千葉県印西市のGoogle データセンター

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 ChatGPTをはじめ、次第にその利用が当たり前になりつつある各種のAI。これらの運用には、多大な計算資源が不可欠である。こうした事情により、GPUをはじめとする計算製品を製造するNVIDIAの株価は、“生成AI時代の寵児”として高い水準を維持している。

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 AIをめぐる覇権争いは、実のところ、その運用に不可欠な計算資源の争奪戦の側面がある。そこで本稿では、計算資源の観点からAI市場を考察したうえで、計算資源が引き起こしている社会問題も明らかにしたい。

■チップ保有数はGoogleが圧勝、データセンター建設計画数はOpenAIが1位

 AIは、ユーザーが入力した質問に対する回答を生成する処理において、多大な計算資源を利用している。もっとも、その計算自体はユーザーが操作するPCやスマホではなく、クラウド上でおこなわれる。現在広く利用されているAIは、クラウドサービスの一種として分類することができるのだ。

 OpenAIをはじめとするAI企業は、基本的にAIの運用に必要な計算資源を、クラウドサービスプロバイダーと契約することで確保している。したがって、AIに使われる計算資源の現状を知るには、クラウドサービスプロバイダーが保有するAIサービス専用の計算資源の状況を調べるとわかる。

 AIの未来を研究する非営利研究機関「Epoch AI」は、大手クラウドサービスプロバイダーが保有するAIチップ(AI専用の半導体)の情報を公開している(※1)。以下のグラフは、2025年第4四半期におけるAIチップの保有状況を表している。

 グラフを見るとわかるように、Googleが他社を大きく凌駕している。また、同社が保有するAIチップの大半は、自社製AIチップシリーズである「Google TPU」であることもわかる。

 またGPU最大手のNVIDIAのAIチップは、大手クラウドサービスプロバイダーのすべてに供給されていることから、その影響力の大きさがうかがえる。

 グラフからはわからないが、Epoch AIの調査によると、OpenAIはMicrosoft、Oracle、CoreWeaveのAIチップを活用しており、AnthropicはAmazon、Googleと契約しているとのことだ(※2)。

 計算資源の保有量は、受け入れ可能なユーザー/リクエスト数、利用価格など、AIの性能だけでなくサービスを提供する上でのさまざまな場面に影響する。こうした観点から見ると、GoogleがAI市場の覇権を取るように思われる。しかしながら、未来における計算資源を考慮すると、現在とは異なるAIチップ活用状況が見えてくる。

 Epoch AIは、アメリカで現在稼働中および建設中のAIデータセンター(AIチップの集積所)についても調査している(※3)。その調査データにもとづけば、主要AI提供企業が予定しているAIデータセンター建設計画数は、OpenAIが7つで、2位のGoogleの3つの2倍以上となっている(グラフは、本稿著者が作成)。

 建設が計画されているAIデータセンターがすべて竣工したあかつきには、OpenAIが活用するAIチップ数は大きく増加するだろう。

■分散型AIデータセンターは実現可能なのか

 前出のEpoch AIの調査が示すように、AI開発企業は、さらなる計算資源を確保するためにAIデータセンター建設計画を推進している。こうした動向に対して、既存のAIデータセンターの計算能力を合体させて、まるでひとつの巨大なAIデータセンターのように運用すればよいのではないか、という疑問が生じる。

 以上のような分散型AIデータセンターの可能性について、Epoch AIは2025年10月に考察記事を公開した(※4)。その記事では、既存のAIデータセンターを専用の光ファイバー回線で接続する計画の実現可能性について検討している。

 この計画案において専用光ファイバー回線を活用するのは、既存のインターネット回線ではAI開発と運用に必要な通信容量や通信速度を確保できないからである。それゆえ、分散型AIデータセンターを実現するには、専用光ファイバー回線の敷設が不可欠になる。

