さだまさし(67)が、『人生最高レストラン』(TBS系)の5月12日放送回に出演し、自身の音楽半生について明かした。

 さだはふだん、民放のバラエティに出演することがあまりない。

「呼んでくれないですね。嫌いじゃないんですよ。お笑いが基本好きなんで、細かいところまでずっとチェックしてますから。NHKの『爆笑オンエアバトル』、1回めから見てました。みんなが笑っている顔が好きなんですよね。

 僕の歌って辛気臭い歌が多いんですよ。歌ってると、最前列のお客さんの、眉が曇ってる。それを見て、『嫌われてる』って思うんですよ(笑)。

 静かな曲を3曲やると、寝る人が出てきますし、『これから3曲やります』って言うと、トイレに立たれますから。一度、お客さんに聞いたことがあるんですよ、大阪フェスティバルホールで。『あと3曲やるって言ってるのに、立つ?』って。そしたら、『歌はCDで聞きますから』って言われました(笑)」

 スタジオでも「舌」好調の、さだ。この爆笑トークはコンサート中も終始、繰り広げられ、ファンを魅了してやまないが、ただのおしゃべり好きが高じて始めたわけではない。

「日本と中国が国交回復したときに、中国に『長江』(1981)っていうドキュメンタリー映画を撮りにいったんです。日本の原風景は中国にあるんじゃないかと思って、揚子江をさかのぼって。そのとき、28億円も借金したんですよ。『会社』じゃないですよ、『個人』ですよ?

 金利が高い頃だったから、おそらく最低35億円は払ってるんですね。だから30数年にわたって、一生懸命に返してきた。それはツラかったですよ、コンサートするしかないんですもんね」

 借金返済のため、1年に180本以上のコンサートをやったが、2日に1回以上歌うと、のどを痛めてしまう。それでもお客さんが来るので、責任をとるためにトークを磨いたのだという。

「必死にトーク磨いて、お客さんが笑ってくれると、『あぁ、今日は許してくれた』って思っていました。もしあの借金がなかったら、『あんなにトークするかい!』って感じですよね」

 さだはこれまで4364回ものコンサートを開催した。これは、ソロ歌手コンサート回数で日本一の記録だ。前人未達の数を重ねてきたが、さだには秘めた思いがあった。

「すごく怒られるかもしれないんですけど……そもそも、歌うのがあまり好きじゃないんですよ。下手なんです、歌。いま『上手い』と言っていただけるのは、努力の賜物なんですよ。

 僕は、バイオリン弾きだったんです。3歳からヴァイオリンを弾いてきて、小学校5年生のころに『全日本学生音楽コンクール』とかに受かったりしたんです。だからその当時は、僕は天才だったんです。それがどんどんダメになっていって、ふつうの大学生になったんですけど、それでも音楽に戻りたくて。

 曲はね、湧いてくるんですよ。だから、歌謡曲の作曲家ぐらい目指してみようかなって。ところが、歌うヤツがいないんですよ、僕の周りに。つまり、『歌が上手いね!』と言われて、その気になって歌い手になったタイプじゃなくて、誰もこの曲を歌ってくれないから、しょうがないから歌い出した。だから、歌はあまり得意じゃないんですよ」

 さだがこれまで手がけてきたオリジナルは、570曲以上。同世代のシンガーソングライターと比べても、語りに近いほど長い歌詞が特徴だ。

「僕はあれをラップだと思っています(笑)。(フォークデュオ『グレープ』の)吉田政美に、『おれ歌うの飽きた』と言ったら、『お前の歌は覚えやすいから飽きるんだ、覚えられない曲を書けよ』って言われて。それで、最初の “書いたけど覚えられない” 歌詞が『精霊流し』。作った歌詞は、こじつけてでもメロディーにしたいし、できれば美しい曲がいい。美しい音楽が好きなんですよ」

 莫大な借金を返すための苦肉の策であったトークを、最大の武器にした、さだ。今日の人気は、自分の身に起こった出来事をトークにして笑いを取るという、アーティストらしい着眼点と努力の賜物であった。