ガレス・ジョーンズ氏と、95年ぶりにナショナルオープンタイトル&ローアマを同時に獲得した蝉川泰果(撮影:上山敬太)

写真拡大

「日本オープン」では、7年前からJGAナショナルチームのヘッドコーチを務めるガレス・ジョーンズ氏の教え子たちが躍動した。蝉川泰果(東北福祉大4年)がアマチュア優勝の快挙を成し遂げたのを筆頭に、杉浦悠太(日本大学3年)が3位タイに。また、ナショナルチームOBの比嘉一貴が2位、金谷拓実が5位と、アンダーパーが5人だけというタフなセッティングのなかで、現役&OBの4人がアンダーパーをマークしたのだ。
大会期間中、毎日ナショナルチームのメンバーやOBたちに声をかけていたジョーンズ氏に、95年ぶりの快挙について話を聞いた。「ベリー・エキサイティング! アメージング・ウィーク! タイガだけでなくカズキがいて、その下にユウタがいて、タクミもトップ5に入った。ナショナルチームで一緒に時間を過ごしてきた先輩たち、そして現在のメンバーが一緒にいいものを作り上げてきたのだと思う」と目を細める。
タフなセッティングのなかで守りに入らず最後までピンを攻め続け、名実ともに日本一となった蝉川については、「彼は非常にアグレッシブにプレーした。それはおそらく、1カ月前にフランスで開催された世界アマチュア選手権で、学んだことだと思う。5打リードで迎えた最終日に守りに入る戦略を選び、逆転されて個人優勝を逃した。日本オープンでは特に9番が攻めていったところだと思う。それが彼の強みでもある」と話す。
グリーン手前が池となっている9番パー4は、3日目だけティが前に出されて、319ヤードのワンオン可能ホールに。刻む選手もいるなかで、トップに立っていた蝉川は、池ポチャのリスクを怖れずに果敢にグリーンを狙ってワンオンに成功。これを1パットで沈めてイーグルを奪っている。
「同時にまだたくさんのことを改善できる」とジョーンズ氏はいう。「特にコースマネジメントは非常に伸びしろがある。まだまだ伸びていく可能性があることに、私自身も興奮している。彼はフェラーリのようにパワーがすごい選手なので、それを止めようとは思っていない。ガーッといくところを取り除くわけではなく、よりスマートにフェラーリのエンジンを使ってほしいと思う」
蝉川自身も優勝会見で「ジョーンズさんやビショップさん(アシスタントコーチのクレイグ・ビショップ氏)、テクニカルコーチの方に、ショートゲームに課題を挙げられているなかで、こうして勝てるということは、まだまだ成長できる伸びしろがある」と言っている。蝉川は日本オープンで、パーキープ率やサンドセーブ率でも高い数字を残しているが、ショートゲームに磨きがかかれば、よりアグレッシブにピンを攻めていくことが可能かもしれない。
最大8打あった2位との差が、最終ホールでは2打差となり、ドキドキしながら蝉川のプレーを見ていたジョーンズ氏だが、攻めの姿勢については日頃から指導を行っている。「いつも選手たちに言っているのは、『ティイングエリアでドライバーを打たない理由があるか?』。まずドライバーというのが最初のオプションで、打たない理由があるのであれば、オプションBを考えさせる。オプションBで短いクラブを持ったとしても、守りの感情ではなくアグレッシブにスイングしていくことは変わらない。それを選手たちに伝えているつもりです」。
最終日の朝、ジョーンズ氏は6打差のトップからスタートする蝉川に「きょうのプランは?」と話しかけた。すると蝉川は「8アンダーを出したい」。それを聞いたジョーンズ氏は「Oh!」と驚いた。「それを達成するためのプロセスは?」という次の質問には「うーん…」とすぐに返答が帰ってこなかったという。
「だから現状ではとにかく、アグレッシブに攻めまくるのが彼のプロセス。それだけしかない。ここから粗さをなくして洗練させていくことが必要。そのためには海外に行ったり、日本オープンのような競技力の高いところに出て行って、よりプレッシャーがかかる状況で何ができるかを学習していく必要があると思う。
彼はヘッドスピードも速いし、ボールスピードも速いし、飛距離が出る。一方で彼が目指しているのは国際舞台で活躍することなので、世界レベルでいうと飛距離はスタンダード。そういう意味で飛距離は強引に伸ばそうとしなくてもいい状況まで上がってきた。飛距離を大事にしながらも、それ以外のレベルをどんどん高めていって、世界で通用するアスリートに変わっていければいい」
JGAナショナルチームは海外のアマチュアの試合や、国内のプロの試合で結果を残してきたが、松山英樹以降、世界のトップで通用するゴルファーは出てきていない。それについてジョーンズ氏は「母数」と「選手層」を挙げる。
母数については「ヒデキは日本から世界に出て行った1人。その母数を増やしていくことができれば、海外で活躍できる選手も増えると思う。いま21歳〜25歳くらいの選手をアマチュアのときからずっと見てきましたが、彼らに時間を与えれば達成できるのではないでしょうか。ただ一方で、まずは日本で活躍してどうやってトーナメントで勝つかを学び、資金的にも安定した土台を作ってチャレンジしてもらいたい」と語る。
また、選手層については、「同時に男子のプロの世界はすごく選手層がディープ(厚い)。アメリカでもヨーロッパでもアジアでも、勝つのはそんなに簡単ではない。女子にも強い選手はたくさんいるが、男子の選手層の厚さとは比べものにならない。『日本で成功して海外に行くぞ』と思う選手を増やしていけば勝ってくれると思う」という。
世界を見据えているのは蝉川だけではない。ともに24歳の金谷拓実と桂川有人、22歳の中島啓太、20歳の久常涼らナショナルチームOBに加え、22歳の河本力、24歳の大西魁斗と岩崎亜久竜ら、今年台頭してきた若手たちも世界最高峰の舞台での活躍を目指している。彼らは全員、2週前に日本で開催された米国男子ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」に出場し、世界トップレベルを経験した。ジョーンズ氏が思い描く未来のカタチは、確実に近づいてきている。(文・下村耕平)
<ゴルフ情報ALBA.Net>