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AIや業務支援ツールで仕事は効率化しているはずなのに、なぜか前より忙しい――。そんな“多忙感”に追い詰められる会社員が増えている。会議、報告、通知、チャット、リマインドに絶えず脳を揺さぶられ、気づけば仕事をしているのに何も終わっていない感覚に陥る。管理職として現場と部下対応に挟まれ、ついに心療内科に通い始めた男性の証言とともに、令和の現代人を蝕む「忙しさの正体」を探った。
◆“働きやすい”環境整備が進んでいるのに忙しいと感じる人が増加

働き方改革に、リモートワーク化、生成AIを活用した業務支援ツールの数々で“働きやすい”環境整備が進んでいるのに、「なぜかクソ忙しい」と感じる人が増えている。

セイコーグループが発表している「時間白書2025」によると、すべての年代の64%が「時間に追われている気がする」と回答し、「もっとゆっくり過ごしたい」と回答した人は約8割に達している。専門商社で部長代理を務める与田幹雄さん(仮名・48歳)も次のように話す。

「社員200人の中小企業なので、部長代理といっても現場仕事も兼務するプレーイングマネジャー。それでも、月曜日は全社会議に加えて長時間の部長級会議があるので、ほぼ一日が潰れる。毎朝行う部下との全体ミーティングに、プロジェクトごとの進捗確認、上長への経過報告、さらに今の時期は新入社員教育やコンプラ研修が重なるので、自分の業務なんて手がつかない。

業務効率化を目的に昨年からAIツールの導入が進んで、議事録や報告書の作成は確かにラクになったけど、部下が上げてくる報告書までAI任せなので、その内容のチェックのために、一人ずつ呼び出して個別事案の確認をするという余計な手間が生じている。それでいて、AI導入1年でどれだけ生産性が上がったか数値化しろという指令も出たので、しばらく残業続きとなるのは間違いない……」

◆現場仕事もこなす管理職の負担は増すばかり

20年以上、現在の会社に勤める与田さんは「電話でアポ取りして営業して、帰社したら口頭で上司に報告するだけ、という点で昔はもっとシンプルだった」と話す。

だが、今では一つの営業先を回るにしても、仕組み化の下に導入されたフレームに沿った提案書の作成、営業管理Excelへの書き込み、営業支援システムへの入力、Slackでの情報共有など、無数のプロセスを踏む必要があるという。そのため、現場仕事もこなす管理職の負担は増すばかり。

「それでいて、役員になったかつての直属の上司からは、個別に、『AIの使い方教えて』などと連絡が来る……。どれだけ忙しくさせれば気が済むんだと怒りを覚えて、情緒不安定になってきたので、2月には初めて心療内科のお世話になりました」

◆脳疲労と“外乱”で現代人の負担が増加

このように多くの人が抱える「多忙感」は、今や現代病とも言える。長く脳のリハビリテーションに従事し、現在はその知識を生かして企業研修にも取り組む作業療法士の菅原洋平氏は次のように話す。

「多忙感の原因はタスクの増加による脳疲労と、それに追い打ちをかける脳への“割り込み処理”とも言えるデジタル由来の“外乱”にあります。マルチタスク化という幻想の下、多くの仕事を並行処理する能力を求められながら、各種業務支援システムの浸透で会議の際にはリマインドやアラーム、メッセージアプリでは未読を知らせる表示、カレンダーアプリからは予定のプッシュ通知など、仕事の手を止めて対応しなければならない作業が増え続けている。この外乱が、人の予定をたびたび狂わせるため、常に時間に追われている感覚を抱いてしまうのです。

こうして多忙感が進行すると、イライラが募り始め、しまいには脳がショートしてぐったりする。これまで数多くの企業研修を任されてきましたが、対象者のほぼ全員が多忙感に襲われている状況で、その半数は危険水域にありました。個別に診断した人のなかには、多忙感を解消できぬまま過ごしてしまい、うつ病や適応障害を患ってから問題に気づく人もいます」