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 「クマが秋に主に食べているのはドングリ」という定説。これを覆すかもしれない研究結果が発表されました。

【写真を見る】クマの主食は実はこれ?アオハダの実(藤木准教授提供)

 兵庫県立大学の研究チームは、兵庫県北部から京都府北部にかけての地域の里山に生息するツキノワグマの食性を調査し、秋には一般的に知られる「ドングリ」ではなく、水分の多く含む果実「液果類」を主食としていることを、国内で初めて定量的に明らかにしました。
 これにより、「ドングリの豊凶によるクマの出没予測」の精度が上がらない理由が明確になったということです。

ツキノワグマの糞 計288個を収集

 研究を行ったのは、兵庫県立大学 自然・環境科学研究所の藤木大介准教授ら研究チームです。

 これまでクマの生態調査は、主に標高の高い「冷温帯」と呼ばれる地域で進められてきました。しかし、西日本の低標高地に広がる「暖温帯」に生息するクマが何を食べているのか、科学的かつ定量的なデータはほとんど存在していなかったといいます。

 そのため、「冷温帯」にあたる県北西部から中国地方にかけての生息するツキノワグマ「東中国地域個体群」においては、ドングリの実り具合でクマの出没予測を出すことができていたものの、「暖温帯」にあたる兵庫県北東部から京都府北部にかけて生息する「近畿北部西側個体群」では、出没予測の精度が課題となっていました。

兵庫~京都北部のツキノワグマはドングリほぼ食べず…では何が主食なのか

 研究では、この「近畿北部西側個体群」のツキノワグマを対象に調査を実施。2021年からおよそ4年間にわたって、計288個のツキノワグマのフンを収集し、内容物の分析を行いました。

 その結果、一般的に主食として知られているブナ科のドングリはほとんど食べず、「アオハダ」「ウラジロノキ」といった水分を多く含む果実「液果類」を多く食べていたということです。

クマの出没予測が変わる??

 液果(えきか)とは、サクランボのように真ん中に種子があって周りに果肉があるような木の実=いわゆるベリー類のこと。
 今回の調査では、ウラジロノキやアオハダ、タカノツメといった樹木の実を好んで食べていることが判明しました。

「私が調査したエリアは圧倒的にコナラが多く、コナラの海の中にウラジロノキやアオハダが点在しているような環境。手軽に大量に得られるのはコナラのドングリのはずなのに、コナラは食べずに、ポツンポツンと生えていて小さな実しかつけない液果を選んで食べていたということなのです」(藤木准教授)

 2023年のようにコナラのドングリが豊作だった年でさえ、クマたちの食事メニューの99%が液果だったというデータも出ています。この研究を踏まえると、ドングリの豊凶でクマの行動を捉えることは難しいようです。

クマ出没が多い年は「人里周辺のカキ」を多く食べていた

 また、年によってバラツキもあり、クマの出没が少ない年は、森林内の液果類を多く食べていましたが、クマの出没が多い年には人里周辺のカキを多く食べていたということです。 

 この研究から、クマは以下のような行動をとっていたことが示唆されました。

◎出没が少ない年:森林内の液果類を主に食べていた 
◎出没が多い年 :代わりに人里周辺のカキを食べていた
◎2024 年(大量出没年):カキ凶作のため、さらなる代替としてクリが主要採食物に

今後のクマ出没予測に役立てられるか

 これまで兵庫県では、ブナ、コナラ、ミズナラといったブナ科の3種類の木の実の豊凶を調査し、主食であるドングリがなくなれば、クマは困り果てて人里へ下りてくる--というのが、これまでのツキノワグマの出没予測の根幹でした。

 しかし、出没予測の精度に課題があった「近畿北部西側個体群」の秋の主食はアオハダなどのベリー類だったということで、藤木准教授は「クマが何を食べているか裏付けをすることで、今後の出没予測に向けての樹種選定に役立てたい」としています。

山中の「フン拾い」で調査 クマに遭遇したことも…

 今回の研究は、山の中で拾い集めたクマのフンを採集し分析することによって行われました。

 藤木准教授は、採集調査を次のように振り返ります。

「やはりクマのフンを拾うのは大変なのです。そのため、非常に調査のコストパフォーマンスが悪い。1日調査に行って1つも拾えないことなどは全然普通ですし、私は最大で7日間調査に行って全部坊主(成果なし)だったこともありますので、なかなか手を出しにくいというのはあるのです」(藤木准教授)

 去年の秋には、調査の合間に山中で休んでいたところ、クマに襲われかけたといいます。幸い、近づいてきたクマが急に方向転換したため難を逃れたということですが、危険を伴う困難な調査だということです。

クマにも「食の地域文化」がある?

 今回の発見は、兵庫県の一部地域だけの話にとどまらない可能性があります。

 同じ兵庫県内でも東中国地域個体群のクマはドングリを食べているということで、藤木准教授は「クマにも地域による食事メニューの違い、いわば“食文化”のようなものがあるのではないか」と推察しています。

「同じ兵庫県内でも、これだけ近くにいる個体群の間で全然食べているものが違うということが分かったということは、やはり全国的に見るとクマの食べているものの食事メニューには、実は多様な可能性があるのではないかと思っています。
人間は地域によって食べるものが違いますが、クマも同じようなことが考えられるということです」(藤木准教授)