父が急死し、母が「お葬式代だから」と父の口座から「100万円」を引き出し! 口座凍結前だと“違法”と聞きましたが、家族なら問題ありませんか?「合法的に引き出す方法」を確認
口座名義人が死亡すると銀行口座は凍結される
父の口座が凍結されるタイミングは、死亡届を役所に提出したときではありません。銀行が口座名義人の死亡を知った時点で、はじめて口座が凍結されます。
役所と銀行のあいだには個人情報を共有する仕組みが存在しないため、死亡届が受理されても銀行に情報が自動的に伝わることはありません。銀行が死亡の事実を把握するきっかけは遺族からの連絡が最も多く、次いで、ごくまれなケースとして、新聞の訃報欄などで銀行側が独自に死亡の事実を把握し、凍結に至ることもあります。
口座が凍結されると、預金の引き出し・振込・引き落としなど、通常の入出金取引が制限されます。公共料金やクレジットカードの自動引き落としも止まってしまうため、注意が必要です。銀行が凍結を行う理由は、相続財産を守り、相続人のあいだでお金を巡るトラブルが起きないよう防ぐためです。
凍結前に遺族がお金を引き出すことにはリスクがある
口座凍結前に預貯金を引き出す行為は、違法ではありません。しかし、後々に深刻なトラブルへと発展するリスクがあるため、安易に行うのは避けるべきです。
1つ目のリスクは、他の相続人とのトラブルです。父の預貯金は亡くなった時点で遺産分割の対象となる相続財産に含まれるため、一人が勝手に引き出すと用途によっては「使い込み」とみなされ、他の相続人から、引き出した金銭の返還や損害賠償を求められる可能性があります。
2つ目のリスクは、相続放棄ができなくなる恐れです。もし父に多額の借金があり、相続放棄を検討していたとしても、預金を引き出して消費してしまうと「単純承認」とみなされ、借金も含めて相続することになる可能性があります。
ただし、社会通念上相当と認められる範囲の葬儀費用に充てた場合は、例外的に単純承認には当たらないと判断された裁判例があります。しかし、どこまでが妥当かの判断は難しいため、専門家への相談が安心です。
凍結後に合法的にお金を引き出す「仮払制度」とは?
口座凍結後であっても、合法的にお金を引き出せる制度があります。2019年7月1日に施行された「遺産分割前の預貯金の仮払制度」(民法909条の2)です。
仮払制度を利用すれば、遺産分割協議が整う前であっても、各相続人が単独で一定額の預貯金を払い戻せます。引き出せる金額の計算式は以下のとおりです。
相続開始時の預金残高×1/3×払い戻しを受ける相続人の法定相続分
同一の金融機関からの払い戻しは、上限150万円となっています。たとえば、父の口座に600万円が残っており、相続人が母と子1人の計2名の場合、母の法定相続分は1/2なので「600万円×1/3×1/2=100万円」が払い戻せる上限額です。
手続きに必要な書類は、父の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、相続人全員が確認できる戸籍謄本、払い戻しを受ける相続人本人の印鑑登録証明書などです。なお、書類が揃っても金融機関側での確認に一定の時間がかかる場合もあります。
仮払制度で引き出した金額は、後の遺産分割協議において「先に受け取った相続分」として計算に組み込まれる点も覚えておきましょう。
まとめ
凍結前に預金を引き出す行為はただちに違法とはなりませんが、他の相続人から返還や損害賠償を求められるリスクや、相続放棄ができなくなるリスクを伴います。
今回のケースのように、すでに100万円を引き出してしまった場合は、事後のトラブルを防ぐために領収書をすべて保管し、他の相続人に用途を透明化して遺産分割協議で調整することが重要です。
葬儀費用など急ぎの支払いには、2019年に施行された仮払制度を活用するのが安全です。同一の金融機関からは上限150万円まで、遺産分割協議が整う前でも払い戻しが受けられます。まずは対象の金融機関に必要書類を確認し、正しい手順で手続きを進めてみましょう。
執筆者 : 高柳政道
FP1級、CFP、DCプランナー2級
