典型的な結婚できない女、杏子、32歳。

慶應大学卒業後、丸の内の某外資系金融でセールス職に就き、年収は2,000万円を優に超える。

美人だがプライドが高くワガママな彼女は、男運が悪く全くモテない。さらにハイスペックゆえ、男が近寄りたくない女ナンバーワンとまで噂されている。

婚活に危機感を持ち始めた杏子は、結婚相談所に登録した。婚活アドバイザーの直人からアドバイスを受け、少しずつ男女のノウハウを学んでいく。

そして2回目のマッチング相手・正木とイイ感じになったと思いきや、まさかの大失恋。傷心の折、さらに元彼の知樹にまで騙されてしまう。そして、杏子は...?




「で?結局、その知樹氏とは、関係は切れていないということで、間違いないですね。」

久しぶりに会った婚活アドバイザーの直人は、相変わらず、ドライな口調でカウンセリングを進める。

知樹とのイザコザに疲れ果てた杏子が頼った先は、結局、結婚相談所だった。よって、杏子はこれまでの経緯を、事細かに白状させられていた。

恥を忍んで連絡を入れた杏子に、直人は何事もなかったかのように接したが、杏子が相談所を退会すると大口を叩いたことは、完全にスルーされている。

直人の顔は全くの無表情ではあるが、しかし、彼は出来の悪い生徒のような自分に心底呆れ、失望しているに違いない。そう思うと、杏子は恥ずかしさと虚しさで、直人を直視することは出来なかった。

「......かと言って、別に密な関係があるわけじゃないですけど...。」

直人は、冷たい目でジロリと杏子を見据えた。猛獣に睨まれた小動物は、恐らくこんな気分になるのではなかろうか。

杏子の心は、この直人の前では、丸裸にされているような感覚に陥る。この婚活アドバイザーという結婚のプロに対面すると、いつものように虚勢を張ったり、自分の心に嘘がつけなくなるのだ。

「杏子さん、念のため、もう一度確認します。あなた、結婚がしたいんですよね?」

「......はい......。」

杏子は俯きながら、絞るように声を出し返事をした。

「どの面下げて」という言葉があるが、きっと今の自分は、その表現にピッタリな顔をしているだろうと杏子は思った。


杏子は、直人からのダメ出しに怯えるが...?


寂しくて寂しくて、仕方がない。無益な関係は、それでも損切りするしか術はない


「では、当たり前のことですが、知樹氏とは、今後一切連絡を取らないでください。婚活の妨げになりますし、僕の立場としても、不純異性交遊を知ってしまった以上、きちんと約束して頂けない限りは、マッチングは出来ません。」

「ふ、不純異性交遊って...。私、もう32歳ですけど...。」

直人は杏子の軽いツッコミを完全に無視し、部屋の外へ出ると、何やら用紙を1枚持って戻って来た。

「この誓約書にサインを。」

その用紙を見て、杏子は目を丸くする。それは、簡易に作られた、知樹とは二度と接近しないという誓約書だった。

「こうでもしないと、知樹氏の獰猛な誘惑に、杏子さんはまた流されるでしょう。馬鹿馬鹿しいと思うでしょうが、書面に残すのは、意志を明確にする一つのツールです。絵馬や短冊に願いを書くのと、同じようなロジックです。」

―獰猛な誘惑......。

昨晩の出来事が、杏子の頭をよぎる。

知樹は突然杏子の部屋を訪れ、玄関で押し問答となった。杏子はもちろん突っぱねてやるつもりであったが、知樹に手首を掴まれた瞬間、その熱い体温に、ふと気持ちが緩んでしまったのだった。

結局、杏子は寂しいのだと思う。寂しくて寂しくて、仕方がないのだ。

その寂しさに付け入れられ、強引に求められてしまうと、最終的には、どうしても拒否することができない。頭では分かっていても、「今回だけは...」と、楽な方へと流されてしまう。

