インフレによる地価高騰やオフィス賃料の上昇を背景に、不動産業界は好況に沸いている。その一方で、足元の関連銘柄の株価は伸び悩み、半導体など外需株とのパフォーマンスの差が開きつつある。大手3社を中心に割安感が増してきたとみられ、押し目買いを探るタイミングと考えたい。

<オフィス需給ひっ迫続く>

 5月中旬に三井不動産 <8801> 、三菱地所 <8802> 、住友不動産 <8830> の不動産大手3社が開示した前3月期の業績は、連結営業利益がそれぞれ3978億円(前々期比7%増)、3297億円(同7%増)、2992億円(同10%増)といずれも過去最高益を更新した。オフィス賃料の上昇や空室率の改善により、各社が収益を積み上げている。

 今期は中東情勢をめぐる不透明感が残るものの、増益を維持する方向だ。菱地所と住友不はコンセンサスもクリアする安心感のある計画を打ち出したが、決算発表後の株価の動きは一様に弱い。日本の長期金利が一時1996年以来となる2.8%台まで上昇(債券価格は下落)したことで、不動産セクターからは条件反射的に資金離れが進んだ。また、ホルムズ海峡の封鎖によるナフサ不足が、建築費の高騰や物件の引き渡し遅延などに結び付く可能性が意識されたことも逆風となった。

 ただ、中・長期的に不動産業界は良好な事業環境が続くとみられる。三鬼商事によれば、東京都心5区の平均空室率は4月が2.20%(前月比マイナス0.02ポイント)と低水準が維持され、平均賃料は上昇した。人材獲得戦略や働き方の多様化への対応の一環として、企業がオフィスの質を求める傾向が強く、需給は緩みにくい状況。構造的にも都心の一等地に竣工する新物件が平均賃料を押し上げるため、不動産各社は金利負担の拡大を吸収し、収益成長を継続する見通しだ。

 また、株主還元についての各社の取り組みも前進している。三井不は決算と同時に上限400億円の自社株買いを発表。菱地所も前期の1000億円に続き、今回も最大500億円の自社株買い枠を設定した。住友不は今期の年間配当予想を52円(前期は分割調整後で44円)とし、3社の中では最も大幅な増配を計画している。

<「含み益」注目、3社計13.5兆円に>

 不動産価格の上昇が続く中で、各社の保有する資産価値にも注目が集まる。前期末の「含み益(「賃貸等不動産」の時価−簿価)」は菱地所が前々期末比で4000億円弱増え、初めて5兆円を突破した。住友不も同約2600億円増の4兆4600億円に膨らんだほか、三井不も拡大して3社で計13.5兆円(同8%増)に達している。いずれも資本効率の改善を経営課題として重視していることもあり、含み益の増加は足元の株価の押し目における投資妙味をより強める。

 三井不は今期、営業利益4100億円(前期比3%増)を計画する。既存オフィスの賃料増額に加え、分譲事業は投資家向けが大きく伸びる。長期的にはオフィスや商業施設などを中心に収益力向上を図り、ROE(自己資本利益率)10%を目指す(前期は8.7%)。1500円前後の株価に対し、販売用不動産等を考慮した1株当たりの修正NAV(ネットアセットバリュー)は約2250円。

 菱地所は今期の営業利益3700億円(前期比12%増)を計画し、年間配当は49円(前期は46円)を予想。地盤の東京・丸の内エリアを中心にオフィス賃料の上昇が加速するほか、物流施設やデータセンターといった資産売却も収益を押し上げる。1株当たりNAVの5454円で、株価は4100円台だ。

 住友不は賃貸収入比率が相対的に大きく、今期の営業利益計画は3200億円(前期比7%増)と過去最高の更新が続く。不動産賃貸は同7%の増益を見込み、3社中で最も高いROE(前期実績9.2%、評価差益を除く自己資本ベースでは10.6%)の維持・向上を目指す。同社は政策保有株(持ち合い株)の縮減目標(取得価格ベースの株主資本に対する比率10%以内)を前期に2年前倒しで達成。生じた資金はインド事業などの成長投資や金利上昇の備えとして活用する。また、借り入れの長期化と固定化を進めてきたことから、当面の金利負担が他の2社と比べて少ないことも特徴だ。1株当たりNAVは5250円程度(28日終値は3652円)とみられる。