カタールW杯で貴重な経験。岐阜の上野優作監督が、J3の現場に落とし込もうとしている世界基準
「代表での経験を踏まえて『強度のあるチーム』を作りたいなと考えています。ボールにアプローチに行く強度、ぶつかり合う強度、守備の時に移動するスピード、具体的に言うと、時速14キロ以上のランニングなんですけど、それが試合で何パーセント出ているかといった点を大事にしながら戦っています。
岐阜では数字をフィジカルコーチが管理していますが、試合をこなすごとにデータが向上しているのは確かです。J2の中位以上でやっていけるレベルに持って行こうと。そこにいないとJ2昇格は達成できないと見ています」と、指揮官は改めて強調する。
JFAの反町康治技術委員長も「ワールドカップ上位国には、ボールを奪い切れる選手が複数いる。アルゼンチンが筆頭で、デ・パウルやエンソ・フェルナンデスなど5〜6人はいる。しかし、日本には遠藤航(シュツットガルト)1人しかいない。それを増やしていくことが重要」という話をしていた。上野監督もそれを理解したうえで、デュエルやスピードといった強度を研ぎ澄ませていくべきだと考えている。
「我々の攻撃面で言うと、スピードのある選手が多いので、背後の抜け出しという強みをより発揮できるように仕向けていこうとしています。スピードも強度の1つですし、それが高まれば、敵に脅威を与えられる。守備面のデュエルや当たり、寄せももちろん大事ですけど、チームのストロングを出していくことが勝利への近道かなと感じます」
日本代表の森保一監督も「形にとらわれず、選手たちにはそれぞれの良さを最大限出してもらいたい」と長所を活かす重要性を口癖のように語っている。2年間、共闘してきた指揮官の哲学は、自然と上野監督の中に染みついているのだろう。
「森保さんとは一緒に仕事をするなかで、多くの影響を受けてきました。選手とコミュニケーションを深く密に取る姿勢は特に凄いなと感じました。出迎え・送り出しなんかは有名ですけど、とにかく選手とじっくり話し込む。強固な信頼関係を築いて、チームを作っていく。そのアプローチはすごく勉強になりましたね」
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深い絆が生まれていけば、チームの一体感は増すだろうし、いざという時に勝てる集団になれる。上野監督は代表コーチの経験からそう思い至ったのだろう。
上野監督は神妙な面持ちで語る。
「森保さんとのエピソードで一番、印象深かったのは、ワールドカップ前のドイツ遠征の時に『優作は何のために仕事してるの?』と、ふと聞かれたことですかね(笑)。
『チームと選手が良くなるためですかね』と答えましたけど、『そうだよな』って。『いきなりそれ聞いてきたか』『何か間違ったこと言ったかな』って感じでしたけど(苦笑)、指導者の仕事はやっぱりチームが勝つため、選手が成長するために努力するってことに尽きるんですよ。
それは育成をやっていても、監督としてJクラブを預かっていても一緒。より高いレベルに行けば行くほどプレッシャーがあるのは確かですが、どこにいても『今日が最後かもしれない』っていう覚悟を日々、持って取り組んでいます。そういう心構えのようなものは森保さんから学んだことかもしれませんね」
確かに代表時代には修羅場もあった。特に大きかったのが、2021年10月のカタールW杯最終予選・サウジアラビア戦で苦杯を喫し、序盤3戦2敗という崖っぷちに立たされたこと。あの経験は上野監督が今後、指揮官を続けていくうえで大きな糧になるはずだ。
「スタッフミーティングで『メンバーを変えなきゃいけないな』という意見が出て、『じゃあ、どうするか』となった時に、『練習で守田(英正=スポルティング)と(田中)碧(デュッセルドルフ)が良かったですよ』という話になったんです。
サウジ戦に出なかった選手をヨコさん(横内昭展=磐田監督)が主に見ていて、僕はサポートしていたんですけど、確かに彼らはよくやっていた。ぶっつけ本番でしたけど、森保さんはメンバー、システムを変えるという決断を本当によく下したと思います。監督は決断力が大事なんだなと痛感しました」
サウジ戦から次のオーストラリア戦に向かうまでの間、代表では吉田麻也(シャルケ)が中心となって選手同士が話し込む姿が見られたが、岐阜が4〜5月にかけて4連敗した時も、庄司悦大や宇賀神友弥らベテランが中心となって選手ミーティングを実施。一体感を醸成してくれたという。
上野監督が選手と良好な関係性を築いていたから、自発的なアクションが見られたのだろう。その現象は森保ジャパンと大いに重なる。
最終的に森保ジャパンはカタールW杯で2大会連続ベスト16進出という一定の成果を残したが、上野監督が率いる岐阜は今季のJ3でどうなっていくのだろうか。その行方を期待しつつ見守りたい。
※第2回終了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
