まもなく80歳の誕生日を迎えるトランプ大統領。今、ホワイトハウスやワシントンの歴史ある景観を自身の好みに塗り替える計画を強硬に進めており、現地では物議を醸している。歴史や民主主義の伝統を軽視するかのような数々の計画の背景には、いったい何があるのだろうか。

【映像】ホワイトハウスに設営される格闘会場のイメージ図(拡大)

 ニュース番組『わたしとニュース』では、このワシントン改造の実態について、早稲田大学の中林美恵子教授と国際政治学者の三牧聖子氏とともに深掘りした。

■ホワイトハウスで格闘技大会?進むトランプ流のワシントン改造

 トランプ氏の元を訪れた屈強な男たち──。素手によるほぼすべての攻撃が許された極限の戦いで人気を集める世界最高峰の総合格闘技団体「UFC」のトップファイターたちだ。トランプ氏の誕生日である6月14日、アメリカ建国250周年の記念事業の一環として、「UFC Freedom 250」がホワイトハウスで開催される。

 総費用6000万ドルをかけ、ホワイトハウスの庭はド派手な格闘技会場に姿を変えようとしている。トランプ氏とUFCのダナ・ホワイトCEOが長年の親友という間柄。とはいえ、自身の誕生日にホワイトハウスで大会を開くとは前代未聞だ。

 さらに、ワシントンの名所・リンカーン記念堂の反射池の改修工事について熱く語るトランプ氏。「1922年の開設以来、機能していなかった。水漏れしていて状態も悪く見た目もひどかった」。池の底は、星条旗をイメージしたという青色に塗り替えられた。AP通信によると、改修に対し「景観保護に反する」として批判の声が上がり、現地では差し止めを求める動きも出ているという。

 公共施設を自らの好みへと作り変える動きは過去にもあった。2025年10月には大規模な宴会場を建設するため、ホワイトハウスの一角を解体。トランプ氏は「世界で指折りの美しい場所になる」と強調したが、歴史ある建物の解体には今も批判の声が上がっている。

 いったい何がトランプ氏をここまで掻き立てているのか。中林氏は次のように分析する。

「トランプ氏はワシントンの風景を変えようとしていると多くの人が見ている。テレビなどをつけると、どの局も『トランプ大統領が次に何をやろうとしているのか』『ワシントンの風景をどのように変えようとしているのか』と連日報道されている。『トランプ大統領のエゴ』という言い方がワシントンでは聞かれたが、解釈してみると、トランプ氏はそもそも不動産業界出身の大統領。そのため、様々なものを開発したり、将来形として残る建物や記念碑であったり、そういうものに執着するというのは、ある意味、トランプ氏個人の特性に依拠する部分があるのではないか」(中林氏、以下同)

 さらに、こうした動きに歯止めがかかりにくい背景には議会の構造もあるという。

「例えば『議会が予算を出さない』とか立法府の歯止めがある程度あれば、数も減るのではないか。今のところ、共和党が上院も下院も占めているので、ある程度のことが進んでいるという状況」

 トランプ流のワシントン改造が進むが、その代償は小さくない。

「特に歴史的な建物、例えばホワイトハウスの一部を取り壊してしまったり、そういったことに対する反感はかなり根強くあるように思う」

■議会の承認も得ないで「人民の家」を私物化

 このようにトランプ氏がホワイトハウスや首都を次々と改造していくことについて、三牧氏は次のように語る。

「ホワイトハウスというのは別名『人民の家』だ。これはあくまでも大統領が最長でも8年間住む仮住まいで、人々のために統治をする人の家。しかも、トランプ氏は自身のフロリダの私邸・マール・ア・ラーゴによく似た感じに(改装している)。私邸では何をしてもいいが、みんなのものであるはずのところに自分色の様々な建物を作ってしまっている。その上、歴史的な建物であるにもかかわらず、議会の承認も得ず、歴史家や建築家に聞くこともなく進めてしまっている。それに対し、批判が多いのは当然のことだと思う」

 批判が多いことに対し、トランプ氏は気にしていないのだろうか。三牧氏はアメリカの成り立ちに触れ、次のように指摘する。

「アメリカは独立宣言から今年で250周年。トランプ氏は、その250周年に向けていろいろとやっている。そもそもアメリカは『王がいない』ということで作られた共和制の国。ヨーロッパのように王がいると統治国になるので、民主主義の国としてやってきたが、そこから250年が経ち、『あたかも王になりたい大統領が生まれたんじゃないか』ともアメリカでは言われている」

■司法や議会の抵抗と「王様になりたい」トランプ氏の暴走

 さらに、トランプ氏が掲げるアメリカ建国250年記念事業において、自身の存在を強く打ち出した計画が浮上している。新たに「250ドル紙幣」の発行構想を抱いているとされるが、アメリカの連邦法では存命人物の肖像を紙幣に描くことが禁止されているため、発行に至っていない。しかし、この計画に懸念を示した造幣局の担当局長は今年4月に突然、別の部署へ更迭・異動された。

 一方で、トランプ氏の姿をあしらった記念硬貨はすでに米国美術委員会によって承認されたほか、「記念パスポート」の限定発行計画も明らかになっている。

 トランプ氏が強引に進めるこうした事業に対し、司法や議会が抵抗する動きも徐々に出始めている。去年の12月、オペラなどが上演される「ケネディ・センター」を「トランプ・ケネディ・センター」に名称変更しようとしたが、今年5月29日に連邦地裁が名称変更を違法とし、名前の削除を命じた。

 この判決に対し、トランプ氏はSNSで「判事は恥を知るべきだ。自由に運営できないなら一切興味がない。施設の管理権を議会に移す」と反発した。

 さらに、ホワイトハウス東棟の宴会場建設に関しても、警備費10億ドルの税金投入が歳出法案から削除された。

 こうした行政の一連の動きに対し、中林氏は「トランプ氏は様々なところで自分の名前を冠したり、自分のレガシーを残すための工事を行うなど『既存のルールの限界』を飛び越えることを試している。それに対して議会・司法も、そろそろトランプ氏にNOを突きつけるべきではないかという非常に興味深い動きが出てきている」と分析する。これに三牧氏は「本当に王様になりたいのかもしれない」と漏らした。

 また、建国250周年コンサートでは、公表されていた9組のアーティストのうち6組が出演辞退を表明した。「党派性のないイベントだと思っていた」と説明するアーティストに対し、トランプ氏は激怒し、「政治集会に変更すべき」と主張しているという。

「今、トランプ氏が(ホワイトハウス敷地内に)大宴会場を作ったり、ホワイトハウスを壊したりしているこの局面で、こうしたコンサートに出てしまうと、アーティストがその政策に賛成しているのかという目が向けられるので、コンサートに出たくないという気持ちはわかる」(三牧氏)

 アメリカという国家の根幹を揺るがす「ホワイトハウス・ワシントン改造」の行方は、今後も波紋を広げそうだ。

(『わたしとニュース』より)