フジテレビは復活できるのか 大改編から1か月で視聴率微増 かつての強さを生んだ「混成軍」
フジ復活の条件
10年連続で視聴率4位と低迷するフジテレビが大掛かりな4月改編を行ってから約1か月が過ぎた。昨年1月末に就任した清水賢治社長(65)の意向が初めて全面的に反映された改編でもある。フジは復活できるのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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フジが復活するのは間違いないと見ている。ただし、条件付きだ。30年以上にわたって絶対的権力者だった日枝久元会長(88)が復権しないこと、さらに新たな絶対的権力者を生まないことである。テレビ局に限らず、こんなに長くサラリーマン経営者が大企業を支配した例はないのだ。

複数のフジ幹部らによると、同局の局長以上の人事はずっと日枝氏が決めていた。その結果、視聴率と業績が低下の一途を辿りながら、社長が責任を取らない組織になってしまった。社長の責任を追及しようものなら、選任した日枝氏への批判になってしまうからだ。
視聴率低迷が始まった2010年代半ばの社長は退任したが、引責ではなく、グループ内の有力企業の社長に横滑りした。責任は問われなかった。その後の社長も自らの責任を公言したことがない。これだけ視聴率と業績が悪くなりながら、誰の責任か分からないのだ。それどころか、他局に負けていることも容易には認めない体質が日枝氏時代にはあった。
昨年の人権侵害問題はフジにとっては痛恨事だったが、奇貨でもあったのではないか。組織を一新できた。以前のままでは低迷したままだったに違いない。
視聴率は微増
フジの4月の改編率は次の通り。ゴールデン帯(午後7〜同10時)37.1%、プライム帯(午後7〜同11時)40.6%、全日帯(午前6〜深夜0時)24.2%、この割合の番組が終了し、同時に新番組が始まった。かなり大きな改編である。フジが本気で再出発しようとする表れだ。
改編の成果はあったのか。改編前の3月の月間個人視聴率と4月のものを比べてみたい。なお、テレビ界では2020年3月末から視聴率の標準が「世帯」から「個人」に切り替えられた。世帯視聴率は使われていない。変更から丸6年も過ぎたということもあり、ここでも個人視聴率を用いたい。
まず3月(2〜29日)の月間視聴率である。()は順位だ。
■日本テレビ
ゴールデン帯5.0%(2)/プライム帯4.5%(2)/全日帯3.2%(2)
■テレビ朝日
ゴールデン帯5.7%(1)/プライム帯5.8%(1)/全日帯3.6%(1)
■TBS
ゴールデン帯4.1%(3)/プライム帯3.9%(3)/全日帯2.6%(3)
■テレビ東京
ゴールデン帯2.9%(5)/プライム帯2.5%(5)/全日帯1.1%(5)
■フジテレビ
ゴールデン帯3.0%(4)/プライム帯2.9%(4)/全日帯1.9%(4)
3月のテレ朝は3冠王だった。日テレが追い、TBSが続いた。フジはかなり差を付けられ、テレ東とともにBクラスに甘んじた。
改編後の4月(3月30日〜4月26日)の月間視聴率はどうだったのか。
■日本テレビ
ゴールデン帯5.1%(1)/プライム帯4.7%(2)/全日帯3.3%(2)
■テレビ朝日
ゴールデン帯4.9%(2)/プライム帯5.2%(1)/全日帯3.4%(1)
■TBS
ゴールデン帯4.1%(3)/プライム帯4.0%(3)/全日帯2.6%(3)
■テレビ東京
ゴールデン帯2.7%(5)/プライム帯2.4%(5)/全日帯1.0%(5)
■フジテレビ
ゴールデン帯3.0%(4)/プライム帯3.0%(4)/全日帯2.0%(4)
フジは4位のままだが、プライム帯と全日帯の個人視聴率が上昇した。僅か0.1%であるものの、1か月単位での数字はそう簡単には伸びない。視聴習慣があるからだ。
フジの改編で一番大きな変化は午前帯のワイドショー「サン!シャイン」(平日午前8時14分〜同9時50分)の終了。61年続けてきたワイドショー枠が消えた。
代わりに前番組「めざましテレビ」(平日午前5時25分〜同8時14分)を同9時まで46分間延長した。後番組「ノンストップ!」(同9時50分〜同11時半)は同9時からの開始にした。50分の前倒しだ。
こんな編成は後にも先にもやった局がない。大失敗する可能性もあった。だが個人視聴率は落ちていない。
