《民放連ドラデビュー30年》堤真一、「松嶋菜々子らトップ女優を輝かせる恋愛ドラマ巧者」など“多彩な顔”で唯一無二の俳優に 主演ドラマ『GIFT』で見せる凄み
連ドラデビューから30年、数多くのドラマに出演してきた堤真一(61歳)。今クールで放送中の『GIFT』(TBS系)でも存在感を放っている。これまでの足跡を振り返るとともに、俳優として今も求められる理由についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
【写真】お揃いの服を着て、ポーズをとる有村架純、吉瀬美智子、枝元萌、ゆいかれんなど。他、山田裕貴と有村架純、車椅子での密着ツーショットなども
* * *
今春、視聴率トップの『GIFT』(TBS系)で主演・堤真一さんが演じているのは、主人公の宇宙物理学者・伍鉄文人。車いすラグビーチーム「ブレイズブルズ」と出会い、サブコーチとなってさまざまな背景を持つ選手たちと向き合っていく姿を演じています。
堤さんは現在61歳であり、芸歴40年超の大ベテランですが、民放連ドラデビューは今から30年前の1996年に放送された『ピュア』(フジテレビ系)。同年に『ロングバケーション』、翌年に『ラブジェネレーション』が放送されるなど月9ドラマの全盛期で主人公の相手役を務めた堤さんはすぐに民放連ドラに欠かせない存在となりました。
はたしてその30年間はどんなもので、堤さんはなぜこれほど長く求められているのか。ドラマやCMの撮影現場で取材した際のエピソードを交えながら、単に演技力だけではない堤さんが求められる理由を掘り下げていきます。
30年前の作品と今春の意外な類似点
民放連ドラデビューを飾った『ピュア』は主演・和久井映見さんが知的障害のあるヒロイン・折原優香を演じて話題になった作品。堤さんは幼いころに両親を亡くすなどの孤独を抱え、新聞社から左遷されて週刊誌記者となって優香と出会う沢渡徹を演じました。
一方、今春の『GIFT』で演じる伍鉄文人も周囲から孤立しがちで、さまざまな障害を持つ車いすラグビーの選手たちと向き合うという設定の類似点に気付かされます。どちらも「孤独と孤立」「障害を持つ相手と向き合う」という繊細な演技が必要な役柄であり、「30年もの時を経ても求められるものが変わらない」という凄みを感じさせられました。
『ピュア』の出演時、堤さんはすでに31歳。当時、織田裕二さん、江口洋介さん、福山雅治さん、木村拓哉さん、反町隆史さん、竹野内豊さんら連ドラの主演を務めていた俳優より年上であり、舞台出演を重ねてきたという経歴もあって異質な存在でした。
どこまでも純粋な優香を不器用に支える沢渡を演じたことで堤さんの人気は沸騰。しかし、すぐにオファーができるわけではないため、次の出演作は3年後の1999年に放送された医療ドラマ『ザ・ドクター』(TBS系)でした。ただ、今春と同じ日本最長の歴史を持つ日曜劇場(日曜21時〜)の主演であり、確かな評価がうかがえます。
そして人気を決定付けたのが2000年の『やまとなでしこ』(フジテレビ系)。主人公・神野桜子(松嶋菜々子)の相手役となる魚屋・中原欧介を演じました。さらに2002年には『恋ノチカラ』(フジテレビ系)で深津絵里さんとダブル主演。王道のオフィスラブストーリーで独立起業した売れっ子広告デザイナー・貫井巧太郎を演じました。
トップ女優を輝かせる恋愛ドラマ巧者
この時点で堤さんは、月9の常連だった和久井映見さん、人気絶頂の松嶋菜々子さん、若き演技派と言われた深津絵里さんというトップ女優を輝かせる"ラブストーリー巧者"としての地位を確立。それぞれ知的障害のある女性、拝金主義のCA、非モテの冴えないOLという個性の強い女性を受け止めるような芝居を見せたことで、業界内では「さすが舞台経験豊富なだけある」という声があがっていました。
堤さんは舞台ひと筋のような状態から突然ドラマの売れっ子になり、しかもラブストーリーのオファーが続いたことで、「戸惑いや緊張の連続だった」ことを明かしています。作風や共演者だけでなく、制作体制、客層などが大きく変わる現場ですぐに評価を得たところに、堤さんの資質が表れていました。
その評価をさらに高めたのは、2002年の『ランチの女王』(フジテレビ系)、2003年の『GOOD LUCK!!』(TBS系)と『ビギナー』(フジテレビ系)、2005年の『恋におちたら〜僕の成功の秘密〜』(フジテレビ系)、2007年の『SP 警視庁警備部警護課第四係』への出演。
