政権内での「冷たい視線」

「岸田文雄自民党政調会長が外相時代の4年7ヵ月の方が、河野太郎外相の2年間よりもよっぽど実績が上がっている。訪問した国の数が多ければいいというもんじゃない。河野さんが駐日韓国大使に向かって『極めて無礼』なんて言う必要は全くなかったですよ」――。

首相・安倍晋三の側近の一人が最近、怒気をはらんだ声でこう言った。

河野が一昨年8月、外相に起用されたとき、野田聖子の総務相起用と合わせサプライズ人事と受けとめられ、当時、森友・加計学園問題、元自民党衆院議員・豊田真由子の元秘書への暴言・暴行などで低下していた内閣支持率が上昇に転じた。

この時点で安倍の狙いは当たった。しかし、昨秋から河野の言動に官邸幹部が眉をひそめることが相次ぎ、河野の後ろ盾だった副総理兼財務相・麻生太郎や官房長官・菅義偉が河野に冷たい視線を送るようになっている。

韓国大使に「無礼だ!」と発言

直近の事例を挙げると、参院選中の7月19日午前、河野は駐日韓国大使・南官杓(ナム・グァンピョ)を外務省に呼び出し、韓国が日韓請求権協定に基づく「仲裁委員会」の設置に応じなかったことについて、厳しく抗議した。

次に南が、日韓の企業が資金を拠出して元徴用工救済のための財団を設立する案に触れ、韓国側の通訳が「この方法を基礎として、より良い解決策を……」と述べると、河野は突然「ちょっと待ってください」と割り込み、次のように言った。

「韓国側の提案が国際法違反の状況を是正するものでないことは以前にお伝えしております。それを知らないフリをして改めて提案するのは極めて無礼でございます」。

無礼という表現は、外務省の応答要領になく、河野がとっさに発言したことだった。これに、安倍側近が不快感をあらわにしたのが冒頭の発言だ。

安倍官邸は、元徴用工の問題にせよ、半導体関連物資の韓国への輸出手続き厳格化にせよ、韓国に対して厳しい姿勢で臨む方針だ。官邸はこれまで、韓国から要望されると無理難題であっても、韓国が裏で謝って表で強硬に言うことがあっても、譲ってきた日本政府の交渉姿勢そのものを変えようとしている。

この基本姿勢は河野の言動と一見、一致しているように見える。しかし、官邸は日韓両国民の感情が高ぶらないように細心の注意を払っている。国際社会の理解を得ながら、淡々と韓国政府を追い詰めようとしているのに、河野の発言は韓国側から無用の反発を招くことになった。だから、官邸にとっては不快なのである。

「しょっちゅう外遊するのはいいが…」

河野は2017年8月3日の内閣改造・党役員人事で抜てきされた。菅が強力に推した結果だが、安倍も「調べてみると、私と考え方が似ている」と評価して起用した。

河野は国会議員屈指の英語力、行動力で世界を駆け巡っている。しかし、河野に対して昨年10月ごろから首相官邸中枢で、次のような厳しい声が聞かれるようになった。

「河野はしょっちゅう外遊するのはいいが、外相臨時代理になった人にあいさつすらしていない」「河野さんは社会的常識を身につけてもらわないとね。大臣は役人の士気を高めるのが大事なのに、外務省ではそうなっていない」

麻生も同23日、都内のホテルで開かれた河野の政治資金パーティーで、「(河野は)一般的な常識に欠けている。常識的なところを磨かなければいけない」と苦言を呈した。

さらに今年4月、河野は後見人の菅を不機嫌にさせる問題を立て続けに起こした。

菅が新元号「令和」を公表した1日の夜、通信社が「省内文書、元号取りやめ検討=外務省」と報道した。菅はこの報道を2日朝刊で知り、驚がくした。新元号が評価され、菅もネット上で「令和おじさん」と評判になっていたのに、冷水を浴びせられた気分だった。

菅が情報源を調べさせたところ、河野であることが分かり、外務省に厳しく注意。菅は同3日の記者会見で公文書の元号表記について「政府として強制するものではなく、使用の基準は特に設けていない」と述べ、火消しに走った。

発信力が裏目に出ている

河野はまた、外務大臣名で衆参両院の事務局を通じ、全国会議員に「空港送迎で原則として(大使館の)館長などによる出迎えは行わない」との通知を出した。大使館員の負担を減らす目的で、国会議員なら外遊先で優遇されることはおかしなことだった。だから、河野が間違っていたわけではない。

しかし、河野および外務省は各党の国会対策委員会に事前説明することなく、文書を発出したために、国会議員の怒りを買うことになった。官邸にも当然、その声が届き、菅らの不興を買った。

西暦使用は論理的には成り立つことだ。だが、令和で盛り上がっているときにわざわざ言う必要はない。国会議員に対する特例廃止も、各党幹部に一声かけておけば、あつれきが起きるのを避けられた。韓国大使に「無礼だ」と発言するにしても、大使が発言した後でも遅くはないだろう。

河野の発信力の強さが次々と裏目に出ているのが現状だ。河野の理解者である衆院議長・大島理森も「河野太郎は合理的すぎる」と冷ややかになっている。

河野は「ポスト安倍」の候補者として、今後、階段を上ることができるだろうか?

(敬称略)