ナイキ 出身幹部が導くインソールブランドの戦略転換「ランナー用から全ての靴へ」

記事のポイント
スーパーフィートは「ランニングブランド」から脱却し、複数スポーツと若年層への拡張を進めている。
ナイキ出身の経営陣のもと、「痛み対処」から「パフォーマンス向上・予防」へ価値訴求を再定義した。
成長するインソール市場で、専門店依存から脱却しD2Cと販路拡大による顧客接点強化を狙う。
インソールブランドのスーパーフィート(Superfeet)は、足の痛みを和らげたいランナーやジョガーのあいだでよく知られた存在になった。
創業50周年、「ランニングブランド」からの脱却へ
スーパーフィートが数年前から進めているのは、サッカー、バレーボール、バスケットボール、アメフトなど、より多くのスポーツに対応したインソールの開発だ。同時に、インスタグラムやTikTokといったチャネルを中心にSNSクリエイターの起用を強化し、高校、大学のアスリートとの契約も結びにいっている。
さらに2025年は、ブランドリニューアルの一環として、ロゴを変更し、ECサイトもアップデート。激戦区となっているインソール市場で生き残るための布石を打った。
スーパーフィートは1977年、スポーツサイエンスのラボから事業を立ち上げた。ハイキングやウォーキングなど、活動に合わせたカスタムインソールを手がけ、痛みの緩和を求める人々に支持されている。
同社は「あらゆるアスリートに向き合ってきた」と主張する一方で、「正直に言えば、いまの消費者の大半は当社をランニングブランドとして認識している」と、スーパーフィートCEOのトリップ・ランドール氏はModern Retailに語った。
ナイキ出身の経営陣が進める成長戦略の転換
経営陣によれば、同社はこのニッチ市場を超えて成長したいと考えている。
より多くの買い物客の心に響くマーケティングへと、いま積極的にアップデートを進めているところであり、これはスーパーフィートCMOで、4月に現職に就いたばかりのナイキ(Nike)出身のマイク・ドネリー氏が打ち出している新たな方向性でもある。
「いまヘルス&ウェルネスのブームが起きていて、人々はより長く、よりよく生きたいと願っている。我々はまさにその領域にいると考えているし、より積極的に取り組んでいきたい」と、ドネリー氏はインタビューで語る。
ドネリー氏は、ナイキで23年近いキャリアを積んだあと、2024年にスーパーフィートに加わった。2023年にスーパーフィートのCEOに就任したランドール氏もまた、ナイキで20年以上のキャリアを持つ。
「マイクをスーパーフィートに引っ張ってこられる機会が訪れたとき、いささか興奮していたかもしれない」と、ランドール氏は笑いながら振り返る。
「痛み対処」から「パフォーマンス向上」へ、インソールの価値を再定義
2人の幹部は、スーパーフィートの新たな方向性を模索している。それは、インソールのテクノロジー、サイエンス、ベネフィットをより明確にアピールすることだ。
ランドール氏によれば、スーパーフィートは製品ライン全体において、アスリート向けに開発したイノベーションを展開し、すべての消費者向けに「製品をよりよくする」ことにつなげているという。
それでもなお、インソールには参入のハードルがわずかながら存在することを、ブランドは認めている。ランドール氏は、インソールを使いはじめることは「消費者にとって少々敷居が高く感じられるかもしれない」と話す。
ただし、と彼は付け加える。「これは何らかの症状を抱えたときにだけ必要になるものではない。誰にとっても、ケガの予防に役立つし、パフォーマンスを引き出すこともできる」。
ドネリー氏もこう続ける。「当社には痛みの緩和を求めて来てくれる消費者が多くいる。彼らは足にトラブルを抱えていて、解決策を求めてここに来てくれる。もちろん、それに応えていきたい。ただ、より多くのアスリートに寄り添い、彼らにとってのパフォーマンス上のアドバンテージになっていきたいという思いがあるなかで、そうしたミッションをもっと広く発信していくこと、そして若い世代にもっと認知してもらうことを、しっかりやっていきたい」。
アスリート起用とNIL、高校スポーツへの参入
スーパーフィートが信じているのは、より多くのスポーツに目を向け、新進気鋭の選手からプロの選手まで、アスリートとより密接に協業していくことが、自社製品の有効性を証明するカギになる、ということだ。
スーパーフィートはすでに、五輪の陸上競技選手であるコリーン・クイグリーとサニヤ・リチャーズ=ロスとパートナーシップを結んでいるが、いまはサッカーやバスケットボールの領域でも、より多くのタレントとの協業を視野に入れている。
