「我が子を取り戻したい」…自宅出産した3人のうち2人を行政が保護 内縁夫婦の“親子愛”に香港が困惑した「Save Lily事件」の2週間
我が子と“引き離された”両親
息子を手にかけた養父、父親の暴力を児相に訴えた娘、わが子の顔を誕生日ケーキに押し付ける母親――日本で頻繁に物議を醸す話題と言えば「親子関係」である。香港でも5月末、1組の個性的なカップルをきっかけに注目度が急上昇した。
【写真を見る】ウェブ上には「何の変哲もない平和の家族」の姿が
現地の事情に詳しいジャーナリストは言う。
「昨年に海外から戻った内縁の夫婦が、スウェーデン当局に“奪われた”我が子を救ってくれと区議員に訴えたんです。リリーという4歳の女の子で、香港メディアは夫婦が開設したFacebookページのタイトルを取って『Save Lily事件』と呼び始めました。そのページでは、2年半前からリリーちゃんの画像や関連書類が公開されていたのです」

「我が子と引き離された親」と聞けば世間は同情するものだが、
「夫婦はメディアの取材にも積極的に応じましたが、明らかになった背景には“ちょっと待てよ”と引っかかるところが多々あった。夫婦への見方も瞬く間に変化し、現在は同情を得るのが難しい状況です。あまりにも早い展開でした」
返還の訴えは却下、訴訟も棄却
ジェットコースター的展開で「話が見えない」の声も聞こえる「Save Lily事件」は、10年ほど前に夫婦がフィンランドへ渡ったことから始まった。
「夫は留学生、妻は配偶者の立場だったそうです。2019年に長女を自宅出産しましたが、1カ月ほどで亡くなり、2人は過失致死などの容疑で起訴されました。2021年10月に次女のリリーちゃんを自宅出産した際も自宅を捜査され、一家3人でスウェーデンに移動したそうですが、起訴されたまま移動するというのがまずよくわからない」
スウェーデンの在住資格を持っていなかった一家はホテルを転々とし、最後はトラックでの寝泊まりになった。すべての生活費を現金で所持していたため、窃盗とマネーロンダリングの容疑で逮捕されたのは2023年12月のこと。
「容疑は数日で晴れたのですが、リリーちゃんの出生届が出ていないことや育児放棄、意図的な放浪生活などを根拠に、スウェーデン当局はリリーちゃんを保護しました。彼女は里親に養育されていますが、出生届が出ていないので法的身分を持たないままです。一方で夫婦は『Save Lily』のページを開設し、2024年3月に英国へ移動。スウェーデン当局にリリーちゃん返還を訴えましたが却下され、次に訴訟を起こしました」
突然現れた第3子と緊急逮捕
夫妻が「Save Lily」で先に公開していた裁判文書には、リリーちゃんが保護された際の様子が記載されていた。
「パジャマ姿でひどく汚れ、歯は虫歯だらけ、体に重度の湿疹という内容は、養育能力がないと判断されても仕方がないものです。訴えを棄却された夫妻は香港に戻り、今年の5月27日、区議員に助けを求めたことを公表しました。ここから『Save Lily事件』が注目されるのですが、裁判文書の内容もあって物議を醸します」
この時点で出生届の未提出と放浪生活も明らかとなり、香港の世論は本格的に疑いの目を向け始める。が、5月28日、まったく別の“火種”が現れたのだ。
「夫婦が香港メディアのインタビューに連れてきた、推定生後2カ月のダニーくんです。その記事によると、夫妻は昨年に香港へ戻り、今年春ごろにダニーくんを自宅出産。香港で出生届を提出する際、当局に求められたDNA鑑定を“宗教上とプライバシーの理由”などで断ったため、現状では未提出の状態だそうです。他にも、自宅での自然分娩にこだわり、あらゆるワクチンを拒否するポリシーも明かしています」
「ダニーを救え」に一転である。
「その記事が公表された5月31日の時点で、巷には呆れムードが流れたのですが、6月2日に事態は急展開します。夫婦が児童虐待容疑で逮捕され、ダニーくんが保護されたのです。ついに夫婦はDNA鑑定に応じ、数日後に親子関係は証明されましたが、ダニーくんはまだ戻されていません」
「リリーを香港に帰らせるな」の声も
翌日の夕方に保釈された夫婦は、警察はDNA鑑定を熱心に勧めるなど「とても親切」だったことを明かした。
「事態の膠着を防ぐための“介入”だったようにも思えますね。香港当局はリリーちゃんの件でも動き、DNA鑑定の結果をフィンランドに送って親子関係を証明するそうです。が、『香港へ帰らせないで』と訴える声もある。海外移住が身近な土地だけに滞在資格やビザに敏感ですから、リリーちゃんの出生届を出さなかった理由は不法滞在ではという見方も根強い。これも“親としてどうなのか”という批判につながっています」
出産と育児を含め、夫妻はどのような考えで行動しているのか。
「自宅出産に関する法整備を求めるなど、これまでの発言からすると、医療による“治療”を拒否し、自然のままでいることを尊重しているようです。宗教的な信念によるものだそうですが、宗教名は明かされていません。子供に対する愛も語り、虐待の意図がないことは伝わるのですが、社会的な行動が伴っていないため巷は困惑しています。夫は理学療法士、妻は教師の資格を持っていると自称する割には2人そろって無職という点も引っかかる。巷では『親の資質』や『親の信念と子の関係』といった議論と並行して、『税金を払っていない元海外在住者にどこまで福祉サービスを提供するのか』という批判も上がっています」
10日、1週間ぶりにダニーちゃんと面会した夫婦は、リリーちゃんの件で香港当局が動き出したことについて「ダニーがいたことでむしろすべてが急に動き出した。(ダニーの)犠牲というよりは、逆に一種の、家族による協力だったといえる」と語っている。
デイリー新潮編集部
