『イヴの時間 劇場版』福山潤×佐藤利奈×田中理恵14年ぶりの邂逅
その第3弾は『イヴの時間 劇場版』だ。
主人公の高校生・リクオを演じた福山潤さん、法律の目をくぐってアンドロイドと人間を分け隔てなく扱う喫茶店「イヴの時間」の女性マスター・ナギを演じた佐藤利奈さん、リクオの家でハウスキーパーの役割を果たすハウスロイド(アンドロイド)のサミィを演じた田中理恵さんに作品やキャラクターについての想いを、あれこれ語ってもらった。作品テーマでもある「AIと人間の関係性」にも話が及び、単なる「思い出話」に留まらないトークとなった。
▲(左から)田中理恵さん、福山潤さん、佐藤利奈さん──皆さんはそれぞれどういう思いを持って、当時『イヴの時間』に臨まれましたか?
福山 当時僕が感じていたことは「普通の作品をやりたい」ということだったんですよ。
──「普通の作品」というのは?
福山 ちょうど当時は、僕のキャリアとしては若手から少し抜けたくらいだったんですけど、極端に言えば役者の会話(お芝居)ではなく作画のアクションで見せる方にウエイトが置かれた作品が、やっぱりアニメでは多かったんです。あるいは、本当にアーティスティックに寄せた作品では、逆に我々声優はあまり関わらなくて。
『イヴの時間』はAIという近未来の題材を扱いながら、会話劇が繰り広げられる。しかも、SFですけれど「人のことをどう思うのか」「どう思われているのか」「自分はどうしたいのか」といった、身近な人間同士の関係性にスポットを当てた「普通の作品」というカテゴリーにガッツリ入っていたんですよ。
その中で、自分が今までやらせて頂いてきた少年役の土台の上に、何か新しいことが出来ることがあるのではないか? という思いがありました。収録方法から作品のテイストまで、全てポジティブに楽しく臨ませて頂いた思い出があります。
佐藤 アフレコの段階でもう映像はほとんど出来上がっていたような状態だったんです。SEも入っていて、カメラワークも完成映像と同じ状態で。「うわ、すごい作品だ!」って(笑)。実写映画みたいなアニメーションの空間の広がり方……パースであったり、人物に寄っていくときのカメラの動き(ズーミングによる画角変化)を見て、「初めてこういう感じのアニメ作品に携わらせてもらったかも?」っていう感じで。
収録方法も、全員で揃って録るのではなくて、別録りした人の声を聴きながら、そこにあえてバンバンセリフを被せて言っていくというお芝居の仕方が、心地よくて。すごく贅沢な時間だったなぁって。
みんなが「新しいものを作るんだ!」「俺たちはこういうのをやってみたいんだ!」っていう、熱量の高さがすごく感じられて。そこに混ぜてもらえたことが、今でもすごく幸せなことだったなと思います。
──田中さんはいかがですか?
田中 あの時の年齢の私としては、すごく特殊な役を演じることが出来るのかなっていう不安と……。それとこれはすごいチャレンジだなっていうのがありましたよね。あの時の私の歳って……。
福山 僕ら、3人みんな20代でした。
田中 でも振り返ると、20代だからこそあの(ナチュラルな)芝居が出来たのかなって。見返したときにはすごく新鮮だったり、「ああ、みんな(の演技が)若いぃ〜!」とか思ったりして(笑)。と同時に、すごくメリハリをつけなくちゃいけないというプレッシャーの中でサミィを演じていたのを思い出しました。機械然としてるロボットの時と、全然違う人間っぽい時の演じ分けは、当時難しかったですね〜(笑)。いや、今やっても難しいんじゃないかなと思っていて。
佐藤 なんと、そうだったんですね。見ている我々としては、そんな感じには思わなかったです。
──ミニシリーズのWebアニメから劇場作品になったわけですが、その話を聞いたときはどう感じられましたか?
