元マラソン選手の千葉真子さんが女子選手への健康について想いを語る【写真:荒川祐史】

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ブログで公表した過去の体験、「15年間、無月経」を明かした理由

 陸上でアトランタ五輪に出場した元マラソン選手の千葉真子さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じ、現役時代の生理とコンディショニングについて経験談を明かした。競技を本格的に始めてから引退する30歳まで15年間、無月経だったことを自身のブログで公表。その理由とともに、女子選手が健康を守りながら競技を続けるために、選手、指導者、保護者に対しての想いも語った。(文=長島 恭子)

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「私の現役時代は、スポーツ選手が生理の話を公にすることはありませんでした。でも今は、新谷仁美さん(積水化学)を始め、選手自らが発信する時代。生理に対する色々な悩みがあるなか、選手それぞれがうまく付き合いながら競技生活を送る話を読むうちに、『そういえば私も無月経だったな』と振り返るようになりました」

 現在、市民ランナーの指導や陸上の普及活動を行う、96年アトランタ五輪出場のオリンピアン、千葉真子さん。昨年の夏から自身のブログに、現役時代の生理の経験をつぶさに綴るようになったきっかけを、こう話す。

「私には2人の娘がいます。小学4年生の長女は、恐らくそう遠くないうちに初潮を迎えるだろうし、親としては当然、娘の未来の選択肢を守りたい気持ちがあります。でも、果たして自分の娘だけを守ればいいのか? そう考えたときに、言いにくいことでも、自分の失敗を次の世代に役立ててほしいと思ったんです。

 それで、未来のアスリートたちに向けて母親的な立場から、無月経だった経験を公表することにしました」

 15年間、無月経。千葉さんの告白は、衝撃的だ。

 選手時代、それほど長い年月、生理がまったくなかったことを、どう思っていたのだろうか? その疑問に千葉さんは、「競技に夢中になるあまり、生理のことは後回しになっていた」と答える。

「初潮を迎えたのは中学2年生頃だったと思います。その後、陸上競技を本格的に始めた高校時代から、現役を引退する30歳までは、確実に一度も生理がありませんでした。

 私の高校の陸上部は、中学時代にある程度活躍した選手が集まるような高いレベルだったんですね。ですから、中学3年の秋に駅伝の助っ人として陸上を始めた私は入学当初、補欠どころか、レギュラー選手の付き添いにもなれず、皆についていくので精一杯。『寝て・起きて・走る』という日々をくり返し、毎日、疲労困憊でした。

 頭の中は、レギュラーになりたい、全国高校駅伝に出たいという想いでいっぱい。生理がないなんてやばいということさえ気づけませんでした」

不確かな「生理のウワサ」に惑わされた現役時代

 当時はスマートフォンでちゃちゃっと調べれば、誰もが簡単に生理の知識を得られる時代ではない。情報が少ないうえ、陸上競技に没頭していた千葉さんの生理の知識は、「ウワサの類」だけだった。

「高校卒業後は実業団に進みましたが、その頃に『今、生理がなくても競技をやめたらくるらしいよ』と耳にしました。世間知らずで陸上ばかりやってきた私は、『あ、そうなんだ! じゃあ、なくても心配しなくていいんだ』と思い込み、安心してしまいました。

 20代の半ばのことですが、『移籍してきた選手が監督に、生理2日目はお腹が痛いので練習を休むと言ったらしいよ』とチーム内でウワサになったんですね。当時は、選手がそんな申し出をすることさえ珍しかった時代。私も『へぇー。そんな人いるんだぁ』とビックリしたことを覚えています」

 一方で、千葉さんはぼんやりと、「引退後は結婚して、子供を産みたい」と競技後の人生をイメージしていた。

「『そういえば(生理が)ない!』と思ったのは20代も後半。しかも、生理のない期間をよくよく数えてみると、すごい年数になっている。そのとき初めて、『こんなに長い間、生理がなくて、本当に大丈夫なんだろうか?』と考えるようになりました」

