【A4studio】AI台頭で「文系人材は余る」、衝撃の予想が発表も…新卒採用では「文系のほうが理系よりも有利」といえるワケ
経済産業省は今年3月、大卒・院卒の文系人材が2040年に約80万人余るとの推計を発表。背景には事務職といった文系職種業務の一部が、AIやロボットによってデジタル化されることによる採用減が進んでいるといった事情があるとみられる。その一方で、理系人材はAIやロボットの普及によって不足の傾向となり、市場価値は今後高まっていくという。
この発表に対して、ネットでは日本の就職市場や教育現場の変化を危惧、疑問視する声が散見。国立大学や早慶レベルであれば文系学生も引く手あまただろうが、もしかすると「MARCH」(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)の文系学生が就活で苦戦する未来が近いうちに到来するなんてことも……?
今回は、労働・雇用などに関する研究を多数行い、就職市場に精通するパーソル総合研究所の主席研究員である小林祐児氏に話を聞いた。(以下「」内は小林氏のコメント)
記事前編は【AIの台頭で「MARCH文系」でも就職難の時代が来るか…企業が新卒採用数を減らす「裏事情」】から。
日本独自の新卒ポテンシャル採用制度が再評価
経済産業省が2040年に文系人材が80万人余るという推計を発表したが、これにより例えば今後は欧米のように、より実務的なスキルが求められるジョブ型採用が広まっていくことなども考えられるだろう。
しかし小林氏は文系人材が今後大量に余ってしまうということは、あまり現実的ではないと言う。
「日本の新卒採用では長きにわたり、職務内容をあらかじめ限定しないメンバーシップ型雇用となっています。こうしたいわゆるポテンシャル採用は、大学で学んだ学問の内容ではなく、学生本人のコミュニケーション力や思考力を重視します。つまり、欧米のように大学で学んだ専門学的スキルが就職先に直結するのではなく、日本の場合は文系や理系といった垣根を越えて、より幅広い職種にチャレンジできる可能性があるんです」
欧米の場合、大学の約4年間、さらに大学院の約2年間も入れて計6年間にわたり、ひとつの分野で専門性を高めていき、そのスキルを活かして就職することがスタンダード。
しかし日本では例えば、慢性的な人手不足に悩むIT業界で、SE職に文系出身の未経験者を採用するというのも実際にあるケース。このように、学問分野に左右されない柔軟性の高い採用方式が、改めて労働市場において再評価されているそうだ。
新卒採用は文系学生のほうが有利なことも
さらに経済産業省の発表により、今後理系人材は不足していくという推計も出たが、新卒採用に関しては、理系学生よりも文系学生のほうが有利な場合もあるという。
「理系学生の場合、研究分野における専門的な知識を身に付けることはできても、その知識を応用して活かせるようなビジネス実務レベルの即戦力になれる人材は一握り。企業としては、大学などで学んだテクノロジーの知識を、ビジネス領域に落とし込める理系人材が欲しいものの、それには専門的な知識だけでなく、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力も必要になるわけです」
そこが理系学生に欠けがちなファクターになっているとのこと。
「プレゼンテーションやコミュニケーションといったビジネス領域に必要な能力に関しては、早くから専門性の高い研究の殻に閉じこもりがちな理系の学生よりも、例えば経営・経済学部など、企業のあり方や社会の仕組みなどを総合的に学ぶ文系学生のほうが長けていることも多々あります。
実際未経験でSEとなる文系学生は、対人スキルといったビジネスに必要な能力を見込まれて採用されることも多い。ですから結論を言うなら、今後AIが進化・普及していく未来を踏まえても、『MARCH』の文系学生の就職が厳しくなるとった状況にはならないと考えています。そもそもそういった背景があるため、新卒市場において文系人材・理系人材とくくって考えること自体、あまり意味がないとも言えるのです」
AIを活用できる人材が生き残る
AIの普及により学生たちの就活事情にも変化が生じてきている。paiza株式会社が2026〜2029卒のITエンジニア志望の学生1075名を対象に実施した調査では、26卒学生の実に8割が就活において生成AIを利用していると回答。具体的にはエントリーシートの作成や、自己分析、面接対策などに生成AIが利用されている実態があるという。
小林氏は誰しもがAIを使う世の中になりつつあるいま、“AIに飲み込まれないこと”が重要だと語る。
「AIという新たなツールが普及し始めている現在、就活生にとってはAIを活用することもできますが、AIに“依存しすぎる”リスクもはらんでいるという、非常に難しい局面を迎えている状況だと言えます。
AIばかりに頼ってしまっては、例えば自分で考える力や実際に足で情報を稼ぐという実践力など、いろいろな能力が育たなくなる懸念もあります。AIはあくまで活用するまでにとどめる意識、依存しすぎない意識を持っておくことが、これからの時代には大切になるのではないでしょうか」
エッセンシャルワークの必要性が高まる
最後に、今後の就職市場はどう変化していくのか、小林氏に予想してもらった。
「現時点でもすでに傾向として表れていますが、ルーティンワークの多い事務職はAIによるオートメーション化が進みやすいため、今後激減していくと考えられます。代わりに需要が広まっていくとされる職種としては、情報通信系はもちろんのこと、医療・介護・福祉・保育といったいわゆるエッセンシャルワーカーの職も挙げられるでしょう。
そして、これまで事務職に流れていた人材は、総合職あるいはエッセンシャルワークに流れていくとみられます。高齢化は避けられない課題であるとともに、医療や介護、福祉、保育はAIで代替できない人の手が必要となる職であることから、新卒市場でも今後ますます若手人材の獲得競争が激しくなっていくのではないでしょうか。
現在、介護などに関しては過酷な労働環境や雇用条件が問題視されることもあり不人気なイメージもありますが、エッセンシャルワークの必要性が強まるとともに、おのずと雇用の課題も改善されていくでしょう」
――AIやロボット技術の進化で徐々に変化の兆しを見せる就職市場。
小林氏によれば、“文系学生は「MARCH」ですら安心できない”といった状況にはならず、そもそも理系・文系といったセグメント化にさほど意味がないとのことだ。AI時代を生き抜くためには、自ら考える力など、AIなどには代替できないような“人間的スキル”を磨き上げていくことが大切なのかもしれない。
(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)
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