それぞれ、嘘つきのクズ男、冷静かつ厳格な国際線機長、元キャリア官僚でプライドの高い司法修習生、「時代の寵児」と言われる冷徹なIT企業社長、警護課第4係を率いる係長と、異なる役柄の助演として主演を引き立てました。特に木村拓哉さん、草なぎ剛さん、岡田准一さんとジャニーズ事務所のアイドルと対峙して彼らを受け止め、魅力を引き出すような演技が業界内でも評判を集めていたのです。
2010年中盤以降は、2015年の『リスクの神様』(フジテレビ系)、2017年の『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)、2022年の『妻、小学生になる。』(TBS系)で主演を務めたほか、2014年の朝ドラ『マッサン』(NHK総合)、2021年の大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)、昨年の朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)などにも出演しました。
他人になり切る俳優らしい"無我"
もちろんドラマ出演だけでなく、『容疑者Xの献身』『クライマーズハイ』など映画での活躍も目立ちますが、それでも堤さんは「舞台が原点」と言い続けてきました。実際、ドラマや映画への出演、声の仕事などを重ねながら、舞台にもほぼ毎年出演しています。この「舞台がベース」という活動スタンスも業界内でリスペクトを集めるほか、「動ける俳優」であり続ける証と言っていいでしょう。
ここまで書いてきたように堤さんは芝居の実力はもちろん「出演作の幅や仕事量は俳優の中でトップ」という評価を得ていますが、その魅力は演技だけに留まりません。
業界内で堤さんは「積極的に取材対応してくれる俳優」として知られていて、これまでドラマやCMなどの撮影現場で何度か取材してきました。ちょっと意外なのは、多くを語ったり、サービス精神旺盛というより、どこまでも自然体の人であること。
たとえば役作りの意識を尋ねると「それが特にないんですよね」。次の目標を尋ねても「ずっと目標とかないんですよ」。今はまっていることを尋ねても「趣味すらない人間なんで」などと、ちょっと申し訳なさそうに語ってくれます。
ただ、決して"つれないタイプ"というわけではなく、感じさせられるのは、自分以外の人になり切る職業である俳優ならではの"無我"。これだけ活躍し続けていても「俺が俺が」というところが一切ないことに驚かされます。さらに出演作の解説は人一倍丁寧で、共演者やスタッフへの称賛を惜しまず「助けられました」「本当にありがたかった」と何度も語る感謝の人でした。
今春の『GIFT』でも「主役は伍鉄ではなく車いすラグビー」と語るなど謙虚な振る舞いは変わらず、主演でも助演でも物語を盛り上げ、共演者を引き立ててきた人柄がうかがえます。
あるとき、「その謙虚な人柄は下積み生活からくるものですか?」と尋ねたときも堤さんは「どうなのかな……それもあるかもしれないし、周りが才能のある人ばかりだから常に学ぶことがあるんですよ」などと語っていました。インタビューをすると堤さんは共演者やスタッフの話を楽しそうにしていますし、それは愛娘の話をするときと同じような温かさを感じます。
民放連ドラに10年出るだけでも困難
最後にあらためて経歴を振り返ると、堤さんは千葉真一さん主宰のJAC(ジャパンアクションクラブ)に入り研鑽を積んだほか、真田広之さんの付き人を務めていました。
舞台稽古とアルバイト三昧の厳しい20代を過ごし、さまざまな演出家や共演者と知り合い、学び続けてきたことが、芝居や人柄のベースになっているように見えます。
「俳優が10年間民放のドラマに出演し続けることは難しい」と言われる中、堤さんは30年間に及び、しかも今なお主演のオファーを受けている唯一無二の存在と言っていいでしょう。
『GIFT』は残り約1か月の放送でクライマックスに向かっていくだけに、堤さんがどんな芝居で物語を盛り上げ、共演者を引き立てるのか楽しみです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
