どうしてあんな普通の女が…?誰もが惚れるモテ男を射止めた“中の上の女”の正体とは
美人は不美人より、生涯で3億円の得をする。
容姿にコンプレックスを抱いていた美咲麗華は、大学時代に学年一のモテ男・平塚勇太に恋をし、あっさり失恋したことである決意を抱く。
-“美しさ”を金で買い、人生を変えてやる-
社会人となり整形で“美人”の仲間入りを果たした麗華は、ハイスペ美男子の俊介から言い寄られちやほやされ調子に乗る。
そんな中、大学時代からの親友・大山恵美を通じてついに初恋の彼・平塚くんと再会。
だが心の中では初恋の彼を忘れられない麗華。ある日、同僚の花音が持っていた平塚くんの彼女の写真を見てしまう。

私の方が綺麗なのに…
「ではまず、うつ伏せになって頂けますか」
ほんのりと漂うアロマを吸い込みながら、私は温められた、ふかふかのベッドに横たわる。
青山にある紹介制のエステサロン。同僚の花音に紹介してもらって以来、私は月1〜2回のペースでここに通っている。
インディバを照射したりリンパマッサージを受けたりと、メニューはその都度、私の身体に必要なものを担当のスタッフがオススメしてくれる。
もちろん安くない金額だが、顔だけ美しくなってもスタイルが微妙では意味がない。
銀座ブティックでの仕事は立ち仕事でもあるし、“美しい女”でい続けるためにはスタイル維持にかける費用も必要経費なのだ。
本来であれば、リラックスできる至福の時間のはず…しかし私の頭に浮かぶのは平塚くんの彼女、“岸さゆり”の顔だった。
あの日、花音が差し出した写真を見て、私は思わず「え?」と声をあげた。
平塚くんほどの男が付き合う相手なのだから、どれほどの美人なのかと思っていた。
それなのに岸さゆりは、はっきり言って十人並みの“普通の女”だったのだ。
どうしてあんな“普通の女”が…?ふつふつと湧き上がる疑問が、麗華の心を再び蝕んでいく
「どうしてあんな中の上の女が…?」
エステを終え、すでに薄暗くなった表参道をひとり歩きながら、私は思わずそう口に出して呟いていた。
いくら考えても、納得がいかないのだ。
平塚くんの隣に、あんな十人並みの女なんて全然似合わない。
“岸さゆり”には、平塚くんの彼女には、どうやっても敵わないくらいの美人であって欲しかった。
整形をして、メイクや仕草を研究して、こうして毎月エステに通っている私よりも、段違いで美しい女であったなら。
それならばまだ、私の努力が足りなかったのだと、どうにか自分を納得させることもできたのに。
“麗華、ごめん。仕事でちょっと遅れそう”
その時、俊介からLINEが届いて、私はようやく平塚くんの彼女について考えるのをやめた。
今日はこの後、俊介と神宮前にある『ベポカ』というペルー料理の店でディナーをする予定になっている。
待ち合わせにはまだ時間があり、さらに俊介が遅れるなら、少しカフェで時間でも潰そうか。
そう考えた私は、随分と新しいカフェが増えたまいせん通りを、のんびりと歩き出した。
彼の隣を歩く女

…よそ見をしながら歩いていたから、最初は全然気がつかなかった。
ハッと気がついたのは、覚えのある恵美の笑い声が聞こえてきたからだ。
その声の主は、すぐ目の前を歩いている。しかし近寄ろうとして、私は慌てて足を止めた。恵美の隣に、男の姿があったからだ。
しかもその背中は、私には一目でわかる“あの人”のものだった。
-恵美と平塚くんが、どうして一緒に…?
私は二人に気づかれぬよう咄嗟に脇道へ逸れ、バクバクと音を立てる心臓を抑える。
シフト制の私はオフの日だが、今日は平日だ。平塚くんの勤務形態は詳しく知らないが、恵美は間違いなく仕事があるはず。
それなのに、どうして二人は一緒にこんなところを歩いているのか。
しかも、随分と親密な雰囲気だった。少なくとも私なんかより、ずっと。一体、いつの間に恵美は平塚くんと距離を縮めたのだろう。
-恵美も…岸さゆりも、全然綺麗じゃないのに。私の方が絶対、美しいのに。
イライラとも、モヤモヤともつかぬ感情が私の心を埋め尽くしていく。
気がつけば私はかなり長い間、そこに立ち尽くしていたらしい。
“あと15分で行けるよ”
俊介から再びLINEが届き、私はようやく我に返る。すでに、カフェでお茶をする時間などなくなっていた。
結局その日、私は俊介とディナーの最中も、彼の部屋で夜を過ごす間もずっと、平塚くんのことが頭から離れなかった。
彼女の写真を見ただけで、平塚くんが他の女と一緒にいるだけで、こんなにも胸が苦しい。
俊介から人生で初めての告白をされ、失恋の傷は塞がったはずだったのに。
しかしいくら無理やりに押し込めようとも、上書きしようとしても、結局はほんの些細なきっかけで想いは溢れてしまう。
やはり私にとって、平塚くんはどうしようもなく、いつまでも特別な存在なのだと思い知った。
俊介と付き合いながらも平塚くんを忘れられない麗華は、我慢できず恵美を問い詰める。
まいせん通りで平塚くんと恵美を目撃した翌日。私はどうしても我慢できず、仕事帰りの恵美を呼び出した。

