ビッグモーターだけじゃなかった 10年周期で不祥事が飛び出す損保業界

写真拡大 (全2枚)

利益優先でビッグモーターの不正請求を野放し

前回、生命保険会社が関係した不正問題が10年周期で起きているというレポートをまとめた。実はこうした傾向は損害保険会社も無関係ではない。損保もまた10年周期でさまざまな問題は飛び出してきている。

そんな損保が関係した不祥事としてまず思い浮かぶのがビッグモーター問題だろう。中古車販売大手のビッグモーターは、自動車保険の損保代理店も兼ねていたこともあって、修理で預かった車に故意に傷を付け、保険金を請求するという悪質な不正が横行していたという問題だ。その件数は約6万5000件にのぼることが判明している。

本来であれば、被害者になるはずの損保なのだが、それが違っていた。大手損保各社はビッグモーターに出向者を出しており、損保ジャパン以外の各社は、ビッグモーターの保険請求に疑問を感じ、同社の取り扱い縮小、あるいは停止をしていた。損保ジャパンも2015年から板金・塗装部門に出向者を派遣しており、出向者が不正の実態を社内に報告していたにもかかわらず、2022年に「不正の指示は確認できなかった」として金融庁に報告。しかも、こうした疑惑があったにもかかわらず、直後に保険の取り扱い業務を再開させ、問題をさらに拡大させた。

さらに見逃せないのは、損保ジャパンとビッグモーターの関係の深さだ。ビッグモーターは損保ジャパンにとって最大級の代理店のひとつであり、年間数十億円規模の保険契約を取り次いでいたとされる。「大口代理店を失いたくない」という営業上の論理が、不正見逃しの背景にあったと指摘されている。しかも、損保ジャパンとの取り引き再開を指示したのが社長である経営トップだった。監督する立場であるはずの損保ジャパンが、利益を優先し代理店の監督機能を失っていたという構造的な問題が、この件の本質だったのである。

ゴルフボールに、除草剤…問題が次々出てきて

一連の問題を受け、国土交通省はビッグモーターの34事業所の事業停止を命じ、金融庁は保険代理店登録を取り消した。2023年7月に創業者の兼重宏行社長が辞任し、会社は経営危機に陥った。
話は横道にそれるが、顧客の車を傷つける道具としてゴルフボールを使ったことが判明すると、ゴルフ好きの兼重宏行社長が、記者会見で顧客の車を傷つけたことよりも「ゴルフを冒涜するな」と発言したとして物議を醸した。また、販売店周辺の街路樹などに除草剤をまくなどして枯らしていたこともわかり、企業風土の異常さを象徴づける結果になった。

この問題発覚後、損保ジャパンと親会社SOMPOホールディングスのトップはともに引責辞任。2024年1月、金融庁から両社は業務改善命令を受けている。そして、2024年5月、ビッグモーターは事業継承会社「WECARS」と旧法人格「BALM」の2社に分割され、伊藤忠商事グループと企業再生ファンドが合計400億円を出資してWECARSの株式を取得し、創業家は経営から完全に排除された。その創業家は被害者補償のため100億円をBALMに拠出している。しかし、不正請求の被害補償が進まないまま、旧法人格BALMは負債総額831億円・債権者163名を抱えたまま2024年12月2日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。信頼回復への道は依然として険しい状況が続いている。

損保でも10年周期で飛び出す不正問題

ビッグモーター問題を「特殊な出来事」として片付けるのは早計だ。損保業界もまた、およそ10年ごとに業界全体として問題を起こしてきているのだ。

【1998年前後:保険料自由化とカルテル】
1996年から1998年にかけて、日本の損害保険業界は大きな転換期を迎えた。それまで大蔵省(当時)によって厳しく管理されてきた保険料が自由化され、各社が独自に料率を設定できるようになった。「競争が生まれ、消費者にとってより良い保険が生まれる」というのが自由化の建前だった。

