(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢の親の家計は、子どもから見えにくいものです。年金額や預金残高、日々の支出を本人が詳しく話さない限り、家族は「困っているのか」「本当は余裕があるのか」を正確に把握できません。ときには、亡くなった後の遺品整理で、親が隠していたお金や思いを初めて知ることもあります。

「お金がない」が口癖だった父…遺品整理で見つかった封筒

会社員の直也さん(仮名・49歳)は、78歳で亡くなった父・誠一さん(仮名)の部屋を整理していたとき、押し入れの奥から古い菓子箱を見つけました。

中には、見慣れない通帳と、茶封筒が数通入っていました。

封筒には、父の筆跡で「病院」「葬式」「家の修理」と書かれていました。中には、それぞれ数万円から数十万円の現金が入っていたといいます。

「最初は、何が起きたのか分かりませんでした」

誠一さんは、妻を亡くしてから一人暮らしを続けていました。年金は月14万円ほど。持ち家のため家賃はかかりませんが、古い家の修繕や通院費の負担はありました。

直也さんは、月に一度ほど実家を訪ねていました。そのたび、父はよくこう言っていました。

「生活が苦しくてな」

「年金だけじゃ、何もできん」

直也さんはその言葉を真に受け、時々食料品を届けたり、数万円を渡したりしていました。

「父は本当に困っていると思っていました」

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は月14万8,445円となっており、平均では毎月赤字です。年金だけで一人暮らしを続けることが難しい世帯は少なくありません。

だからこそ、直也さんは父の「苦しい」という言葉に疑問を持ちませんでした。しかし、見つかった通帳には、想像より多い残高が残っていました。現金封筒も合わせると、数百万円ほどになります。

「なんで黙っていたんだろう」

直也さんは、戸惑いを覚えたといいます。

通帳や封筒を整理していくうちに、直也さんは父の行動を少しずつ理解するようになります。封筒には、現金だけでなく小さなメモも入っていました。

「入院になった時」

「葬式で子どもに迷惑をかけない」

「屋根が壊れた時」

そこに書かれていたのは、父なりの備えでした。

誠一さんは、生活が苦しいと言いながら、実際には少しずつ現金を取り分けていたのです。食費を切り詰め、古い服を着続け、暖房も控えながら、いざという時のためにお金を残していました。

「迷惑をかけたくなかった」…封筒に残されていた父の不安

高齢期には、医療や介護、葬儀、住宅修繕など、いつ発生するか分からない支出があります。厚生労働省『令和5年 国民生活基礎調査』でも、高齢者世帯では公的年金・恩給を主な所得としている世帯が多く、限られた収入で暮らす実態が示されています。

誠一さんにとって、通帳や封筒の現金は「余裕資金」ではありませんでした。それは、自分が倒れた時、子どもに迷惑をかけないための最後の備えだったのです。

直也さんは、父の部屋を改めて見回しました。

古い電気ストーブ、すり減った座布団、何年も使われた茶碗。そこには、父が自分の生活を小さくしながら、万一に備えてきた痕跡がありました。

「もっと使えばよかったのに、と思いました。でも父にとっては、使わないことが安心だったんだと思います」

遺品整理の後、直也さんは封筒の一つに入っていたメモをしばらく捨てられなかったといいます。そこにはたった一言、こう書かれていました。

「直也に迷惑をかけない」

父の「生活が苦しい」という言葉は、「嘘」ではありませんでした。限られた年金の中で、日々の暮らしと将来への不安を両方抱えながら、父は父なりに家計を守っていたのです。

親のお金の実態は、通帳の残高だけでは分かりません。何のために使わずに残していたのか。なぜ子どもに言えなかったのか。

亡き父の部屋から見つかった通帳と封筒は、直也さんに、父が最後まで抱えていた不安と意地を静かに伝えていました。