福山 嬉しいという思いがまずありました。いうなれば日常を描いている……登場人物それぞれの中に変化や成長を求めていったり、今ある問題を寓意的に置き換えている作品が確実に受け入れられていることを感じられましたから。ただ、当時の僕は若かったので、もし劇場版にするのであれば、それ用に再度録り直したい思いもあったんです。
──アフレコはし直していないんですね?
福山 ええ。今にして思えば、この形でよかったなと思ってます。というのも、(物語の)時間の連続性はあっても、芝居自体に同一性はないので。6本取り進めていく中で、いうなれば収録ごとにブリッジがはいったお陰で、ナギたちの気持ちについて、その都度の解釈と熟成があって、そこがシリーズとしてちゃんと繋がっているので、仮に違和感を持つところがあったとしても、それはありなんじゃないかなって。
佐藤 劇場版になるって聞いて、嬉しかったですよね。特にナギとしては、プラスアルファされたシーンが彼女にとって意味のあるものだったので。(EDロールで)物語の始まりみたいなところが補完されて、そこで私も「ああ、なるほど!」と知った部分も大きかったです。
でもこれを全部知っちゃった上で、演じることにならなくて良かったなって逆に思ったりもして。それだときっと、自分の中でナギの気持ちがすごくウエットな方向になってしまいそうで。潮月と沢山の経験をして乗り越えて、今イヴの時間を開いているから。私が感じるような感傷的な思いは、現在進行形ではないかもしれなくて。それをいっぱい呑み込んだ上で、カラッとした気持ちを出すということが、あの頃の私には出来なかったんじゃないかって思うんです。
でも今も、そういう(悲しい過去を越えた上での陽的な)ナギを演じられるんだろうか?っていうのもありますね。年齢を重ねてしまったが故に、いらないことも沢山考えるようになってしまっているので、それが吉とでるか凶とでるかは、『イヴ』に関しては分からないところがあるんです。でも劇場版は、一貫した一つの物語にして下さった感じがあって、それが嬉しかったです。
(C)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA/DIRECTIONS, Inc.
田中 劇場版って聞いて、すごく重みがある感じがしました。それと私、全部で6話あったことを忘れていて(笑)。というのも、自分が出演していた話数と出てない話数があったので。
佐藤 あれ!? そうでしたか!
福山 確かにそう。サミィが出て来ない話も割とあるので。
田中 「6話もやってたんだ!」って。パッケージになった時に、「そういえばそうだった!」って初めて知ったみたいなところがあったので。それが劇場版として一気に観られる形で凝縮された感じがあって。それで今回の『THE PLAYBACK』のお話を頂いて、改めて観返したんですけど、「10年以上前の作品?」という気持ちがありますね。絵の感じも、最近の作品といっても全然通じますし。でも自分のお芝居だけは、なんともしがたいものが……(苦笑)。
福山・佐藤 (笑)
佐藤 それは10年以上も私たちを苦しめてますよね!(笑)
福山 でも、それを言い出したら……ね!
田中 いや、もう最初の一言で芝居の拙さに「ああ!」って悶絶ですよ(笑)。そういうところに目がいってしまうのは、いわば職業病ですよね。まぁ、そういうところはありましたけど。ずっと見ていくうちに、今同じような感じで出来るかな? っていうのも、自分の中であって。すごくナチュラルに演じているところもあったりして。今の自分がやったら、変に癖がついちゃって、「前の方が良かった」って観た人にいわれちゃうかも? なんて、客観視もしてました。とにかく劇場版になった時は、「すごいな! 嬉しいな!」って思ったのと、いつか『イヴの時間』の続編作品をやれたら素晴らしいのになって(笑)。そんな風に思いながら、観直してました。
──AIの感情というテーマに関しては、むしろ現代の方がより「リアル」な感じがしますが、そこはいかがでしょうか?