 専用光ファイバー回線を敷設したうえで、ネットワーク障害や通信遅延を解決すれば、分散型AIデータセンターは“技術的には”実現可能である。しかしながら、安定性や計算速度を確保するために、AI企業は巨大な単一的AIデータセンターを建設することを優先的に選択するだろう、とEpoch AIは結論づけている。

 またEpoch AIは、2025年12月にインターネット回線を利用して余剰の計算資源を集めることでAI開発と運用をおこなう計画案について、その実現可能性を考察する記事を公開した(※5)。

 かつて世界中の『PlayStation 3』の計算資源を活用した科学的プロジェクト「Folding@home」を彷彿とさせる以上の計画案については、すでに研究に着手しているAIスタートアップが存在する。

 しかし、こうしたインターネット分散型AIデータセンター構想は、前述の専用光ファイバー回線型AIデータセンター構想と比較して、はるかに技術的難易度が高くなる。というのも、前者では通信容量が小さいため、処理データを細分化したうえで集約する必要がある。この細分化と集約の過程で生じる、ネットワーク障害や通信遅延を解決しなければならないからだ。

 インターネット分散型AIデータセンターを研究するAIスタートアップが実現した計算能力と、前述の「Folding@home」や世界最大規模の分散型ネットワークである仮想通貨・ビットコインの計算能力を比較したのが、以下のグラフである。前者が後者に遠く及ばないのが、一目瞭然である。

 もっとも、インターネット分散型AIデータセンターの計算能力は日進月歩で、毎年20倍にも成長している。そうした成長速度をもってしても、同様に進化し続ける最先端AIを開発するのに必要な計算能力には到達しないだろう、というのがEpoch AIがくだした結論である。

 そして、以上のような分散型AIデータセンター構想の考察をふまえると、最先端AIを開発できるのは、当面のあいだは巨大AIデータセンターを建設できる、一握りのAI企業に限定されると言える。

■しばらくは“3強”時代が続くか 伸び代のある「法人向けAI市場」を支配する3社

 ここまでは、AI市場の覇権争いを計算資源、つまりはハードウェアの観点から見てきた。こうした考察は、ソフトウェアからの考察を補うことでより現実的なものとなる。

 AI市場の動向を占ううえで重要となるのは、これらのAIを活用する法人が形成する市場である。

 ウェブセキュリティ企業の「Compare Cheap SSL」が2025年12月に公開したブログ記事によると、2026年における世界の生成AI市場規模は年平均成長率が38~45%で推移して、2,100~2,600億ドルになると予想される(※6)。そのうち34%が法人向けAIプラットフォームを占め、一般ユーザー向けAIアプリのシェアは11%と見られている。こうした予想は、法人が有料AIサービスを活用する一方で、一般ユーザーは無料のそれを利用する傾向にあることに起因している。

 2026年の世界の企業における生成AI普及率推定に関しては、少なくとも1つの生成AI活用事例を持つ企業の割合は、87%と見られる。こうしたなか、AIツールを導入している中小企業は42%と推定される。この推定値から、中小企業の生成AI活用にはまだ大きな伸び代があることがわかる。

 法人が利用するAIのシェアについては、投資会社Menlo Venturesが2025年12月に発表したレポートが明らかにしている(※7)。AIのAPI(AI機能を活用する際のアプリ呼び出し方式の一種)ベースで2025年のシェアを集計したところ、1位はAnthropicが提供するClaudeシリーズで54%、2位はOpenAIのGPTシリーズで21%、3位がGoogleのGeminiシリーズの11%であった。

 以上のようにAIのシェアは、提供AI企業が活用する計算資源量と必ずしも相関しない。計算資源量では圧倒的なGoogleが、上位2社を追っているのが実情なのだ。

 とはいうものの、法人向けAI市場は以上の3社が支配する体制は揺るぎないだろう。この3社の技術力は拮抗しており、今後、3社を凌駕する技術で1位に躍り出るような企業は、絶対とまでは言えないものの、少なくとも2~3年のあいだに登場するとは考えにくい。

