トランプ型G2の世界で日本は「どうして」「どのように」中国に頭を押さえつけられることになるのか
Ge6月4日公開の拙論「日本の高株価を揺るがす大リスクが…トランプ『台湾への武器売却は中国との交渉材料』発⾔で半導体バブル崩壊の可能性」で述べたように、トランプ米大統領は、習近平中国国家主席との会談で、台湾への武器売却を中国との交渉材料であるかのように扱った。
そして、米中首脳会談を「G2会談」と表現した。
トランプ氏は制度化されたG2構想を体系的に示したわけではないが、G2という言葉が、米中首脳による直接取引、同盟国の頭越しの合意、勢力圏の黙認などの不安を呼び起こしたことは否定できない。
こうした中で、日本はどのように行動すべきか?
バーグステン型のG2からトランプ型のG2へ
「G2」には二つの意味がある。古典的な意味のG2は、米中が世界を共同管理することだ。この考えは、フレッド・バーグステン(米シンクタンク・ピーターソン国際経済研究所の創設者)が2005年ごろに提起し、2008年の論文や2009年の Foreign Affairs 論文 “Two’s Company” で広く知られるようになった(「揺れる米中、接近・対立・競争、25年間で『G2』時代に トランプ氏、対話に意欲」日本経済新聞、2026年5月13日)。
バーグステン型G2は、米中が国際経済秩序を共同管理するという協調型の構想だった。
これに対して、トランプ型G2は、国際制度や国際機関を通じた協調を重視せず、米中首脳が直接取引し、勢力圏や個別利益をディールで処理するという発想だ。つまり、米中が勢力圏を分け合うというものだ。
世界経済や国際秩序を、アメリカと中国が主導し、取り仕切る。こうした中で、台湾、日本、韓国などは、取引材料にされる危険がある。また、日本を含む他の同盟国・周辺国の発言力が低下したり、米中による「勢力圏の承認」に繋がったりすることもありうる。
日本や韓国の位置はどうなる?
トランプ大統領のいう「G2」が本格化すると、日本・韓国・オーストラリアは、米国の同盟国でありながら、米中間の大取引からは外される可能性がある。
とくに台湾問題では、米国が中国と直接取引し、台湾・日本・韓国・豪州などの安全保障上の利害が後回しにされる危険がある。
この場合、日本の位置づけは微妙になる。日本は米国にとって、対中抑止の最重要拠点であり続けるだろう。沖縄・横須賀・佐世保などの米軍基地、自衛隊の能力、台湾有事における地理的位置を考えれば、日本を切り捨てることは、米国から見て不可能に近い。
しかし同時に、トランプ流のG2では、日本は「米国の同盟国」ではあっても、「米中合意を左右する当事者」ではない。米中が台湾、関税、半導体、レアアース、軍事的緊張緩和などに関して直接取引すれば、日本は結果を受け入れさせられる側に回る危険がある。
韓国は、日本以上に「板挟み」になりやすい。韓国には在韓米軍があり、米韓同盟は北朝鮮抑止の柱である。他方で、韓国経済は中国市場や中国サプライチェーンとの関係が深い。したがって、米中G2が進むと、韓国は米国から防衛負担増、対中技術規制、インド太平洋戦略への協力を求められる一方で、中国からは「米国側に寄りすぎるな」と圧力を受ける。つまり韓国は、米中対立が激しいときも苦しいが、米中が大国間取引をするときにも、自国の頭越しに朝鮮半島・台湾・半導体問題などが扱われるリスクを抱える。
日本と韓国に共通するのは、同盟国としての価値は高まるが、発言権が高まるとは限らないという点だ。実際、2026年のシャングリラ会合(IISSアジア安全保障会議。イギリスのシンクタンク「国際戦略研究所:IISS」がシンガポールで毎年開催し、アジア太平洋地域の国防相や軍関係者が一堂に会する世界有数の安全保障会議)で、ヘグセス米国防長官は、中国への警戒を示しつつ、アジアの同盟国に防衛費増額を求め、「米国が裕福な国の防衛を補助する時代ではない」と強調したと報じられている。
これは、トランプ流G2のもとでは、同盟国が「守られる国」から「費用を払って米国戦略を支える国」へと位置づけ直されることを意味する。
