学生の窓口編集部

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いま、ひそかに便サンシーンが盛り上がっているのをご存じだろうか。

便サンとは、便所サンダルの略称であり、愛好家たちは親しみをこめてそう呼ぶ。彼らはトイレのみならず、町に会社に学校にと、どこにでも便サンを履いていく。

隠れたブームを底から支えるのは、便所サンダル専門通販サイト「ベンサン.JP」だ。ともすれば、履物屋でも売れ残りがちな便サンを、なんと年間6〜7千足も販売するという。

「便サンは体の一部」と断言するベンサン.JPの店長・飯田さんに、『便所サンダルを日本一売る方法』を5つ聞いてきた。

●その1「チャンスがあれば著名人とからめ!」

-ベンサン.JPをやり始めてからどれくらい経ちますか?

飯田氏:2012年12月に仮オープンして、2013年6月1日にグランドオープンだから、2年ちょっとですね。最初の半年は、1か月に1〜2個売れる程度でしたよ。

-現在の年間6千足レベルに達するまでに、なにかきっかけがあったんですか?

飯田氏:2013年7月末にマキシマムザホルモンが出したアルバムに「便所サンダルダンス」という歌が収録されてて、ここから売れ始めましたね。

-ほう、意外なきっかけですね。

飯田氏:2013年の9月4日にツイッターでマキシマムザホルモンのマキシマムザ亮君が「冠婚葬祭用に黒ベンサンを頼もうとおもったら、80足からと言われたんで諦めた」というような発言をしたんですよ。

ファンからも「なんとか頼みます!」とお願いされたのもあって、なんとしてでもダンヒル(便サンのブランド名)の黒を探しあてようと、メーカーや知り合いの問屋にかけあったが「そんなのない」と。何件問い合わせたかわからないほど、しつこくあちこちにあたっていたら「少しある」という問屋が見つかりまして。

在庫をすべて取りよせ、すぐに1足、マキシマムザホルモンの事務所に送りました。

-タダで進呈したんですね

飯田氏:そう。そして9月24日、これは記念日なので覚えてるんですが、マキシマムザ亮君が私やファンの方が贈った黒ダンヒルを履いた写真をTwitterでアップしてくれて、取り寄せてたおよそ80足が一瞬で売り切れましたね。

あ、私以外にもお客さんが3名、黒ダンヒルをウチで購入してマキシマムザホルモンの事務所に送ってあげていたようです。

-マキシマムザホルモンが便サン好きってもとから知ってたんですか?

飯田氏:「便サン」「便所サンダル」「ニシベケミカル」(便サンのトップメーカー)などでエゴサーチし続けてるから知ってましたよ。ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんもですね。

事業を始めるまえから、あらかじめ便サンを好んで履いてる著名人はリサーチしてましたから。最近ですと、キュウソネコカミのセイヤさんも便サンデビューしました。なにか物を売るなら、アーティストのファン層にアプローチするというのはとても重要なことです。

ただ、間違えてほしくないのは、「著名人をうまく使え」ということではなくて、マキシマムザ亮君の場合は心から便所サンダルを愛していますし、私自身もなんとかして黒のダンヒルを届けてあげたい、という気持ちに駆られたからこそ実現したんだと思います。

※その後、絶版だった黒のダンヒルは通常生産されるようになったとのこと。

▲取材日、雨だったが便サンでやってきた飯田さん。「すべらないから梅雨時に最適」とのこと。

●その2「自分がハマれるものを売れ!」

-ニッチなものなら便サン以外でも売る自信がありますか?

