◆「ビーチの妖精」坂口佳穂、厳選カット集>>

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ビーチバレーボール界も大会の中止や延期が相次いだ。このままシーズンの幕が開けることなく、夏を終えてしまうのかと思われたが、9月19日、20日と、ビーチスポーツの総合大会『ジャパンビーチゲームズ®フェスティバル千葉2020』(千葉県・稲毛海浜公園)のメイン競技として、ビーチバレー千葉市長杯が行なわれた。

 国内トップのジャパンビーチバレーボールツアーの下部に位置づけされる大会だが、日本ビーチバレーボール連盟主催の公式戦としては、今年初めて開催された大会。そのため、国内の強豪チームがすべて集結し、観戦可能となった(検温、手指消毒、マスク着用が義務づけ)一般のファンが見守るなか、白熱した戦いが繰り広げられた。

 参戦を予定していたワールドツアーが中断し、東京五輪日本代表チーム決定戦も延期となり、3月以降、心身ともに難しい時間を過ごしてきた坂口佳穂(24歳/マイナビ)&村上礼華(23歳/ダイキアクシス)ペアも同大会に出場。6カ月ぶりの公式戦で、どれほどのパフォーマンスが見せられるのか、注目が集まった。


ビーチバレー千葉市長杯に出場した坂口佳穂&村上礼華ペア

 今大会は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、試合時間の短縮を図って1セットマッチ(決勝戦のみ、3セットマッチ)で行なわれた。慣れない形式に「いつもとは違う緊張感があった」と坂口は不安を口にしていたが、予選プールDで2連勝を飾って、決勝トーナメント進出を決めた。

 予選プールの第1試合は、本村嘉菜(25歳)&酒井春海(24歳)ペアに21−12で完勝。第2試合では、技術とパワーのある草野歩(35歳)と184cmの長身を誇る橋本涼加(27歳)という実力ペアとの対戦で苦戦も予想されたが、危なげない戦いを見せて21−16で勝利した。

 その結果を受けて、村上礼が「練習での課題や、新しくトライしていることが試合の中で出せた」と言えば、坂口も「自分たちの作戦どおりにビーチバレーができた」と言って、2人とも満足げな表情を見せた。

 AからDの各プール上位2チーム、計8チームが駒を進めた決勝トーナメント。プールDを1位で突破した坂口&村上礼ペアだったが、準々決勝となるその初戦で、予想外にも日本のトップランカーである石井美樹(30歳)&村上めぐみ(35歳)と対戦することになった。

 調子が今ひとつだった石井&村上めぐみペアは、予選プールAで1勝1敗。同プール2位での決勝トーナメント進出だったのだ。

 ともあれ、坂口&村上礼ペアにとって、五輪代表に最も近いチームとの対戦は、自分たちの"現在地"を推し量るうえでも、願ってもないことだった。だが、「相手のリズムの試合だった」と坂口が振り返ったように、日本トップチームは付け入る隙を与えてくれなかった。14−21であえなく敗れてしまった。

 試合は、坂口&村上礼ペアがグッドサイド(攻守に有利な風下側)で試合を始めるも、相手の効果的な強打や自らのスパイクミスによって2−5。1セットマッチでは重要なスタートダッシュに失敗してしまう。

 その後も、テンポのいい攻撃や村上礼のブロックなど、要所ではいいプレーを見せながら、簡単にサイドアウトを切らせてもらえず、なかなか点差は詰まらない。2人のレシーブポジションをスイッチし、ゲームの流れを変えようと試みるも、大きな効果は得られなかった。

 結局、村上めぐみのサーブ、石井のブロックと、相手のよさばかりが目立って、点差は開くばかり。決勝トーナメントを迎えて、調子を上げてきた日本のトップチームに屈した。

 ただ、主導権を握れぬ完敗にあっても、坂口と村上礼の表情は決して暗くはなかった。予選プールの2試合同様、ゲーム中の積極性を失うことはなかったからだ。

 また、スパイクの助走スタイルやブロックの跳び方、ポーキー(指の背中側を使ったプレー)の技術など、新たなことにチャレンジし、劣勢のなかでも2人のコミュニケーションが途絶えることはなかった。

 ゆえに、「雰囲気は悪くなかった」と村上礼。そして、坂口も「やるべきこと、意識すべきことはできていた。そうしたトライもせずに負けていたら、次につながりませんから」と前向きに語った。


コロナ禍にあっても、地力強化を図ってきた坂口佳穂

 チーム結成以来の2人の目標は、東京五輪出場だった。しかし、五輪自体の延期が決定。3月末からのおよそ6カ月間は、先も見通せず、試合もできず、練習もままならない状況にあった。その期間について、坂口が振り返る。

「ネガティブな気持ちには一切なっていません。オリンピックの1年延期も、私たちに与えられた時間が増えたと思っています。ただ、練習してきたことを(試合で)出すために、『早く試合をしたい』とずっと思っていました」

 今回、坂口と村上礼をはじめ、試合ができる喜びを多くの選手が感じただろうが、海外のワールドツアーはいまだ再開の目処が立っていない。国内ツアーも、ジャパンビーチバレーボールツアー2020の立川立飛大会(10月31日〜11月1日/東京都)の、ひと大会が予定されるのみ。それでも、坂口はポジティブな姿勢を見せる。

「チームとしては、国内ツアーでの優勝。個人的には、攻撃力をコンスタントに出すことを、今年の目標に置いています。(この状況にも)焦らず、落ち込まず、少しずつでもコツコツやっていきたいと思っています」

 ようやく行なわれた今季国内初ゲーム。大会形式など普段とは異なる状況にあったが、坂口&村上礼ペアは、この6カ月間で培ってきたものを存分に発揮した。来年の大一番に向けて、着実に歩みを進めていることは間違いない。