福山 恐らく当時AIをどう描くかについて、監督たちは相当悩んだと思うんです。作品を観る人たちは「そう遠くない将来にアンドロイドやAIが現実になるかもしれない世界」に生きているわけなので、そこでロボット然とした形にすべきなのか、みたいな線引きの部分は、かなりデリケートなものですから。
その結果、『イヴの時間』で出しているアンドロイドの喋り方ややりとりが、Siriやアレクサが定着したお陰で、思わぬ親和性を作ってくれるようになったんじゃないかと思ってます。
田中 私としては、もっと早く進化したAIが一般家庭に導入される世界が来てほしいなって思ってる方なんです。ただ、そうなると「人間の存在価値」と抵触する部分が出てくるのかなって。自分たちの職業でいえば、AIのボイスが滑らかに喋るという話を聞くと、「それって、私たち声優のお仕事がなくなっちゃうのでは? それは困っちゃうなぁ」なんて考えちゃうこともありますし。
佐藤 10年前の段階では『イヴの時間』のようなAIは、年代設定は近未来だけど「まだまだ先の話だろうな」って思ってました。でもここ数年で、一気にグッと近づいてきたなぁっていう感じがあって。そういう世界観を構築された吉浦監督、すごいな!って。
と同時に、私個人は完全にドリ系(『イヴの世界』での、アンドロイド愛好者を指すスラング)で(笑)、全ての機械には何かしらの感情があるのではないか、と思っているタイプなんですね。現代のSiriやアレクサたちには、そこはまだないのかもしれない。でも今後、そういうのが出てきた時は、ちょっと怖いなっていう怯えもありますね。その時に私たちは一緒に過ごしていけるのかしらって。
──改めて観直して感じた、作品の魅力についてお聞かせください。
福山 この作品でなぜ多様性や人権問題が起こるのかについて客観的に受けとめられるかといえば、その対象が「人」ではないからだと思うんです。ストレートに人種差別問題を描くとなると、観る側にフィルターがかかったり送り手の「目的」が見えてしまうんですが、AIという設定の中でなら誰もが偏見なく観られる。アニメーションでこういう世界を描くことって、とても重要なことだと僕は思うんです。
田中 うんうん。
福山 この作品は時間が経てば経つほど、シンプルにそうした人権や差別問題が分かる作品として取り扱われる可能性もあるし、語っていく意味のある作品になっているんじゃないかと思っています。と、難しいことを言いましたけれど、人の心に訴えかけるものがたくさん入っている作品でもあるので、素直にエンターテイメントとして観た方それぞれが感じたことを思って頂いて良いですし。そういった「余白」もかなり楽しめる作品です。
田中 素晴らしい!
佐藤 「アンドロイドも人間も区別しません」っていう世界を目指してる話ですもんね。それはつまり、国とか人種とか関係なく、思いやりを持ってお互いのことを知っていこうねっていう普遍的なテーマで。どうやって仲良く生きてくかが描かれているということですよね。もうすごいの一言です。あとは、吉浦監督のキラリと光るピンポイントでの笑い(のあるシーン)。
田中 そうそう!
佐藤 本当に吉浦監督にしか出来ないセンスですよね。『イヴの時間』以降の吉浦監督の作品にも、ちょこちょこそうした笑いのテイストが入っていて。そこがもう堪らなく素敵なんですよ! ぜひ『イヴの時間』と共に吉浦監督の作品を観て頂けると、すごく楽しめると思います。今後作られるであろう、吉浦監督の未来の作品を、私も楽しみにしています。
田中 いやぁ、私ボキャブラリーがなくて上手く言葉にできないんですけど(笑)。でも本当に『イヴの時間』をもう一度観返して頂きたいです。また若い世代の方が初めて観た時に、この作品をどう感じたかをすごく聞きたいですよね。
──つまりU-NEXTでぜひ観てもらいたいと?(笑)
田中 そういうことなんですよ。ですから、観た時に感想をぜひ呟いてほしいですし、面白いと感じたら友達にもちょっとお勧めしてほしいなって。もうみなさんがインフルエンサーになって頂いて(笑)。そこでまた人気や注目度が上がれば、続編が出来るかもしれないですし。そうなったら良いなと思っています。
(C)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA/DIRECTIONS, Inc.
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