 そもそも、現役をやめたら生理がくるというウワサは本当だったのか? いくらなんでも妊娠はできないのではないか――。将来の不安と、子どもを産みたい気持ちとが入り混じるなか、しかし、医者にかかることもできなかった。その理由も、やはり「ウワサ」の影響が大きかった。

「『薬での治療を始めると、女性らしい体つきになる』。そう聞いていたので、体重が増えてしまい、競技のために今までやってきたことは何だったんだ、となるのが怖かったんです。

 太ったら選手として終わるのではないか、治療を始めたら競技を諦めないといけないのかなと思うなかで、やっぱり指導者には相談できなかった。親にも心配をかけたくなくて、言えませんでした」

 そして、06年、千葉さんは30歳で引退する。

「選手としてはやり残したこともありました。でも、結婚・妊娠のことを考えると、無月経の治療もあるし、当時は彼氏もいなかったし(笑)、30歳がタイムリミットだと考え、引退を決めました」

 ところが引退後すぐ、15年間なかった生理が再開。「本当に、きつねにつままれた気持ちだった」と振り返る。

「何事もなかったように、毎月、きちんと生理がきたので、びっくりしました。また、結婚後、幸いにもすぐに子どもを授かり35歳で妊娠。恥ずかしながらそのとき初めて、産婦人科に行きました」

未来のために伝えたいメッセージ、選手の指針となるガイドラインを

 言わずもがな、千葉さんのケースは非常に幸運だ。では、第二の千葉真子を生まないためにはどうすればよいのか? 千葉さんは、選手やその家族、指導者の指針となるガイドラインを設ける大切さを訴える。

「今は皆、情報を持っているとは思いますが、もしかしたら私のようにまったく情報に触れない人、人から入る情報に振り回されてしまう人もいるかもしれません。

 子どもたちはとても狭い世界で生きています。彼女らにとってはやっぱり目の前の大会や記録が大事。無月経や月経不順になったとしても、大事な時期に『体を休めたら?』と言われれば、誰だって不安だしイヤだと思います。

 だけど、例えばガイドラインに、『3か月間、生理がなかった場合、大事な大会が終わった後、一度、病院で検査を受けましょう』とあれば、選手も『生理がないって、それほど体にとってよくないことなんだな』と理解し、休むことへの抵抗感がなくなったり、体のことをきちんと考えられるようになったりするのではないでしょうか。

 また、女性をみている男性の指導者にとっても、ガイドラインがあることで、月経について選手と話す気恥ずかしさが払拭されたり、『セクシャルハラスメントだと思われないか』といった心配がなくなったりもすると思います。

 生理のことは選手だけでなく、指導者、そして保護者が共通認識を持つことが大切です。ガイドラインがあると、その点でも問題がクリアできます」

 千葉さんはまた、ガイドラインだけでなく、先輩アスリートたちの成功体験を伝えることも大切だと話す。

「正しい知識を持っていた、あるいは早めに治療したおかげで、生理をコントロールしながら競技人生を謳歌しています、という言葉。生理があるほうが、結果的にはよいパフォーマンスが出来るという研究結果。こういった成功例をあげることで、選手の不安もなくなりますよね。

 何より、将来、子どもを産む、産まないは関係なく、体に関する正しい知識や情報を知ったうえで、自分の人生を選択していく。そのことが、とても重要だと思っています」

■千葉 真子 / Masako Chiba

 1976年7月18日生まれ、京都府出身。96年アトランタ五輪女子1万メートルで5位入賞、97年世界選手権(アテネ)では日本女子トラック長距離種目初となる銅メダルを獲得。98年にマラソンに転向。03年世界選手権(パリ)で銅メダルを獲得した。北海道マラソン優勝3回。マラソンの自己ベストは2時間21分45秒。06年に引退後はゲストランナーとして全国のマラソン大会に出演する他、「千葉真子 BEST SMILE ランニングクラブ」を立ち上げ、市民ランナーの指導や普及活動も積極的に行っている。また今春からルートインホテルズ女子陸上部のアドバイザーに就任。競技指導だけではなく、自身の経験も踏まえた総合的なサポートを行っていく。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。