飯田氏:自分がハマれる物じゃなきゃダメですね。もともと履き心地が好きでよく履いてたし。

-好きじゃないものは売れないと。

飯田氏:そうですね。僕は、おだてブタ(ヤッターマンのキャラ)のグッズを集めたりとコレクター気質もあるので。便サンは、レアな型が多くて、コレクター心をそそるんですよ。

ニシベケミカルってメーカーがとにかく廃番品をバンバン出す。入手経路が地方のうらびれた履物屋しかなかったりの宝探し感がたまらないんです。僕もそうとう集めてるほうですけど、それでもまだ30〜40分の1ぐらいしか便サンが集まってない。

ニシベの「ダンヒル」って型だけでも、全カラー揃えてる人は日本全国でおそらく1人もいないんじゃないかな。

▲ベンサン.JPのサイト

●その3「店長がキャラクターとして前に出ろ!」

-サイトのふざけた感じもなにかの狙いですか?

飯田氏:あのサイトのテイストでも買ってくれる人を相手に商売したいんですよ。お客さんから問い合わせがくるときも、友だちに聞いてくる感じです。そういう雰囲気だと、なにか失敗してクレームになっても、ヤバい事態にはなりにくいんですよね。

-飯田さんが便サン仲間として認識されてるんですね。

飯田氏:そうですね。店長がキャラクターとして前に出るのが、一番簡単な差別化ですから。値段が一緒なら、知ってる人から買いたいじゃないですか。ツイッターで便サンに興味ある人をフォローしたり、リプライしたりするのもこの一環。

「どこから買うか」ではなく、「誰から買うか」にしていきたかったんです。

今では、地方でレア品を見つけたお客さんが、「飯田さんに」とタダでサンダルを送ってきてくれたりするくらい、お客さんと仲良くやりとりをしています。

●その4「法人からの大ロットが狙える商材を売れ!」

飯田氏:とはいえ、個人からの注文だけでは成り立たないので、法人からの大ロットが狙える商材かどうかもポイントですね。便サンの場合は、工場や社食の厨房、プールや温泉施設の水関係、病院や介護施設などで使われますから、そのあたりを掴めば、大口の注文をとれる。

-店をはじめるまえにイケそうだと分かったんですか?

飯田氏:はい。あらかじめリサーチして「ニッチでマニアックなコレクター要素があり」かつ「法人からの大ロットが見込める」と分かったので、便サン専門通販サイトをはじめる決意をしましたね。

-あのサイトから直接注文が入るんですか?

飯田氏:卸向けサイトは別にきっちり固いのを作ってます。対法人はとくに信用が重要なので。

▲「ニシベ(便サンのメーカー)は裏が違う」とひっくり返すと、ブランドによって形状は千差万別だ。

●その5「まず便サン自体に興味をもってもらえ」

-例年と比べて、今年の売れ行きはどうですか?

飯田氏:便サンは6〜7月がピークなんだけど、あきらかに去年より立ち上がりが早いですね。5月の時点で去年の倍なので、夏場に売り物が確保できるかが懸念事項です。

-やはりブームが来かけてるんでしょうか

飯田氏:兆しはあるけど、まだまだです。とにかく便サンユーザーの裾野を広げなくてははじまりませんから、うちで買わないって前提の問い合わせもすべて答えるし、売ってない商品ならほかの販売店も紹介します。「10年前にコーナンで買ったけどいまでは手に入らない。ベンサン.JPでなんとかならないか」と相談されて、200足仕入れたりもしました。

便サンで検索されるような世の中になりさえすりゃあ、うちが一番に出てきますから。

-ベンサン.JPの普及というより、まずは、便サン自体の普及なんですね

飯田氏:問屋もメーカーも便サンを宣伝しようとは思ってないから。どこかがやらなきゃならないなら、うちがやる。

下手な安売りもしない。安いだけでいいなら、日本製のサンダルは中国製のものに駆逐される。小売りがちゃんと価値をつたえなきゃ、産業自体が疲弊しますからね。いい便所サンダルを、適正価格で売りたいんです。

●著者プロフィール

松澤茂信。1982年7月生。週末はもっぱら珍スポ巡りと大喜利に明け暮れております。病的に珍スポが好き。珍スポを経営してる珍オーナーも好き、大好き。 東京別視点ガイド編集長。