ペットロスに苦しむ飼い主に訪れた“月命日の出会い” 亡き看板猫が運命の「いと」でつないでくれた新たな縁
「この子と一日一日を大切に生きていきたい…」そんな願いを込めて「こよみ」と名付けられた一匹の子猫。岩手・盛岡市の居酒屋で人気の看板猫だ。
店のママである泉さんは「こよみとは先代の看板猫の“月命日”に出会ったんです」と振り返る。
亡くした猫が紡いだ運命的な出会いと、二代目看板猫としてのこよみちゃんの働きぶりについて聞いた。
「あの子がいる日に予約したい」
創業52年、手作りピザが人気の洋風居酒屋店「バッファロー」。この店で看板猫を務めているのが、こよみちゃん(生後11カ月)だ。
泉さんいわく、そのかわいさは“破壊的”。遊びたい盛りのこよみちゃんはお客さんを見るやいなや…。
「『遊んで』と言わんばかりに、猫じゃらしをくわえて、お客さんのもとへ飛んでいきます」
そんな無邪気で愛くるしい姿に心を奪われてしまったお客さんは多いと話す泉さん。「こよみちゃんが居る日に予約したい」と連絡を受けることも珍しくないのだとか。
今ではすっかり店のアイドルとなった、こよみちゃん。出会いのきっかけは、今から1年ほど前に虹の橋を渡った、先代の看板猫が深く関係していると泉さんは語る。
先代の看板猫と出会ったのは2022年のバレンタインデー。その日はとても寒い一日だったという。
「店の自動ドアを開けて、いきなり知らない猫が店内へ入ってきました」
ガリガリに痩せ細り、体を震わせている姿を見かねた泉さんは、店のバックヤードでいったん保護することに。
猫風邪の症状が見られたため、3日ほどたった後、動物病院へと連れて行こうと初めて抱っこした際には…。
「腕の中でぷるぷると震えていたのを今でも覚えています」
不安そうにおびえる姿を見て、泉さんは「うちに迎えて、この子を幸せにしたい」と決心。
名前は、出会いが運命的で“赤い糸”を思わせたことから、「いと」と名付けた。
“接客しない看板猫”として人気に
新しい家族の一員となったいとちゃんは、毎日、泉さんと一緒に出勤するように。
店では客席ソファーを寝床とし、愛想を振りまかず、お客さま対応をしない“接客しない看板猫”としてデビュー。
その何者にもこびないスタイルが、意外にもお多くのお客さんの心をつかみ、「バッファロー」は“猫のいる居酒屋”として有名になった。
その後も多くの人に愛され、店を盛り上げてくれたいとちゃんだったが、2024年の5月末にリンパ腫が発覚。
複数回に及ぶ抗がん剤治療にも耐え抜いたいとちゃんだったが、2025年3月22日、静かに虹の橋を渡った。
どこに行くにも何をするにも一緒だった、家族との別れ。当たり前にそこにいた存在を失った泉さんは毎日、涙が止まることはなかったという。
「これからは一人で出勤しなければいけないと思うと、胸が張り裂けそうでした」
やがて泉さんは、何か大切な糸がぷつりと切れたように、「店に立つことができなくなった」という。
泉さんは亡くなったいとちゃんの姿をかたどったクッションを作り、それを抱えて過ごすことで、埋めようのない寂しさを何とか紛らわせていた。
けれど、心はすでに限界寸前。日常を保つのがやっとなほど、精神的に追い込まれていたという。
そんな絶望の底から泉さんを救い上げてくれたのは、いとちゃんを通してつながった人たちの存在だった。
「いとが通っていた動物病院の先生から『すぐには難しいかもしれないけれど、また、かわいい子を迎えて幸せにしてあげてくださいね』と」
この言葉を聞き、「もし縁があったら、いとを愛したように、その子のことも大切にしたい」と、気持ちが前向きになったという。
そんなある日、いとちゃんを生前かわいがってくれていた店の常連さんが、一つの話を持ってきてくれた。
「解体現場で4匹の子猫が見つかり保護されたらしい」
泉さんは「いとが新たな縁をつないでくれた」と感じ、保護された子猫に会いに行くことを決意。その日は偶然にも5月22日、いとちゃんの“月命日”だった。
接客スタイルは正反対
保護された4匹の子猫のうち、最初に紹介された一匹を抱き上げたとき、言葉にできない運命的な感覚を覚えたという泉さん。
「他の子猫の紹介を受けている最中でしたが『この子にします』と即決しました」
いとちゃんとの別れから、「一日一日を共に長く刻んでいきたい」という願いを込め「こよみ」と名付けた。
迎えられてからは、店のケージの中でお客さんに見守られつつ、“看板猫見習い”としての修行がスタート。赤ちゃんのころからたくさんの愛情を注がれて育ったこよみちゃんは、人が大好きな甘えん坊に成長。
キュートなルックスと持ち前の人なつっこさで次々にファンを増やし、入店して3カ月後には、店の二代目看板猫として本格的にデビューを果たした。
現在でも物おじすることなく、誰に対しても甘えにいく、いとちゃんとは“正反対なスタイル”でお客さんをとりこにしている。
「これからもよろしくね」
今でも、ふとした時にいとちゃんと過ごした日々を思い出し、涙がこぼれることもあるという泉さん。
しかし、悲しみのあまり店に立つことさえできなかったあの頃と比べ、今では気持ちに大きな変化が生まれたと言う。
「いとと一緒に子育てをしている感じです。だから、これからもよろしくねと」
もし、あの日いとちゃんが自動ドアを開けていなかったら、こよみちゃんの話をしてくれた常連さんとの縁がなかったら…。いくつもの糸が折り重なって生まれた、月命日の出会い。
一度は断ち切れたと思っていた糸は、今も確かに新たな命と歩む日々へとつながっていた。
(画像提供:「バッファロー」)