しかし、現実は逆の方向に動いた。長年にわたって横並びの保険料で営業してきた損保各社は、自由競争に慣れていなかった。そこで各社の担当者が顔をつきあわせ、「どの水準で料率を設定するか」を事前に話し合うという慣行が広がった。競争するはずが、談合するという方向になった。こうした動きに公正取引委員会は調査に動き、この時代から損保業界の「価格協調体質」は問題視されることになった。

【2005~2007年:保険金不払い問題】
生保の保険金不払いが発覚した同時期に、損保各社でも保険金の不払いが続出している。1998年の保険料自由化によって競争が始まったため、損保各社では独自性のある特約付き商品を次々と発売した。しかし、商品が複雑化したために、支払い査定の体制が追いつかず「支払えるはずの保険金を把握できていなかった」という実態が全国で続出。結果、保険金の不払いが発覚し、28社が行政処分を受けるという事態になった。

この問題で浮き彫りになったのは、「商品を売ることと、保険金を払うことは、別の部門が担当している」という損保会社の内部構造だった。営業部門は新しい特約を次々と開発・販売するが、支払い査定部門はその内容を十分に把握できていないということが起こった。商品の複雑化が進めば進むほど、支払い漏れのリスクは高まる。消費者にとっては「保険料だけ取られて、いざというときに払ってもらえない」という最悪の事態が、業界横断的に起きていたのだ。

金融庁はこの問題を重く見て、各社に保険金支払い管理体制の整備を義務付けた。以降、損保各社では支払い査定部門の強化と、商品設計の簡素化が進められた。

【2023~2024年:ビッグモーター+カルテルの二重不祥事】
前述のビッグモーター問題と同時期に、もうひとつの大型不祥事も浮上している。企業・自治体向けの保険契約において、損保大手4社(東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和)が保険料を事前に調整するカルテルを結んでいたことが判明したのだ。

問題が発覚したきっかけは、損保ジャパンの社員が公正取引委員会に自主申告したことだった。調査が進むにつれ、カルテルは特定の企業との契約にとどまらず、国や自治体が発注する入札案件にまで広がっていたことが明らかになった。公共の入札でカルテルを結ぶとなれば、その被害を負うのは税金を払う国民だ。

公正取引委員会は2024年10月31日、独占禁止法違反(不当な取引制限)として4社に排除措置命令を発出し、計約20億7000万円の課徴金納付を命じた。1998年に保険料が自由化されたが、損保の横並び体質は、四半世紀を経てもなお業界の底流に流れていたようだ。

保険業で繰り返される不正、その原因は

生保・損保を合わせて俯瞰すると、不祥事の「かたち」は時代とともに変化してきた。しかし根底にある構造は変わっていない。競争激化と横並び体質。加えて保険は商品が複雑で、契約者が中身を理解しにくいという点もある。そこで「担当者を信じるしかない」という構造が温床となりやすい。また、損保は代理店方式という販売方法にも一因があるのではないか。競争が激化すれば無理な営業にもなり、売上の多い営業担当者や代理店に負荷がかかると同時に依存しがちになる、そして、競争を避けるためにカルテルを結ぶという構造にもなるというわけだ。

とはいえ、消費者側にまったく責任がないともいえないだろう。保険は「説明をきいてもわからない」「どこの会社も似たようなもの」と、商品そのもので選ぶのではなく営業担当の人となりで決めるということもある。こうしたことが業界の自浄作用をさらに弱める。保険は、加入してしまえば年単位の長い期間、保険料を支払う商品だ。だからこそ、契約者も情報を集め、保険の知識を身につけ、問題があれば声を上げ、不審な点は保険会社のカスタマーセンターや国民生活センターに直接問い合わせることも必要だ。こうしたチェックが、問題を未然に防ぎ業界を変えることにつながる。今のままのように会社任せにすれば、また10年後に問題が起きるともかぎらない。

【関連記事】
プルデンシャル金銭詐取31億円だけじゃない 10年周期で問題発覚、生保業界