーズンのCLを終えた。首位のパリSGの得失点差がたった+2だったことからも分かるように、まさに僅差の戦いだった。
試合後のオーロラビジョンに涙を流すローマの選手が映る。殊勲のスピッツェ主将もテレビインタビュー中に泣いた。紙一重のアヤックス戦、紙一重のグループステージ敗退を熊谷はこう振り返った。
「今日の試合に勝てば、自力ではないですけど(ベスト8に)行ける状況で、この試合に臨みました。もちろん、チームとしても勝ちに行ったし、 その中で勝つチャンスはいくらでもあったとは思うんですけど、 ここでグループリーグ敗退が決まった。結果がすべてなんで...。難しいですけど、しっかり(敗退を)受け入れるしかないと思っています」
「結果がすべて」というコメントは、私も予期していた。しかし、両チームのゴール前での際どく激しいデュエルの応酬を見終わったばかりの身としては、結果を抜きにしてローマの選手たちを讃えたかった。
「お互い、それは命をかけてやっていますし...。やっぱり勝ちたかった。このグループで自分たちも絶対に上に行くチャンスはあったと思う。このグループで(ローマはパリSGと並ぶ10ゴールで)最多チーム得点タイですが、(11失点で)最多失点でもある。これがすべてかなっていうのは...。自分たちがこれから上に行くにあたって、修正しなきゃいけないところかなと思っています」
2011年女子ワールドカップで日本が優勝した直後、熊谷はフランクフルトに移籍。その2年後には黄金期のリヨンにステップアップし、バイエルン、ローマでキャリアを重ねている。この4チームすべてが今季のCLに名を連ねていることも、彼女の欧州でのキャリアの積み重ねを感じる。
その中でローマは18年に新しく誕生したチームで、瞬く間にイタリアの強豪のひとつとなり、昨シーズン初めてセリエAを制した。今回、CLベスト8に進出したアヤックスは、エールディビジ初めてCLのグループステージ参戦を果たした欧州の新興チームである。
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以前、熊谷は日本のメディアに「欧州女子サッカーのレベルアップ、メディアの注目、関心の度合いが高まっているのを感じる」という趣旨の発言をしたが、まさに今回のCLグループCは、彼女が欧州の12年間で感じたことの縮図のように、私には思えた。
「どこが勝つか分からない試合ばっかりだと思います。もちろんローマ、アヤックスもですけど、新しいチームも、このようにヨーロッパで戦うことができる。どのチームもこういう拮抗した試合が当たり前になってきている。これが世界の成長。その最前線を行っているヨーロッパの成長なのかなと思います」
ヨハン・クライフ・アレーナのバックスタンド1階席はほぼ満員。その中で繰り広げられるテクニック、パワー、スピードの応酬。リリー・ヨハネスという16歳のアメリカ人MFは45分、体幹の強さで知られる熊谷に身体を当てて競り勝ち、見事に同点ゴールをアシストした。この環境、この対戦チーム、この対人で試合を重ねれば自ずと『個』のレベルが上がるだろう。
「やっぱりここは誰もが目ざす舞台ですし、そう簡単に立てる舞台でもない。それでも、日本人の選手たちも現時点で何人も出てきています。自分自身もこの舞台で戦える姿を、もっともっと出していきたい」
アンカーを主戦場にする熊谷は、CBでもプレーする。すると南は右SBに移る。また、南は3バックシステムの左CBを務めたこともある。ローマは多種多彩な戦術で戦うチームなのだろうか。
「戦術的にはバラエティに富んでいるかと言われたらそんなことはなくて、正直、いるメンバーで回すしかなく、試合数も多いんで。その中でいろんなところができる選手が回しているというほうが大きいのかなと思います。このチームでは一応、ボランチとして来ましたが、私自身、センターバックもできるんで、チームの助けにはなるのかなとは思っています。そういった意味では、南のサイドバックもあるという感じです」
今週末、セリエA首位のローマは、2位ユベントスと直接対決を迎える。
「自分たちのこのチャンピオンズリーグの旅は終わった。ここからパリオリンピック・アジア最終予選まで6試合、中3日でずっと試合があるんで正直、ほんとに落ち込んでいる暇はない。狙えるタイトルはセリエAとコッパ・イタリアしかないので、まずしっかり回復してチーム一丸となってユーベに勝ちたい」
オリンピック・アジア最終予選も2月24日に平壌で、28日に東京で試合と、こちらも中3日だ。ここまでタフな日程は?
「いや、やってきたんじゃないですかね。あんまり覚えてないですけど」
どこか記憶の彼方に眠っている厳しい連戦。そこにまた欧州での12年の積み重ねを感じる。
「そうですね。まあ12年、歳を取っているんで、それだけ身体の負担もきますけども。寝たら治るような歳じゃないんで、そこはもうやるしかない。やれることを、しっかりやりたいなと思います」
取材・文●中田 徹