要するに、トランプ流G2が実現すれば、東アジア・オセアニアの国々は、米国の同盟・友好国であり続けるとしても、米中二大国の取引によって地域秩序が決められる構造に押し込まれることになる。
こうした中にあって日本にとって重要なのは、米国に従うだけでなく、韓国、オーストラリア、ASEAN、欧州と連携し、米中の頭越し取引を制約する「中間勢力のネットワーク」を強めることだ。
日本の外交・安全保障上の自律性喪失の危険
ただし、「日本が、香港のように中国の主権下に入る」という可能性はかなり低い。日本は独立国家であり、日米安保条約もある。米軍基地もあり、自衛隊もある。日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域への武力攻撃に対し、日米が「共通の危険に対処する」と定めている。
しかし、危険をもう少し広く考えれば、「経済活動は自由に見えるが、外交・安全保障・言論空間で中国に強く配慮せざるを得ないという状態」は、十分考えられるものだ。これは、「香港化」というより、冷戦時代のフィンランドに近い状態だ。
香港の場合は、中国が1997年に主権を回復し、「一国二制度」のもとで高度な自治が約束された地域だった。しかし2020年の香港国家安全維持法、さらに2024年の新たな国家安全条例によって、政治的自由や反体制的言論の余地は大きく狭まった。
日本は香港とはまったく条件が違う。中国が日本に対して直接統治権を持つわけではない。
トランプ流G2は、従来型の米中共同統治ではなく、勢力圏の分割とディール外交を特徴とするものだとする議論が多い。この場合、日本は、中国の直接支配下に入るのではないが、米国が日本の安全保障上の利害を中国との取引材料にしてしまう危険にさらされる。
具体的には、第一に、台湾問題で日本の発言力が弱まる危険がある。米中首脳会談をめぐって、日本側では、 台湾有事は日本の安全に直結するが、米中が「台湾問題は米中で管理する」として日本を脇に置けば、日本は当事者でありながら決定権を持たない立場になる。
第二に、尖閣諸島、南西諸島、防衛費、対中輸出規制などの問題に関して、日本が中国に過度に配慮するよう圧力を受ける危険がある。これは中国の直接支配ではないが、政策決定の自由度が狭まる危険はある。シャングリラ会合でも、日本の防衛相は中国の「新軍国主義」批判を拒否し、中国の急速な軍備拡張を批判した。このように、日中間では台湾をめぐる緊張がすでに高まっていると言える。
第三に、経済面では、中国市場・部品・素材・観光・留学生・金融取引に依存している企業ほど、中国の圧力を受けやすくなる。中国は日本全体を支配しなくても、特定企業、特定業界、地方自治体、大学、メディア、政治家に対して、「中国に不利なことを言うな」という圧力をかけることができる。この場合、表面的には自由市場が残っていても、政治的発言や安全保障政策では自己検閲が広がる可能性がある。
したがって、表現としては、「日本が香港になる危険」よりも、「日本が中国の勢力圏に組み込まれ、政治的に萎縮する危険」と表現するほうが正確だろう。
では、日本はどうする?
以上の議論は、次のように整理できる。
日本が香港のように中国の直接支配下に入る可能性は低い。しかし、米国がG2の名で中国との大国間取引を優先し、日本の安全保障上の利害を後回しにすれば、日本が「政治的に中国に逆らいにくい国」へ押し込まれる危険はある。
つまり、本当のリスクは「香港化」そのものではなく、香港化の手前にある、外交・安全保障上の自律性の喪失だ。
日本にとって重要なのは、米国への依存を維持しつつも、それだけに頼らないことだ。米国の関与に不安が広がるなかで、インド太平洋諸国が日本、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどとの防衛協力を深め、地域内の自律性を高めようとしている動きもある。日本は、これらの諸国、および韓国、フィリピン、インド、欧州、ASEANとの安全保障・経済連携を厚くし、米中だけで地域秩序を決められない構造を作る必要がある。
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