「捉えどころのない景気の実感」を数値として把握…「景気ウォッチャー調査」の面白さ【ベテランエコノミストが解説】
2000年から始まった『景気ウォッチャー調査』は、調査時点が前月25日から月末で、結果発表が原則翌月の第6営業日という、速報性に優れた景気指標だ。このデータをウォッチしていると、様々な経済の動きが見て取れる。本記事は『データで読み解く「日本経済」のリアル【季節&気象・マインド・おもしろジンクス編】』から一部を抜粋し、気象と景気の相関について分析する。
歴史的猛暑で最も「マイナスの影響」を受けた業種は?
2024年は猛暑だった。福岡県太宰府市では、9月20日に62日目の猛暑日(=最高気温が35℃以上の日)を迎え、国内の最多記録を更新した。また、2024年における東京の真夏日(=気温30℃以上の日)は合計83日で、過去最高だった2023年の90日に続く第2位になった。
2024年の月ごとの真夏日は、6月が7日分、7月が25日分、8月が最も多い29日分、9月が19日分、10月でも3日分あり、残暑が厳しかったことがわかる。
内閣府『景気ウォッチャー調査』で2024年7月〜9月の現状判断DIを業種別に見ると、最も厳しい判断を下したのは衣料品専門店で、その回答結果は3カ月連続で「40割れ」となっていた[図表1]。
[図表1]分野・業種別:2024年7月〜9月の景気現状判断(方向性/原数値) 出所:『データで読み解く「日本経済」のリアル【季節&気象・マインド・おもしろジンクス編】』(ゴールドオンライン新書)より抜粋
速報性に優れた『景気ウォッチャー調査』
2000年から始まった『景気ウォッチャー調査』は、調査時点が前月25日から月末で、結果発表が原則翌月の第6営業日という、速報性に優れた景気指標である。『景気ウォッチャー調査』の現状判断DIは「良くなっている」から「悪くなっている」までの5段階の回答を1〜0まで0.25刻みで点数化し、回答数で加重平均するものだ。
『景気ウォッチャー調査』は、全国各地で景気に敏感な立場にある人々からの報告を、各地域のシンクタンクが処理するシステムになっている。
調査対象の景気ウォッチャーは全部で2,050人である(当初は一部の地域だけで500人からスタートし、2001年8月から2,050人体制となった)。現状と先行きの景況感やその理由などを答えてもらうことを通して、地域ごとの景気動向を的確かつ迅速に把握し、景気動向判断に資する調査である。
景気ウォッチャーを選ぶに当たって、業種と地域という2つの基準を設け、それぞれの内訳のウエイトを民間の実態に合わせて決め、全地域の合計が日本経済の縮図になるように設計された。
景気ウォッチャーの構成は、タクシー運転手、百貨店やコンビニ、家電量販店、スナック店長など、多くの消費者と接する「家計動向関連」が約7割を占める。
約2割は受注の動きなどがわかる「企業動向関連」、残り1割はハローワークや学校の就職担当などの「雇用関連」である。それぞれの地域事情に詳しいシンクタンクが、「地域の景気動向をきちんと把握する能力と意欲があり、的確に説明できる人」を厳選している。
ポイントは、使命感を持つ方々が景気ウォッチャーになっており、その回答率も9割程度と高いことだ。それゆえに『景気ウォッチャー調査』では、景気動向を的確に表す結果が得られている。
捉えどころのない景気の実感を数値で把握
『景気ウォッチャー調査』では、注目される事象のワードに関するコメントだけから算出した「コメント別DI」を簡単に作成し、その事象の影響を判断できる。このように、「捉えどころのない景気の実感」を数値として把握できる点も、本調査の特徴である。
「気温」関連現状判断DIを作成し、2024年の夏から秋を振り返ったところ、7月は54.3と、景気判断の分岐点である「50」を上回っていた。エアコンなどの売上が堅調で、家電量販店などは景気が良い状況だった。
しかし、猛暑が厳しい8月の「気温」関連現状判断DIは48.3と、分岐点「50」を下回った。9月は48.1と低下し、10月になっても残暑が厳しかったため8ポイント悪化して40.1と、景況感の悪化要因になった。
なお、この間も、2〜3カ月先の「気温」関連先行き判断DIは分岐点の50を上回る状況が続いていた。景気ウォッチャーたちは、気温が落ち着けば景気に対するマイナスの影響がなくなると見ていたのである。この見立ては11月に実現した。
11月は、中旬以降の気温が低下したことで、秋冬衣料の活発化などが景況感の押し上げに働いたようだ。11月の「気温」関連現状判断DIは53.2と、10月(40.1)から13.1ポイントも大幅に改善し、判断の分岐点50を上回り、景況感の改善要因になった。
また、11月の「気温」関連先行き判断DIは53.3で、現状・先行きともに景気判断の分岐点50を上回った[図表2]。
[図表2]2024年7月〜11月の「気温」関連DI 出所:『データで読み解く「日本経済」のリアル【季節&気象・マインド・おもしろジンクス編】』(ゴールドオンライン新書)より抜粋
景気ウォッチャーの1人である南関東の衣料品専門店・統括は、「気温の低下、ブラックフライデーなどのセールにより、来客数が回復しており、売上を押し上げている。」という、「良くなっている」という判断のコメントをしている。
7月〜9月の衣料品専門店の現状判断DI(原数値)は3カ月連続「40割れ」と、業種別では一番低い数値だった。しかし、気温の低下で秋冬物衣料が活発化した11月は50.4と、2022年5月の50.9以来の「50超え」になった[図表3]。
[図表3]衣料品専門店の現状判断DI 出所:『データで読み解く「日本経済」のリアル【季節&気象・マインド・おもしろジンクス編】』(ゴールドオンライン新書)より抜粋
※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の市場動向や統計結果等とは異なる場合があります。また、特定の投資判断や金融取引を推奨・勧誘するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。