そんな弱い杏子を、やはり直人は見抜いているのだ。




杏子は大人しく直人に従い、誓約書にサインをした。

「杏子さん、婚活は、想定以上に辛い道のりだという事は、僕も分かっています。しかし、無益な関係は、多少辛くとも、きちんと損切りのタイミングを見極めるべきです。でないと、どんどん深みにハマってしまいます。」

「......損切りですか......。相変わらず、分かりやすい例えをしてくれますね......。」

全く、直人の言う通りだった。杏子は反抗する術もなく、ションボリと答える。

「散々僕のカウンセリングを受けてきたのだから、杏子さんも既に頭では理解しているはずです。しかし、心が折れそうになるときは、誰でもあります。もう一度、一緒に頑張りましょう。」

直人は最後に、俯きっぱなしの杏子の顔を覗き込み、労わるような眼差しで、思いのほか優しげに言葉を添えた。

もっと厳しく叱られ、ダメ出しを浴びせられると、杏子は覚悟していた。しかし、どうやら直人は本気で自分を心配し、サポートしてくれているようだ。

この戦国時代のような婚活市場で、杏子の味方は、たった一人、直人だけであるような気がした。

杏子の頬を、思わず涙が伝う。

直人は無言で、スッとハンカチを差し出した。


直人の優しさに触れ、杏子は婚活再開を決意するが...?


「マッチング成功率、40%」 リアルな市場価値を受け入れ、女は次第に強くなる


「では、今日はオファーを出す5人を選んでください。今すぐに。」

その日、直人が優しさを見せた気がしたのは、ほんの一瞬だった。

涙を拭く杏子を前にして、直人は次の瞬間にはスパルタを取り戻し、杏子は泣く泣く5人の男を選ばされた。そして翌日、そのうち2人とのマッチングが成功したと、知らせを受けたのだった。

―5人中、2人...。私の成功率は、40%ってことなのね...。

他3人は、恐らく杏子のオファーを断ったということだ。杏子は、ニッコリと優雅に微笑んだ自分のプロフィール写真を思い浮かべる。

あれを見てオファーを断る男がいるなんて信じ難いが、度重なる苦い経験により、「成功率40%」というリアルな市場価値にも、杏子はさほど抵抗を持たなくなっていた。

女は、こうして自尊心を傷つけられることに慣れ、次第に強くなっていくものなのだろうか。




4度目の正直!振り出しに戻った杏子の、マッチングの相手は...?


直人の仕事の速さは、外資金融で活躍する杏子も脱帽するほどだった。

相談所を訪れた2日後の夜には、さっそく1人目との面会が設定された。おかげで杏子は、知樹のことを思い出す暇もない。

指定された場所は、帝国ホテルの『ランデブーラウンジ』だった。初めてのマッチングが行われたのと同じ場所である。

―あれはもう、3ヵ月も前のことなのね。また、振り出しに戻っちゃった...。

これまでの婚活を振り返ると、心がつい、どんよりと曇ってしまう。

重い足取りで席に向かうと、しかし、そこには光輝くような笑顔を浮かべた男が杏子を待っていた。

「はじめまして!松岡と申します!!本日はお時間頂き、ありがとうございます!!!」

その松岡修造似の男は、杏子が怯んでしまうほどの爽やかさで言った。そういえば、彼のプロフィール写真を見たときも、その笑顔が気に入り、オファーを出したのだった。

ほんのりと浅黒い肌に、白く光る歯。ピンと伸びた姿勢には、品がある。

そして、シンプルなネイビーのセーターにジーンズというカジュアルな服装の上からでも、彼がほどよく筋肉のついた、魅力的な体格をしていることが一目で分かった。

職業は確か、スポーツジムの経営だったはずだ。

―なに、この人。スマート過ぎる。超タイプだわ......!

杏子はあまりの好印象に言葉を失い、生まれて初めて、「一目惚れ」という感覚に陥った。

次週11月29日火曜更新
4度目の正直で、杏子にとうとう春がやって来る?!爽やかイケメン・松岡とのマッチングはいかに...?