紀尾井町ガーデンテラス『ノマドグリル・ラウンジ』のテラス席は、夜になると華やかな男女で溢れる。
私はシャンパンを頼み、恵美を待ちながら周囲を観察した。
何人か、パッと目を引く美人がいる。しかし自分だって決して負けていないと思えた。
実際、横に女性がいるにも関わらず、男たちはチラチラとこちらに目を向けてくるのだ。私はそんな光景をどこか客観的に眺めつつ、彼らから自分が最も美しく見えるよう角度を変えたりした。
「お待たせ!」
そこにようやく現れた恵美は、相変わらず地味で色気のないパンツスーツ姿。
私は彼女が椅子に腰掛ける間さえ焦れる思いで待ち、そしてようやく恵美が向かい合うと、すぐさま前日に目撃した光景について尋ねた。
しかし神妙な表情で問いかけた私を、恵美は一瞬キョトンとした目で見つめ、そして「あはは」と笑い飛ばすのだった。
「そんなの、仕事に決まってるじゃない!」
「で…でも、仕事って言ったって、例の式典はもう終わったんでしょ?」
納得できない私は食い下がったが、恵美の説明は実に明快なものだった。
確かに式典はもう終わったが平塚くんの仕切りや人当たりの良さが好評だったため、今度はまた別で、とある出版記念パーティーの司会を依頼しているらしい。
「そう…」とすっきりしない声を出す。するとそんな私の顔を覗き込み、恵美はゆっくりと言葉を続けるのだった。
「ねぇ...麗華はやっぱり、平塚くんが好きなんでしょ?…それなら、自分に嘘つかないでちゃんと向き合うべきだよ」
「向き合うって…どうやるのよ?」
普段は余計なことは言わずニコニコしているだけの恵美から、急に真面目な顔で諭され、私は調子を狂わせ口ごもる。
「素直に言えばいいじゃない、好きですって。ずっと好きだったって。確かに、彼女がいるからって断られるかもしれない。だけどそれでも、伝えたら何か変わるかもしれない。
それに、言わずに諦めてしまったら…麗華の気持ちはなかったことにされちゃうんだよ。こんなにずっと想ってきたのに。それでもいいの?」
「思いを伝えるべきだ」と言う恵美。そんな気になれない麗華だが、ある日“岸さゆり”の思わぬ噂を耳にする
恵美と別れ帰路につきながら、私は一人ぼんやりと考えた。
恵美からは「思いを伝えろ」と、まるで自分のことのように熱く語られたものの、しかし何度考えても、そんな自爆テロのような真似をする気には到底なれない。
そんなことをしたら、まず間違いなくフラれる。
平塚くんにはっきりフラれてしまったら…私はもう、何を目標に生きればいいのかわからなくなってしまうだろう。
私は学生時代から、彼に認められたくて愛されたくて、それだけを目標にして綺麗になる努力を重ねてきたのだ。
その気持ちは、俊介という存在ができた後でさえ変わっていなかった。
俊介と多くの時間を共有することで、私の中で彼の存在は確かに大きなものとなっていた。
しかしながら俊介と向き合う私とはまた別の自分が、永遠に「平塚くんに愛されたい」と叫び続けているのだ。

岸さゆりの噂
それからしばらく経ち、同僚の花音が銀座ブティックを離れる目前の、ある日のことだ。
私の心で燻る平塚くんへの想いを、再び焚き付けるような出来事が起きた。
休憩時間にバックルームへ戻ると、花音を中心にして同僚たちが何やら盛り上がっている。
そのまま通り過ぎようとしたが、ふと「さゆりさん」という名が耳に入ってきたため、私は足を止めざるを得なかった。
「実は昨日、さゆりさんが食事に連れて行ってくれたの。広報部の仕事について色々教えてくれたんだけど…さゆりさんって、本当に素敵な人なの!周りへの気遣いとか立ち居振る舞いにも品があって…」
“岸さゆり”に憧れているらしい花音が、少々大げさなまでに褒めちぎっている。
写真をちらりと覗かせてもらった私には、岸さゆりなんて容姿も十人並みで、そんな素敵な女性にはまったく見えなかったが。
私はひとり頭を振り、今度こそ皆の輪から離れようとした。
しかしその瞬間、再び花音が口を開いた。
「まさに人生のお手本にしたい女性って感じなのよ。これは噂話だけど…」
そして彼女はほんの少しだけ声を潜めると、続けて、どうしても聞き流せない“噂話”を披露したのだ。
「さゆりさんの実家って、どこだったかな?確か東北で代々続く名家なんだけど…ほら、中條って有名な政治家一族がいるでしょ。その息子と、水面下で縁談が進んでるらしいの」
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“岸さゆり”には、平塚くんとは別のフィアンセがいた!それを知った麗華は、一か八かの賭けに出る。

