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オーストラリアの兄弟が作った究極のマシン

サーキットを6周した辺りで、セミスリックタイヤの表面が軽く溶け出した。グリップが増し、自信が高まる。スーパーチャージャーで過給される2.4L 4気筒エンジンが、8500rpmめがけて鋭く回る。

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仮にアリエル・アトムとケータハム・セブン 620Rが結ばれて、最愛の息子が誕生したら、こんなクルマに仕上がるだろう。秀でたDNAが合成され、素晴らしい結果が導かれることは想像に難くない。


スパルタンモーター・スパルタン・プロトタイプ

この小さなスーパーマシンを生み出したのは、オーストラリア・シドニーに拠点を置くスパルタンモーター社。双子の兄弟が営んでおり、グレートブリテン島のアングルシー・サーキットへ向かう途中、11時間の時差を考慮しつつリモートでお話を伺った。

ニックとピーターというパップ兄弟が、究極のドライバーズカーを作るために投じてきた努力を、情熱的に口にする。恐らく、クルマ好きなら1度は想像したことのあるテーマだと思う。

理想的なスタイリングでボディを仕上げ、最高のエンジンを有能なシャシーへ積む。見た目は清潔感がある方がいい。技術的には純粋な方がいい。そうして誕生したのが、スパルタンだ。

スパルタンの雰囲気は往年のレーシングカー、ローラT70に似ている。車重は700kgで、ロータス・エリーゼ S1より軽い。瞬発力ではフェラーリ296 GTBにも引けを取らない。

読者がご想像する、理想のマシンとはどんなものだろう。彼らと年代が同じなら、そう遠くはないのではないだろうか。

高校卒業後にデューンバギーを自作

カーボンファイバー製なことを隠さない、曲面が美しいボディで包まれたスパルタンは、タダモノではない。大きなリアウイングも、お飾りではない。

パップ兄弟は高校を卒業して間もなく、大破したバイクのコンポーネントを利用し、オフロード用のデューンバギーを自作した経験を持つ。父親がエンジニアだったこともあり、若くして旋盤や溶接には慣れていたという。


スパルタンモーター・スパルタン・プロトタイプ

オーストラリア限定モデルのクライスラー・ヴァリアント・チャージャーや、フィアットX1/9、ランボルギーニ・ウラッコまで、様々なクルマへ乗り修理もしてきた。しかし、結婚して子供が生まれたことで、大人しくしている期間が続いた。

それでも、デューンバギーで味わった輝かしい記憶が消えることはなかった。子育てが落ち着き始めた2007年、兄弟の心は再燃。ドゥカティ1198Sというスポーツバイクの2気筒エンジンを利用した、シングルシーター・マシンへ着手したという。

オーストラリア人らしいユーモアに溢れるピーターが、スタイリングを担当。少しドライなニックが、シャシーを設計した。エンジンのパワーはチェーンで駆動され、ドレクセラ社製のリミテッドスリップ・デフを搭載。車重は300kgに仕上がった。

その後、ホンダ・シビック・タイプRから拝借したKシリーズ・ユニットを載せた、279psの2シーターマシンへ展開。最終的に、筆者が試乗させていただいた、量産版へ導かれたという。かなり端折っているけれど。

パワーウエイトレシオは666ps/t

このスパルタンは、量産仕様へ限りなく近いものの、プロトタイプ。とはいえ実際に運転してみれば、見事な仕上がりにあることは疑いようがない。

ミドシップされたエンジンは、非常に高精度なメカニズムだとわかる。シャシーは挙動を予想しやすく落ち着いている。コーナーではアクセルペダルの加減で、フロントノーズの向きを調整しやすい。中速コーナーでは、ピタリと安定している。


スパルタンモーター・スパルタン・プロトタイプ

いずれも、偶然で生まれたわけではない。トラクション/スタビリティ・コントロールも、アンチロックブレーキも備わらない。「それらは必要ありません」。ニックが笑いながら答える。

パワーウエイトレシオは666ps/tに達するが、彼らの考えは正しい。15年という長い開発期間によって、課題は解決されている。政府の新規事業に対する補助金もあったとはいえ、自己資金で大部分がまかなわれたため、時間の短縮は難しかったとも明かす。

ピーターが振り返る。「進化を得るには時間が必要でした。これを1年やそこらで仕上げることは不可能です。間違いは避けられませんし、修正にも時間が掛かります。2人とも、かなりこだわる方ですから」

世界クラスの技術者も、スパルタンの開発には関わっている。ダブルウイッシュボーン・サスペンションや、スチール製スペースフレーム・シャシーの設計・製作には充分な知識と技術を備えていたが、実際のセットアップには相応の経験も必要だった。

この続きは後編にて。