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3姉妹 後発エスクァイア生産終了

執筆:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)編集:Taro Ueno(上野太朗)

トヨタのホームページ上でエスクァイアを見ると「21年12月上旬をもって生産終了」と記載されている。

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エスクァイアはミドルサイズのミニバンで、ヴォクシー&ノアの姉妹車でもある。


生産終了が発表されたトヨタ・エスクァイア    トヨタ

もともとヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店で販売され、トヨタ店とトヨペット店はこの2車種と同タイプのミニバンを用意していなかった。

そこで現行ヴォクシー&ノアと基本部分を共通化したエスクァイアを開発して、2014年にトヨタ店とトヨペット店から発売した。

そのためにヴォクシー/ノア/エスクァイアという3姉妹車を構成したが、エスクァイアはトヨタ店とトヨペット店のイメージにあわせて、内外装を上質に仕上げていた。

価格もヴォクシー&ノアに比べて少し高い。

そしてエスクァイアには、ヴォクシーやノアと違ってエアロパーツ装着グレードは用意されず、5ナンバーサイズの標準ボディのみだ。

このような商品力の違いもあり、エスクァイアの売れ行きが低迷して廃止されることになった。

トヨタ販売体制変更で生まれた「差」

エスクァイアの廃止について、トヨペット店では以下のように述べた。

「エスクァイアの受注は、2021年9月21日に終了した。以前は当店で販売している背の高い5ナンバーミニバンは、エスクァイアのみだった」


トヨタ・ヴォクシー/ノア/エスクァイア    トヨタ

「それが今ではヴォクシーとノアも購入できる。そのためにエスクァイアから、エアロパーツを装着したヴォクシーに乗り替えるお客さまも増えた。エスクァイアの売れ行きは下がり気味だ」

このコメントとおり、以前はヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店、エスクァイアはトヨペット店/トヨタ店の取り扱いだったから、トヨペット店でヴォクシーやノアは買えなかった。

それが2020年5月からは、全国の全店ですべての車種を買えるようになり、トヨタ店やトヨペット店もヴォクシーとノアの取り扱いを開始した。

その結果、トヨペット店でもヴォクシーが好調に売られ、エスクァイアは下がった。

直近の2021年8月の登録台数は、ヴォクシーが4243台(対前年比は91.5%)、ノアは3080台(92.7%)だが、エスクァイアは730台(41.7%)と少ない。ヴォクシーの17%にとどまる。

二極化進む アルヴェルでも同じ現象

全店が全車を扱う販売体制に移行すると、人気の高い販売しやすい車種は、すべての店舗で好調に売れて登録台数をさらに伸ばす。

逆に人気が下降気味の車種は、ユーザーを奪われて、ますます落ち込んでしまう。


トヨタ・アルファード(上)/ヴェルファイア(下)    トヨタ

この売れ行きの二極分化を明確に示したのが、アルファードとヴェルファイアの姉妹車だ。

以前はネッツ店が扱うヴェルファイアの売れ行きが、トヨペット店のアルファードを上まわった。

2015年に現行型へフルモデルチェンジされた後も、ヴェルファイアが多かったが、2018年のマイナーチェンジで順序が変わった。

アルファードがフロントマスクのデザインを派手に変更して、ヴェルファイアの売れ行きを追い抜いた。

この販売格差が2020年5月におこなわれた販売体制の変更で加速され、2020年下半期(7〜12月)の登録台数は、アルファードが9025台に達する一方、ヴェルファイアは1218台だから7倍以上の販売格差に至った。

そのために2021年4月のマイナーチェンジでは、ヴェルファイアのグレードが大幅に減らされた。

この影響で、ヴェルファイアの登録台数は1か月平均で400台前後まで下がり、アルファードは9000台前後だから大差がついた。

アルファードとヴェルファイアは、基本的には同じクルマなのに、全店が全車を扱うようになって最終的には20倍以上の販売格差となった。

リストラが狙い? 姉妹モデル不要に

トヨタが全店で全車を扱う販売体制に移行した目的は、国内販売のリストラだ。

その効果は明確で、販売体制の変更後、1年少々でエスクァイアやヴェルファイアは売れ行きを大幅に下降させた。


トヨタ・クラウン

エスクァイアは前述のとおり受注を終了しており、ヴェルファイアも次の大幅な改良で打ち切られるだろう。

ヴォクシー/ノア/エスクァイア、アルファード/ヴェルファイアといった姉妹車は、もともと販売系列があるために生み出された。

全店が全車を扱えば姉妹車も不要だ。

そして全店が全車を扱うと、車種ごとの販売格差が自然に広がり、廃止すべき車種も浮き彫りにされる。これらはすべてトヨタのねらいどおりだ。

トヨタは販売の低調な車種の廃止を既に進めており、マークX、プレミオ/アリオン、ポルテ/スペイド、プリウスαなどは、すでに終了した。

ルーミーの姉妹車だったタンクも廃止されている。

また全店が全車を扱うようになり、もともと販売の伸び悩んでいたクラウンは、登録台数がさらに下がった。

2021年の売れ行きは、1か月平均で約2000台だ。先代型がモデル末期だった2017年でも、1か月平均は2400台だったから、クラウンにとって全店が全車を扱う販売体制は不利に作用している。

その結果、クラウンをセダンからSUVに変更する話まで浮上した。

実際にトヨタ店からは「クラウンに乗っていたお客さまが、新たに取り扱いを開始したアルファードやハリアーに乗り替えるようになっている」という話も聞かれる。

リストラの中でも「創造」は必要

販売店の数も、以前に比べると減っている。

国内で展開するトヨタの店舗数(レクサスを除く)は、1990年頃から約20年間は、5000店舗前後で推移しており、2010年頃がピーク(5000店舗超)となった。


先日登場したトヨタ・カローラ・クロス    トヨタ

ところがその後は減少傾向に入り、2015年は約4800店舗、2020年には約4600店舗となった。

そして全店が全車を扱うと、実質的には、販売系列を撤廃したのと同じことだ。

以前はネッツ店とトヨタ店では取り扱い車種が違ったから、2系列が隣接した地域でも共存できたが、両店舗ともにトヨタの全車を扱えば厳しい競争関係に置かれる。

また以前はアルファードはトヨペット店、ヴォクシーはネッツ店の専売だったから、各車種が欲しいユーザーは、遠方でもその販売店まで出かけた。

しかし全店が全車を扱えば、その必要はない。購入しやすい自宅付近で買う。

そうなると地域性やサービスに応じて、販売店や販売会社の業績にも格差が生じる。

販売会社によっては、従来の新車店舗をカーシェアリングなどに切り替える動きも見られるが、販売規模の縮小は避けられない。

車種数も減るので、ユーザーにとっては、さまざまな選択肢が縮小に向かう。

先に挙げたトヨペット店からは「エスクァイアの売れ行きはたしかに低調だったが、5ナンバーサイズのボディと上質な内装に愛着を持つお客さまは多い。売れ行きが下がったのに、テコ入れを行わず、廃止されるのは残念だ」という声も聞かれる。

今後は環境対応、自動運転などの開発投資が必要で、なおかつ少子高齢化により、日本ではクルマの売れ行きが頭打ちだ。

リストラを行う事情は理解できるが、同時に新しいサービスを生み出す必要もある。

定額制でクルマを使えるKINTOはその1つだが、手頃な価格で購入できる運転の楽しい新型車にも期待したい。