教育や治療よりも前に大切なこと…小児科専門医が教える”発達障害”の子が将来「自立」するために必要な「2つの力」

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発達障害のことを少しでも知っている人は、適切な教育や必要な治療を早期に始めれば、子どもの力を大きく伸ばせる可能性があることをご存じだろう。だが、対応を始めさえすれば、必ず成果がでるわけではない。子どもの力が芽吹くための”土壌“が整っていなければ、徒労に終わってしまうこともある。では、子どもの育ちの基礎となる土壌とは何なのか。まもなく『発達障害を抱える子どもの「できる!」を増やす作戦事典』を刊行する武田洋子先生(小児科専門医)が語り下ろした記事をお贈りする。

「それぞれの居心地」を保障する

前回の記事では生きていくうえでとても大切になる「自尊感情」について説明しました。なかでも特に大切とされるのが「基本的自尊感情」ですが、少しおさらいしておくと、それは、

●“自分がそこにいていい”と思える気持ち

●何をしなくても、何ができなくても、それでも“自分が生きていることを当たり前と思える”揺るぎない気持ち

でした。人生と人格のsafety netとも言える基本的自尊感情は、まさに「生きていくための基礎」です。この感情は子どもに何もしなくても自然に育つ、というようなものではありません。信頼できる大人と、日常のなかで体験や感情の共有を積み上げていくことで、初めて育つものです。

基本的自尊感情を育むためには、まず大人のほうが、ありのままの子どもを無条件で受け入れてあげる必要があります。ありのままでいてくれるだけでいいと無条件で受け入れられて、子どもは初めて安らぎを感じます。それが、基本的自尊感情が育つ土台となるので、ご家族には躾や学習よりも、まず子どもに「安らぎ」を与えていただきたいと願っております。

子どもに安らぎを感じてもらうには、どういうことに気を付ければいいでしょうか。

まず家庭での居心地の良さが大切です。他人どうしが集まる保育園、幼稚園や小学校も、安らげる環境へと整えることが大事ですが、その際には上手な“住み分け”も考えていただきたいと思います。

“みんな”が一緒に居心地よく共生できればいいのですが、特性に偏りのある発達障害の子どもに、そのような場を実現するのは簡単ではないからです。まずは「それぞれの居心地」を保障することで、自尊感情が損なわれることなく育まれる、そのような環境作りを目指していただきたいと願います。

実生活で大切になる「経済」「対人関係」の力

「生きていくための基礎」としての自尊感情の大切さやその伸ばし方をお伝えしたところで、子どもが将来、自立して生活するためには、どんな力が必要になるかを考えてみます。

私は「経済」と「対人関係」の2つが大切だと思います。

★経済

まず経済についてですが、「経済観念」、すなわちお金の価値がわかる力は欠かせません。金銭価値の理解のためにも、ぜひ「おつかい」を子どもに経験させてあげたいところです。おつかいを通し、“労働によりお金が得られ、そのお金でものが買える”ということを体験させ、就労意欲に繋げたいと思います。

おつかいは、ものの値段の「相場感覚」、つまり常識的な価格の理解を養ってくれます。たとえば、ハンバーガーが2000円で売られていたら「通常より高い!」とわかる、あるいは「お昼ご飯は〇〇円くらいにおさめるのが普通」、といった判断ができるということ、こうした相場感覚は、社会で収入に見合う生活をする上で重要です。

また、経済観念とともに「経済力」も大切です。将来の自活のためには、働いて収入を得ることが必要だからです。働く意欲を育てるためにも、ぜひ、街で働くいろいろな職業の方々に目を向けさせていただきたいと思います。

★対人関係

次に「対人関係」について。言うまでもありませんが、社会ではいろいろな人と関わりながら生きていくことになります。その際にうまく関係をつくり、維持できる力が大切です。

たとえば子どもが、“今日、放課後に友達と3人で自分の家で遊びたい”と思ったとします。しかし、友達は別のことをしたいかもしれないし、習い事や塾があるかもしれません。それらの事情に想像力を働かせ、

●低学年までにある程度は他人の気持を考えられるようになる

●中学年からは、他人の都合も考えられるようになる

ということができるよう、少しずつでもいいので、子どもを後押ししていただきたいと思います。

子どもの力を伸ばすためにできることとは

それでは「経済」「対人関係」など、自立に向けて必要な力を子どもにつけてもらうために、大人として何ができるでしょうか。

まず、生活行動の習得のために、家庭でも学校でも「お手伝い」を子どもにしてもらいましょう。ままごとが好きな子には家事のお手伝いから、パソコンが得意な子にはパソコンを積極的に活用してもらってできることを増やす、など、「できるところから」始めることをお勧めします。子どもが頑張らなくてもできる易しいことから始めてください。