■AIデータセンターの建設も一筋縄ではいかない

 世界の生成AI市場が依然として成長傾向にある以上、当面のあいだ、AIデータセンターは世界各地で建設され続けることだろう。その一方で、AIデータセンター建設に「待った」をかける動きも報道されている。

 日刊ゲンダイDIGITALは2026年5月1日、アメリカ・ニューヨーク在住のジャーナリストであるシェリーめぐみ氏が執筆した、同国におけるデータセンター建設反対運動に関する記事を公開した(※8)。

 シェリー氏によると、Metaがルイジアナ州で建設中のAIデータセンターが稼働した場合、大量に電力を消費するため、建設地域の電力需要を30%押し上げる。また、AIチップ発熱に伴って冷却水が必要になるのだが、その1日当たりの水使用量は約1万7,000人の地元住民が1日に使う量に匹敵する。

 AIデータセンターの誘致は雇用創出や税収増などのメリットがある一方、建設地域への多大な環境負荷が生じるので、誘致に反対する運動が後を絶たないのだ。

 日本におけるAIデータセンター建設反対運動については、テレビ朝日が2026年3月9日に報じている(※9)。この反対運動は、千葉県印西市駅前に建設予定のデータセンターをめぐって起こっている。

 以上の反対運動では、駅前という立地をめぐって、印西市の住民と軋轢が生じている。法令にもとづけば、駅前に倉庫や工場に類する建物は建設できない。こうしたなか、データセンター建設企業はデータセンターを「その他」というカテゴリーで申請して、建設を進めようとしている。

 建物カテゴリーでその他に分類されたとしても、データセンターは“入口の小さい倉庫”のように見える。こうした圧迫感を感じさせかねない建物は駅前の景観を損ねるのではないか、という一部の印西市住民の思いが、データセンター建設反対運動を引き起こしたのだ。

 生成AI市場が成長傾向にあるなか、その成長をインフラ面で支えるAIデータセンター建設計画は今後も推進されるだろう。しかしながら、こうした計画を地元住民の理解を得ずに推進すれば、“21世紀の新たな公害”に発展してしまう懸念があるのも事実だ。

 生成AI開発企業は、AIデータセンター建設による計算資源の確保と同時に、その建設に関して地元住民の理解を得るような、“責任と信頼のあるAI企業”を目指すべきだろう。

〈参考〉(※1)Epoch AI「AI Chip Owners」https://epoch.ai/data/ai-chip-owners?view=graph&tab=count&mode=snapshot&colorBy=designer(※2)Epoch AI「AI Chip Owners」の「FAQ」https://epoch.ai/data/ai-chip-owners?view=graph&tab=count&mode=snapshot&colorBy=designer(※3)Epoch AI「Frontier Data Centers」https://epoch.ai/data/data-centers?view=table&tab=frontier-data-centers&colorPinned=Anthropic-Amazon+New+Carlisle(※4)Epoch AI「Could decentralized training solve AI’s power problem?」https://epoch.ai/blog/could-decentralized-training-solve-ais-power-problem(※5)Epoch AI「How far can decentralized training over the internet scale?」https://epoch.ai/gradient-updates/how-far-can-decentralized-training-over-the-internet-scale(※6)Compare Cheap SSL「Generative AI Statistics 2026: Market Size & Adoption」https://comparecheapssl.com/generative-ai-statistics-market-size-adoption/(※7)Menlo Ventures「2025: The State of Generative AI in the Enterprise」https://menlovc.com/perspective/2025-the-state-of-generative-ai-in-the-enterprise/(※8)日刊ゲンダイDIGITAL「巨大テック企業のAIデータセンター開発ラッシュに全米各地の住民が激怒 中間選挙の火種に」https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/387145(※9)テレ朝NEWS「駅前データセンター計画めぐり住民が提訴 建築確認取り消し求める 千葉・印西市」https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900185571.html

〈記事サムネイル〉千葉県印西市のGoogle データセンター

(文=吉本幸記)