CO2と汚染した空気を「電池」に変える!? 画期的な装置が誕生
二酸化炭素(CO2)と窒素化合物(NOx)といえば、気候変動を引き起こす温室効果ガスと、健康を損ねる要因になる大気汚染物質の親玉のような存在。NOxが化学反応を起こしてオゾンを生成すれば、地球温暖化に寄与してしまいます。
そんな厄介な存在を捕捉して電力に変換してしまう技術を韓国の研究チームが開発しました。しかも、その過程で使用するエネルギーはゼロどころか、電気を生み出してしまうのだとか。
CO2と窒素化合物を回収して電気をつくる
成均館大学校(韓国)のJi-Soo Jang教授を中心とする共同研究チームが開発したこの装置の名前は「Gas Capture and Electricity Generator(GCEG)」。イメージしやすくすると、「ガスを回収して電気をつくる装置」といったところでしょうか。
研究結果は、4月に科学誌Energy & Environmental Scienceに掲載されました。表紙を飾る論文に選ばれるくらい注目されているようです。
この装置がターゲットにしているのは、大きく分類して2種類のガスです。ひとつは、自動車の排気ガスや工場の煙突から排出されるNOx(窒素酸化物)。NOxは、光化学スモッグや酸性雨、子どもの喘息などの原因になります。いわゆる「大気汚染の世界代表」です。
もうひとつは、地球温暖化の主犯として悪名高いCO2(二酸化炭素)。つまり、GCEGは、街の空気をきれいにして、地球温暖化対策にも一役買い、おまけに電気までつくってくれる欲張りな装置ということになります。
仕組みは意外と地味。紙とゲルの組み合わせ
「最先端の研究」と聞くと、すごい機械を想像しがちですが、GCEGの作りは意外にもシンプル。桑の樹皮から作る手すきのような紙に、ススに似た炭素粉末を塗ったものが、装置のベースです。この紙の左半分と右半分に、それぞれ違う性質を持たせることで、紙のなかに2つの電極を作り出します。
NOxやCO2がこの装置に触れると、紙の両側で電子の流れに偏りが生まれ、自然と電気が流れ始めます。電池のように何かを充電しておく必要もなく、空気さえあれば動き続けるのが、この装置のセールスポイントです。
2種類のGCEG
GCEGは何でも吸い込む万能型ではなく、ターゲットに合わせて2種類が用意されています。NOx用は、紙の片側だけにハイドロゲルを塗って、反対側はあえて何も塗らずに剥き出しのままにしておきます。一方、CO2用は片側にハイドロゲル、反対側にアミン(CO2を回収するための触媒)を塗るそう。
電池のプラス極とマイナス極で材料を変えるのと同じで、左右で違う性質を持たせることで、初めて電気が流れるようになっています。回収したいガスに合わせて、タイプを使い分けるとのこと。
従来の炭素回収技術とここが違う
これまでにも空気中からCO2を取り除く技術はありましたが、装置を動かすために大量の電気や熱、高価な触媒が必要でした。汚染を減らすために別の汚染を生んでしまうジレンマがあったわけです。
GCEGはここを根本から覆しました。ガスの捕捉動作そのものから、エネルギーを「もらう」形にしました。電気を使ってガスを集めるのではなく、ガスを集めるついでに電気を生成する。発想の転換が、この研究の最大の斬新さだといいます。
Jang教授は、プレスリリースのなかでこう語っています。
本研究は、温室効果ガスが単に管理すべき汚染物質であると同時に、新たなエネルギー資源となり得ることを示しています。
スマホは無理でも、IoT機器なら動かせる
気になる発電量ですが、装置1枚で生み出せる電気はごくわずか。でも、装置を何枚も重ね合わせて使えば、話は違ってきます。研究チームは、25枚をセットにしたバージョンも作り、最大4ボルトの電気の生成に成功しました。
ウェアラブルなデジタル時計や、Bluetooth対応の小さな位置追跡装置(IoT機器)を動かすデモにも成功したといいます。
スマホを充電できるほどのパワーはなくても、電池を使わずに動き続ける小型センサーの電源として十分に使えるレベルといいます。電池交換のいらないIoT機器の世界がぐっと広がる可能性があります。
「発電する空気清浄機」としての可能性
また、GCEGを通過した空気はちゃんときれいになるのだそうです。実験では、NO2(二酸化窒素)を20分間流したあとに濃度を測ったところ、41.1%が除去されていました。電気をつくりながら、本当に空気を浄化していたんです。まさに一石二鳥。
さらにチームは、農業現場を想定した実験も行ないました。アンモニア肥料を使う農地では、土の中の微生物が肥料を分解する際にNOxが発生します。土と肥料、そしてGCEGを密閉容器に入れて様子を見たところ、肥料から出るNOxを装置が電気に変換したそうです。
実用化への壁と今後への期待
もちろん課題もあります。NOx側はガスが付いたり離れたりを繰り返せるのですが、CO2側のほうは一度反応してしまうと元に戻りにくく、装置を使い捨てのような形でしか動かせないのが現状とのこと。研究チームは、この壁を越えるために別の素材との組み合わせを次のステップとして考えているといいます。
Jang教授は今後の展望について、「私たちは、この技術をさらに発展させ、カーボンニュートラルを実現するだけでなく、エネルギーを生み出す環境プラットフォームとして確立することを目指しています」と力強くコメントしています。
汚染物質を温暖化や環境汚染の敵としてだけ捉えるのではなく、どうせそこにあるのなら、資源に変えちゃえという発想、嫌いではありません。
研究チームは、自己発電型のスマート環境センサーや、バッテリー不要のIoT機器、大量の排出ガスが発生する産業施設などでの利用を思い描いています。
でも、ここでちょっと想像を広げると、発電量を増やすことができれば、家庭用の小型空気清浄機や、ガスコンロの上に置く空気室モニター、ベビーベッドの脇に置く見守り装置のような用途でも使えそう。汚染地域で密閉度が低い窓から空気が入り込む環境で、装置が電気をつくりながら部屋の空気質を見張ってくれる。そんな使い方もできるかもしれません。
スマートウォッチと組み合わせれば、たとえほんのわずかでも街の大気汚染の改善に役立っていると感じられて、環境問題を自分ごととして捉えやすくなる気がします。自分が住む家やアパートの室内や、近所の空気がどれくらいきれいかって自分でなかなか知ることはできませんしね。
空気質をモニタリングするGCEG装置が発電できなくなるレベルまでNO2濃度が下がって、装置が止まってしまう。そんな未来を想像しながら、実用化を待ちたいと思います。
Source: Yun et al. 2026 / Energy & Environmental Science, Sungkyunkwan University

