今年で21年目を迎える「セ・パ交流戦」…初開催の05年から激変した2つの“球界の常識”とは? ひとつは「パ・リーグの劇的な地位向上」、そして
今年の交流戦も今日から後半戦。すっかり定着した試合ですが、ここに来るまでは紆余曲折がありました。プレーする選手、運営する球団、そして試合を伝えるメディアまで……東海ラジオで35年間、プロ野球実況に携わった村上和宏さんがいままでの舞台裏を解説します。
放送権料の問題
今年のセ・パ交流戦も今日から後半戦となります。
2020年シーズンは、コロナ禍による緊急事態宣言が出た影響で中止となりましたが、今年で21回目。すっかりファンの間にも定着したと言っていいのではないでしょうか。
交流戦は2004年に持ち上がった「球界再編」問題に端を発します。選手会による日本球界初のストライキを経て、労使双方による話し合いの中で「プロ野球界の活性化」策の一環として選手会側から提起され、翌05年から始まりました。

現在とは違い、交流戦が実施される前のパ・リーグの試合は、地元密着で常勝軍団を築いたホークスの福岡を除き、他の球場のスタンドは(特に平日だと)ガラガラ。シーズン終盤の優勝争いの時期になっても、スポーツニュースでの取り扱いはセ・リーグと比べると圧倒的に少ないものでした。
パ・リーグでプレーする選手は「同じプロ野球なのに」と悔しい思いだったと、パ出身(阪急・オリックス)で、のちに中日ドラゴンズでコーチを務めた石嶺和彦さん(65)から聞いたことがありますし、逆に広島カープから阪急ブレーブスにトレードで移籍した水谷実雄さんからは「リーグが違うだけでこんなに扱いに差が出るのかと愕然とした」という話を聞きました。
交流戦は、選手会が提起した「プロ野球活性化」という面はもちろんですが、パ・リーグ球団の経営側からすると、収益を大きくアップする千載一遇のチャンスとなりました。セ・リーグ球団の経営側には「巨人戦の数が減るのは困る」という反対意見も出ましたが、選手会側につく世論に押される形で実施が決まりました。
つまりパ・リーグに限って言えば、まさにWin-Winの関係だったのです。
以前にも書いたように、セ・リーグ各球団は巨人戦の1試合だけで億を超えるテレビの放送権料が収益の大きな柱でした。
例えば名古屋の場合、中日―巨人戦の中継は、地元・東海テレビの制作となりますが、全国ネットされるため、キー局であるフジテレビとの共同制作となり、巨人に支払う莫大な放送権料はフジテレビが負担します。系列局との共同制作という形で、東京キー局が放送権料を負担しても、放送権料を大きく上回る番組販売収入(CMなど)があったからできたことです。
パ・リーグ球団の経営は、セ・リーグ球団が持つ、この収益の大きな柱がずっとないままでした。試合数は少ないとはいえ、交流戦の実施により、チケット収入では何試合分にもなる億単位の収益が、たった1試合で入ってくることになったのです。
パ各球団の動きは迅速でした。まず巨人戦のチケット代だけは通常料金より高く設定し、併せてセ・リーグ球団に倣い巨人戦のテレビ中継放送権料を他のカードとは比較にならない金額で設定したばかりか、ラジオ中継の放送権料も巨人戦だけは別料金に設定しました。
当時、セ・リーグ各球団は巨人戦だけ他のカードよりチケット料金を高く設定しているところがほとんどでした。日々テレビ中継があり、テレビで見慣れた人気選手を見たいという需要が高かったのです。パ・リーグもこれに倣いました。
ラジオはテレビと違い、主催ゲームを全試合中継するスタイルなので、地元のラジオ局とは1試合ごとではなく1シーズンいくらという形で放送権料を年間契約するのが通例ですが、普段中継がないラジオ局が「巨人戦だから中継したい」と言ってきた時に収益を上げられるようにし、さらに地元の局についても巨人戦だけは別料金という設定にしたのです。
選手にはメリットが
一方、パ・リーグの選手にとっても交流戦、とりわけ「全国ネット」でテレビ中継される巨人戦というのは、そのモチベーションを大きく上げるものでした。当時、お立ち台で「今日は地元で両親もテレビを見ていると思うので」と語る選手が多くいたのを思い出します。
また、それまではどんなに活躍してもニュースで取り上げてもらえないことが多かったのに、何もしなくても時間をかけて紹介されます。何よりモチベーションが上がったのは、満員のスタンドでプレーすることだったと、多くの選手が語っていました。
開催初年の2005年はホーム・ビジター3試合ずつ、1チームと6試合の36試合制でした。つまり1か月半にわたる長丁場でした。その後2試合ずつで1チームと4試合の24試合となり、現在はホーム・ビジターどちらかで1チームと3試合で18試合制になっています。
この試合数の変遷が意味するものは何でしょうか。
36試合制当時、「同一リーグとの試合が1か月半も中断するのは長すぎる」という声が監督をはじめ、選手の間でも多く聞かれました。これを受けて、24試合制になりましたが、2連戦で移動となると、火曜日〜日曜日6試合という、基本の日程が崩れてしまいます。集客が見込める土日に試合がないという選択肢はなく、土日は実施となるとその調整のため、2日試合がなくなる、などといった変則日程になりました。
また本来、試合がない月曜日に試合が入る、逆に試合があるはずの平日に試合がないという事態となり、特に火曜日から日曜日に野球中継をレギュラー編成しているラジオ局から、編成変更が何度も必要になることへの不満が噴出し、交流戦が始まってから急増した総試合数増加に対する選手の負担軽減との理由もつけられ、今の18試合に落ち着きました。
巨人ブランドの低下
交流戦の試合数削減は、開始当初からセ・リーグ球団から特に声が上がっていましたが、パ・リーグ側がこれを受けた理由のひとつは「プロ野球」、特に「巨人」のコンテンツとしての価値低下だと思います。
巨人戦のテレビ放送権料で儲けようとしたパ・リーグ球団でしたが、ほどなく巨人戦は特定の局で全試合中継という時代が終わり、うまみのあるコンテンツではなくなりました。
さらに、巨人に「この選手を見たい」というかつてのONや原辰徳、松井秀喜のようなスター選手がいなくなり、巨人戦だけチケット代を高く設定すると寧ろ売れ行きが悪くなるようになり、その点でもうまみがなくなりました。
スワローズなど、一部巨人戦だけ別料金の球団も最近までありましたが、ダイナミックプライシングの導入などもあって、今では巨人戦を特別扱いする球団はなくなりました。
そしてもう一つは、パ・リーグの地位向上です。
くじ引きなので、あくまで偶然ではありますが、ダルビッシュ有(39)、田中将大(37)、斎藤祐樹(37)、大谷翔平(31)など、ドラフトで「数十年に1人の逸材」と言われる人気と実力を兼ね備えた選手が、ことごとくパ・リーグの球団に入団しました。各球団がそれまで以上に「地元密着」路線に舵を切った中で、人気選手の獲得は観客動員に大きく貢献しました。
結果として「巨人戦頼み」でなくとも経営改革ができたことになります。
このような変遷を経て今に至る交流戦ですが、去年までの通算成績は、セ・リーグ1217勝、パ・リーグ1369勝、78試合の引き分けと、パ・リーグが大きく勝ち越しています。パの強さが際立つ交流戦の中で、去年は上位6チームがすべてパと、象徴的な年になりました。
後半戦を迎えた今年の交流戦、セ・リーグ各チームがどれだけ意地を見せるか、注目です。
村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。
デイリー新潮編集部