2つの番組の拡大部分をテレビ業界内では「めざましテレビ第3部」「ノンストップ第1部」と呼ぶ。その4月20日の視聴率は2.4%と1.5%。2つの番組の平均値は2.0%である。同じ時間帯のTBS「ラヴィット!」(平日午前8時〜同9時55分)は1.1%。フジは大差を付けて勝っている。
制作関係者によると、若い女性の個人視聴率、10代に絞った個人視聴率でも「ラヴィット!」よりフジが優勢。フジは午前帯の改革では失敗を免れた。今度は「ラヴィット!」が苦境に立たされている。
フジが鳴り物入りで始めたバラエティ「超調査チューズデイ〜気になる答え今夜出します〜」(火曜7時)は個人視聴率が低い。4月21日は1.6%。放送時間が重なる日本テレビ系「オモウマい店」(同)は6.3%だったから、惨敗である。
ただし、番組開始当初のバラエティはこんなものだろう。バラエティはどの番組も個人視聴率を取れるようになるまでには時間がかかる。テレビ界では「ドラマは短距離走、バラエティはマラソン」とも言われている。
ドラマは3か月間の放送と決まっており、いくら高視聴率を得ようが放送期間は延びない。だから最初から全力で走る。バラエティは最初から高視聴率を取るのは難しく、ゆっくりと走って修正しながら視聴率を伸ばしていく。そして番組が限界を迎えるまで走り続ける。
MCのカズレーザー(41)、お笑いコンビのニューヨークは人気者だが、画面に出るだけで視聴者が増えるような存在とは言いがたい。やはり人気を得るまでには時間がかかる。それでも浮上しなかったら、打ち切るしかない。見切るのが早いのは日テレ。フジは傾向として遅い。
フジは午後7時台、同8時台にヒット番組と呼べる番組があまりないのが辛い。個人視聴率が4%を超える番組である。4月5日に5.2%をマークした「千鳥の鬼レンチャン」(日曜午後7時)と同6日に4.3%を記録した「ネプリーグ」(月曜午後7時)くらい。これを少しずつ増やし、強いゴールデン帯をつくらないと、厳しい状態が続くだろう。
ちなみに同23日のTBS系「プレバト!2時間スペシャル」(木曜午後7時)は5.2%、同24日のテレ朝「ザワつく!金曜日」(金曜午後6時50分)は7.2%、同26日の日テレ「世界の果てまでイッテQ!」(日曜午後7時58分)は7.4%だった。
港浩一氏の置き土産
フジの個人視聴率が低い理由は改編しなかった番組にもある。3年前に始まった昼のバラエティ「ぽかぽか」(平日午前11時47分)は低迷したままで一向に浮上しない。
同番組の同20日の個人視聴率は1.1%。この時間帯の4位。定位置である。バラエティでありながら、若い女性の支持があまりないのも気になる。1位のテレ朝「大下容子ワイド!スクランブル第2部」(平日正午)は2.8%だった。
「ぽかぽか」を始めたのは人権侵害問題の責任を取って退任した港浩一前社長(73)。バラエティ畑の人だ。この番組について幹部連に「絶対に浮上する」と自信満々で語っていたという。その思いは今も変わっていないのだろうか。
そもそも過去のフジはどうして強かったのだろう。1982年から93年までと04年から10年までは年間3冠王だった。80年代に強かった最大の理由は制作部門の人材が多様だったからだと見ている。
フジは1970年代、合理化のため、制作部門を切り離し、子会社化した。今になって考えると、驚くべき改革だが、合理化は他局も行っていた。石油ショックで深刻な不況に襲われていたころだ。
もっとも、フジは1980年に制作子会社の社員の大半を社員化した。ここから快進撃が始まる。子会社にはアルバイト出身の大学中退者やテレビ好きの平凡な若者たちがいた。さらに多くの優秀な高卒社員もいた。もちろん大卒社員もいた。こんな混成軍はフジだけだった。発想の幅が広がったのは当然のことだった。
一方で1970年代のTBSは新卒社員の採用に指定校制を採用していた。東大や早大、慶大などの学生しか入社試験に応募できなかった。これでは発想の幅が狭くなるだろう。70年代まで民放の雄だったTBSだが、80年代からは低迷期に入る。
日テレも有名大卒業者が多かったが、1990年前後から人物重視に様変わりする。フジの大成功の影響だ。経験者の中途採用も積極的に行うようになった。
フジの勝ちも負けも不思議ではない。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