クリエイターもまた、ブランドのレーダーに入っている。「製品とブランドを彼らの手に届け、彼らが支持者になってくれるようにするにはどうすればいいだろうか?」とドネリー氏は問いかける。
これにとどまらず、スーパーフィートはNIL(大学生アスリートが金銭報酬を得る権利:ネーム・イメージ・ライクネス)の領域、さらには高校スポーツへの関与も強めようとしている。
同社は2026年3月、オレゴン州のジェスイット・ハイスクール(Jesuit High School)に紐づくトップクラスの高校長距離プログラム、スタンプタウン・ランニング(Stumptown Running)をスポンサードした。
高校生たちはスーパーフィートのラン・ペーサー・エリート(Run Pacer Elite)インソールとスーパーレブ・フォーム(SuperRev foam)を試し、ブランドと一緒に動画コンテンツを撮影した。
プログラムのメンバーは、スーパーフィート向けに特別なランニング用プレイリストを作成した。
「ジェスイット・ハイスクールとのパートナーシップは、ほかのアスリート、ほかの学校にも波及しはじめた」と、ドネリー氏は語る。ほかのチームから「スーパーフィートって何?」「どうやってランに役立つの?」と聞かれるようになったのだという。
「小さな火が灯りはじめるのが見えてくる。だから、こうした取り組みをこの先もっと広げていきたい」と、ドネリー氏は続ける。
インソール市場の競合状況
インソールメーカー各社は、近年の成長を享受している。背景にあるのは、パンデミックを契機に高まった「快適性」への意識の広がりだ。
2025年には、コーツ・グループ(Coats Group)が、プレミアムインソールメーカーのオーソライト(OrthoLite)を7億7000万ドル(約1155億円)で買収する取引を完了している。
現在、インソール領域にはドクター・ショール(Dr. Scholl's)やフルトン(Fulton)など、多くのプレイヤーがいる。AIによるフットスキャン技術でインソールをパーソナライズするエイトレックス(Aetrex)は、アシックス(Asics)、プーマ(Puma)、DSWを含む世界100社超のグローバル小売業者に展開している。
専門店依存からの脱却へ、販路拡大とD2C強化の課題
一方のスーパーフィート自身は、EC事業が「中程度の2桁成長」を享受していると話す。同ブランドは、フリート・フィート(Fleet Feet)、ハートブレイク・ヒル・ランニング・カンパニー(Heartbreak Hill Running Company)、コネチカット・ランニング・カンパニー(CT Run Co.)でも取り扱われている。
実際、現在のインソール売上の多くは、専門店や独立系小売から生まれている。そう語るのは、市場調査会社のサカーナ(Circana)でフットウエア&アクセサリーアナリストを務めるベス・ゴールドスタイン氏だ。
「ポイントになるのは、フットウエアが売られている大手流通チャネルでも、もっと広く手に取れるようにすることだ。そして、インソールをもっと簡単にセルフで選べるようにすることでもある」と彼女は話す。
「消費者にとって、自分ひとりで購入することに慣れているカテゴリーではないからだ」。
ホールセール(卸売り)でのパートナーシップ拡大と、D2Cビジネスの拡大の両方をめざすスーパーフィートは、こうした買い手にもっと届くことをもくろんでいる。同社はすでに、消費者と毎日言葉を交わすフィールドエクスペリエンスチームに、SNS動画の制作を依頼している。
ランドール氏によれば、建設作業員のような、一日中立ち仕事をする人々向けのインソールに、「成長余地」が見えているのだという。
「世界中のあらゆる靴がスーパーフィートで強化されるべきだ。そんな大胆なビジョンを我々は掲げている」と、ランドール氏は付け加える。
「この電話会議(インタビュー)に参加しているメンバーのなかにも、まったく同じ足を持つ人はひとりもいない。私自身の左右の足ですらそうだ。人類は、その形と、その土台と、(私たちのインソールが提供する)サポートがあったほうが、よりよく生きられると私たちは信じている」。
[原文:Nike alumni, now at Superfeet, want their insoles in 'every shoe in the world']
Julia Waldow(翻訳、編集:藏西隆介)
