ある女子高校生 入学後に張り切って自転車通学するも命の危機に

ヒトは大きく2種類の筋肉で構成されている。一つは、消化器官や血管など自分の意思では動かせない平滑筋。それ以外の筋肉を横紋筋と呼ぶ。横紋筋は2種類に分かれていて、一つは自動的に心臓を動かす心筋、もう一つが自分の意思で動かせる筋肉、骨格筋。そんな重要な横紋筋が溶け出すことで命に関わることがある。
2017年4月、高校に入学したばかりの15歳の女子高校生は、自宅から学校まで片道20分を自転車で通い始めた。中学の3年間ほとんど運動をしていなかった彼女にとって、この通学はなかなかの運動。入学して1週間後、脚が痛いと訴える。
母は娘を救急外来へ連れていった。専門医のいない時間帯で、レントゲンを撮っても骨に異常は見られず。医師は成長痛ではないかと伝え、痛み止めをもらい帰宅。
しかし翌朝、娘はベッドから起き上がれないほどの痛みに見舞われる。さらに尿がコーラのように茶色になっていた。

すぐに昭和医科大学横浜市北部病院へ。前田昭彦医師が血液検査、尿検査、MRI検査を行うと、血液検査の結果に異常が。クレアチンキナーゼという筋肉や脳の細胞内に存在するエネルギーを生み出すのに必要な酵素の数値が27万超と、通常の1800倍という異常な数値になっていた。
この数値が高いと、ミオグロビンというタンパク質が一気に流れ出て、血液のフィルターである腎臓を詰まらせてしまうことなどがある。そうなれば尿を作ることができず、毒素が体内をまわり急性腎不全を起こしてしまう危険があり、最悪の場合、昏睡状態になることも。
前田医師は横紋筋融解症と診断。「自転車が原因だと思います」と結論づけた。

横紋筋融解症とは、筋肉が耐えられないほどの強い衝撃や長時間の圧迫などで細胞が壊れ、その成分が血液中に流れ出す病気。通常は筋肉の細胞の中に閉じ込められているミオグロビンという赤いタンパク質が一気に外へ溢れ出し、赤色が尿に混ざることでコーラ色になる。
前田医師のもとには過去、サーフィン初心者の知り合いの医師が、長時間うつ伏せ状態でパドリングをした翌日に体調不良とコーラ色の尿を訴えて訪ねてきたことがあった。普段の生活で使わない上半身の筋肉が傷めつけられ、横紋筋融解症を発症していたのだ。
女子高校生は、中学時代にほとんど運動をしなかったのに、ペダルを漕ぐたび足それぞれに15キロ前後の負荷がかかる運動を続けた結果、太ももの前側・大腿四頭筋が壊れてしまったのだ。その後、彼女は点滴治療で1週間後に退院。後遺症もなかった。
日頃運動している人でも危険がある。サッカー少年だった男子高校生は、梅雨の時期に体を鍛えるため長時間腕立て伏せを続けたことで横紋筋融解症を発症した。高温多湿の環境だったために高熱と脱水を引き起こし、筋肉が壊れてしまったのだ。
ある食べ物を食べた人が相次いで横紋筋融解症を発症したケースもある。香港で50代の女性と30代の女性が相次いで発症し、2人の家族に聞き取り調査をしたところ、発症直前に同じザリガニ料理を食べていたことが判明した。
香港の食物安全センターは「ザリガニ、横紋筋融解症およびHaff病」という報告書を出しており、消費者に向けて野生のザリガニは食べないこと、信用できる業者から買い十分洗い加熱すること、食べすぎないようにと注意喚起している。
ダイエットや健康のために、急な筋トレや普段使わない筋肉に負荷をかけて発症してしまう人も多い横紋筋融解症。「安静時もズキズキと痛む」「脱力感」「コーラ色の尿」が出た時は横紋筋融解症のサイン。また、コレステロールを下げる薬や一部の抗生物質などを服用している人にも起こりうると、厚生省は注意を呼びかけている。
