現代では、エンジン2発の旅客機が主力ですが、これと置き換えられたのは4発機だけではなく、3発機も同様です。3発機は4発機よりパワーが、双発機より環境性能や燃費が劣り、操縦もこれらとは特性が異なるのに、なぜ生まれたのでしょうか。

DC-10や「トライスター」でお馴染み

 たとえばボーイング787型機やエアバスA350XWBシリーズに代表されるような、近年主力となっているジェット旅客機は、エンジン2基を装備する双発機が主流です。ボーイング747やエアバスA380などといった4発機も生産の完全終了が近づいている状態で、旅客型に関しては、どんどん双発機への置き換えが進んでいます。

 ただ、これより珍しいといえるのが、エンジンを3基備えた、いわゆる「3発機」でしょう。かつてはボーイング727やダグラスDC-10、「エルテン」の愛称で航空ファンに親しまれたロッキードL-1011「トライスター」、ツポレフTu-154など、全世界で隆盛を誇ったレイアウトですが、2021年現在では、旅客型では滅多に見ることができません。


JALのダグラスDC-10(画像:JAL)。

 3発機や4発機が次々に双発機に置き換えが進んだ原因はほぼ同じようなものです。かつて双発機は、長距離国際線など、近くに空港のない洋上飛行で旅客便を運航することができませんでしたが、エンジン自体の信頼性があがったことで、この制限が緩和されました。エンジンの少ない双発機の方が、燃料消費量が少ないなど経済的に強みがあるため、隆盛を極めるようになったのです。また、技術の進歩によるエンジンパワーの向上にともなって、3基分のエンジン出力を2基で賄うことができるようになったのも一因です。

 では3発機は、なぜ生まれ、どうして過去のものとなったのでしょう。3発機のデザインは見た目こそイケてると感じる人も多いかもしれませんが、垂直尾翼の一部をエンジンが占領するので、重量バランスも双発機や4発機よりもシビアであり、モデルによっては操縦にも癖が強いという特性があります。

 では、少し時計の針を戻して、ジェットエンジンの歴史から遡って見てみましょう。

3発ジェット誕生に深い関係「ジェットエンジンの進化」

 世界初のジェット旅客機は、イギリスのデ・ハビランド社が手掛けたDH.106「コメット」です。同機を皮切りに、ボーイング707、ダグラスDC-8など第一世代と呼ばれる旅客機が誕生しましたが、これらはいずれも4発機。その理由はエンジンにありました。

 エンジンの発達は、とうぜんジェット旅客機の性能向上に大きな影響を及ぼします。いわゆる旅客機では現在、プロペラ機、ジェット機ともに「ガスタービン・エンジン」というカテゴリーのものを搭載しています。草創期のジェット旅客機では、取り込んだ空気のすべてを圧縮して燃やすことで推力を得る「ターボジェット・エンジン」が使用されていました。

 その後、ターボジェット・エンジンのコンプレッサー(空気を圧縮する機械)の前にファンを取り付けることにより、ターボジェット・エンジンで作られる高圧高温の空気に加え、そのまま後方へ流す(バイパスする)空気を追加する「ターボファン・エンジン」が開発されます。現代の主流となっているのは、そのまま後方へ流す空気の比率を圧倒的に高めた、「高バイパス・ターボファンエンジン」で、これは1970年代初頭から広まり始めたものです。

エンジンと3発機にどんな関わりが?

 初期の3発機は、ホーカー・シドリのHS-121「トライデント」、ボーイング727、ツポレフTu-154などでカテゴライズされます。「第一世代」とも呼ばれる草創期の4発ジェット旅客機は、中長距離国際線用に設計されていたのに対し、これらのジェット旅客機は、中距離、そしてフライト時間の短い国内線にも使用できるよう、従来のモデルよりも小型化されており、機体寸法もそれほど大きくありません。


JALのボーイング727(画像:JAL)。

 ただし、これらの3発機も、第一世代後半のジェット旅客機にも採用された低バイパスのターボファンのエンジンを使用しています。これらにエンジンを4発積むと、燃費の面などでオーバースペックとなります。とはいえ1950年代には、双発機を対象に運航制限が制定されており、まだ需要の期待できる大西洋横断路線へ、双発機を飛ばすことはできません。これをカバーしつつ、短距離路線も効率的に運航できるという両面の条件を満たすのが、3発機だったといえるでしょう。

 このエンジンを3基搭載するスタイルは後進のモデルでも受け継がれますが、そのスタイルは、先述のものとは少々変わってきます。

3発機でもスタイルを変えた後進モデル その理由とは?

「トライデント」やボーイング727といった初期の3発機のスタイルは、エンジンが尾部に3基備わった「リアエンジン」といわれるスタイルなのに対し、より大きな、後進のモデルであるDC-10やロッキードL-1011は、エンジンの配置は左右の主翼に1基づつ、さらに垂直尾翼に1基といったそれまでのものとは変わったスタイルです。


フェデックスFedExのMD-11。DC-10を長胴、ハイテク化した改良モデル(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。

 これは、そのまま後方へ流す空気の多い「高バイパス・ターボファンエンジン」となったことで、エンジン直径が大きくなったことの影響といえるでしょう。バイパス比の高いエンジンは、静かで燃費もよい反面、エンジンの直径が大きくなる傾向にあります。

 DC-10やロッキードL−1011は、「高バイパス・ターボファンエンジン」を積むようになったことで、尾部にエンジンを3つまとめることが難しくなったため、主翼にエンジンを下げることに。結果、晩年の3発機は、このようなデザインが一般的になりました。

 現代では、長距離飛行で双発機が使用できることから、3発機の活躍は少ないものの、FedExなどでは、いまもこれを使っているの貨物航空会社もあります。

 また2020年12月、惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ってきた小惑星の砂が入っているとみられるカプセルを運んだ「ファルコン 7X」も2005(平成17)年デビューながら、3発のリアエンジン機のレイアウトをとっており、こちらは安全性を保ちながら航続距離を確保するために、この配置となったといえるでしょう。