子どもは実体験を積むことで生活上のいろいろな力を身につけていきます。家族や周囲の者がヘルプしながら、失敗を恐れずいろいろな用事をやらせてほしいと思います。

失敗しても困らないことから始めて、徐々に難しいお手伝いへとステップアップしていくといいかもしれません。できるだけ家族みんなに関わることで、体を動かす作業がおすすめです。学校でも、「お花の水やり」や「給食当番」など、「役割を果たす」経験をさせてほしいと思います。

なお、給食当番を任せるときは、最初はパンや牛乳などこぼれないものから始めてください。助け合いながらそれぞれが役割を果たせる環境は、クラスの全ての子どもたちによい効果をもたらすと思います。

家庭や学校で何か役割を果たせたとき、子どもたちは達成感を得ることができます。そして達成感は、継続する意欲にも繋がります。

子どもの意欲を伸ばすためには、周囲の対応も大事になってきます。大人は、好ましい行動に対して必ず「褒める、感謝、ねぎらい」の言葉をかけるのを忘れないでください。子どもが取り組んだら、その場ですぐ褒めて、さらに「ありがとう」「ごくろうさん」の言葉を伝えます。

なぜ「ありがとう」「ごくろうさん」まで伝える必要があるかというと、褒め言葉は、子どもが大人の指示に従った、応えたことを評価する言葉ですが、「ありがとう」「ごくろうさん」は、子どもの行動そのものへの純粋な感謝とねぎらいであり、基本的自尊感情の育ちに資するからです。

わずか一言、二言ですが、その一言が日常的に繰り返され、積み上がっていくと、やがてお手伝いという行動が、「指示に従ってする行動」から、自らの意思による行動へと進化します。そして、それが社会で生活する力につながります。

「好ましい行動」を後押しする

生活のなかでは、子どもが様々な「好ましくない行動」をしてしまうこともあるでしょう。その際には、まず「無視・待つ・ほめる」の対応をおすすめします。これは世界的に知られた療育プログラムであるペアレントトレーニングの技法です。

例えば学校で、授業中に立ち歩いたり、他の子に話しかけたり、といった「好ましくない行動」を大人がすぐさま叱ると、注目を得ようとして、子どもがまた同じ行動を繰り返すことがあります。

そこでその行動を無視し、あえて叱らない。そして好ましい行動を待つ。好ましい行動が出たらすぐほめるという対応が、「無視・待つ・ほめる」です。

“必要なことをしない”というのも、好ましくない行動の一種です。たとえば「挨拶をしない」「掃除をしない」などがそうです。このような場合は、たとえば、掃除をしていない本人の行動は無視し、その周囲にはたらきかけます。つまり、お掃除をしている子に向かって、

「みんな偉いね」

などとほめる言葉をかけます。そして掃除をしていない子が気づくのを待ち、掃除を始めたら、「ちゃんとできるんだ。えらい!」という具合でほめます。

なお、就学前の小さい子どもは、無視されると“お母さん、あるいはお父さんは自分のことが嫌いなんだ”と勘違いするおそれがあります。また、好ましい行動がまだ子どもにはわかっていない、という場合もあります。

その場合は、ただ待っても好ましい行動は期待できないので、大人のほうから他の子の好ましい行動に目を向けさせ、「あの子、偉いね。君もやってみようか」「できたらお母さん嬉しいよ」と真似するように後押しすることをおすすめします。

子どもの「好ましい行動」を後押しするには、「約束」と「報酬」を活用するのもおすすめです。

約束とはたとえば、小さい子の場合「おもちゃをお片付けしたらご本読んであげるよ」と取り決めて、機嫌よく好ましい行動をするように、後押ししてあげることを指します。この場合は“本を読んでもらえること”が報酬になっています。

学齢期以降の子の場合は、報酬を時間的に少し遠いところに設定して、

●まず目標を立てる

●その日に目標を達成したらカレンダーに印をつける

●印がいくつかたまったら報酬をあげる

というかたちで進めるのも効果的です。ちなみに、この方法で、子どもに人気がある報酬は、私の経験では「晩ご飯に好きなものを作ってあげる」です。

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