終活コーディネーターの吉原友美さんが終活について語ります

「自分が死んだあと、誰が電気やスマホの契約を整理してくれるのだろう」。そんな不安を抱えたことはないでしょうか。特におひとりさまや子のいない夫婦にとって、死後に発生する膨大な事務手続きは、葬儀や埋葬の準備と同じくらい、あるいはそれ以上に切実な問題です。頼れる親族がいても「動けない・動かない」ということもあります。遠方に住む甥や姪に連絡が取れなかった、という話も珍しくありません。そうした現実に対応する法的な手段として、近年注目を集めているのが「死後事務委任契約」です。

死後に待ち受ける、膨大な手続きの現実

人が亡くなると、その後に処理しなければならない手続きは、多岐にわたります。役所への死亡届の提出に始まり、健康保険・年金の資格喪失届、運転免許証の返納、銀行口座の凍結と解約、クレジットカードの解約、各種サブスクリプションの停止、電気・ガス・水道・電話の解約、賃貸物件の退去手続きなど、その数は100に上るとも言われています。

さらにおひとりさまならではの課題として、ペットの引き取り先の確保、デジタル遺品(SNSアカウント・メールデータ等)の整理、遺品の処分と部屋の原状回復も加わります。これらを「誰かに任せる」仕組みを生前に整えておかなければ、手続きが宙に浮いたまま放置されるリスクがあります。

こうした死後の手続きの問題は、おひとりさまや子のいない夫婦に限ったものではありませんが、親族に頼りにくい立場にある人ほど、課題が表面化しやすいのが現状です。

終活コーディネーターとして活動する中でも、死後の手続きを誰に託すべきか悩む声は少なくありません。そうした相談の中で、近年選択肢に上るのが「死後事務委任契約」です。

死後事務委任契約とは?誰に依頼する?

以前、夫を亡くしたばかりの70代の女性からご相談をいただきました。「子どもがいないから、私が死んだら誰も動いてくれない」と涙ながらに話してくださったその方と一緒に委任内容を整理し、銀行口座の解約から長年一緒に暮らした猫の引き渡し先まで書き出していきました。すべてが整ったとき、「これでやっと安心できた」とおっしゃっていただきました。死後事務委任契約とは、難しい法律の話である前に、「誰かに託す」という人としての安心を形にする手段です。

この契約は、自分が亡くなった後に必要な事務手続きを、信頼できる第三者にあらかじめ依頼しておく仕組みで、民法上の「委任契約」の考え方に基づいています。遺言書が主に「財産の分配方法」を指定するものであるのに対し、死後事務委任契約は「手続きの実行者」を指定するもの、と理解すると分かりやすいでしょう。この契約を結んでおくことで、誰が責任をもって手続きを進めてくれるのかを、生前のうちに明確にできます。

では、この契約を誰に頼めばよいのでしょうか。

受任者(手続きを引き受ける人)には、大きく分けて「専門家(弁護士・行政書士・司法書士など)」と「信頼できる知人・友人」の2つの選択肢があります。それぞれの特徴を整理しておきましょう。

専門家に依頼する最大のメリットは、確実性と継続性といえるでしょう。法人や事務所が受任者となるケースでは、担当者が変わっても業務が継続されます。また、手続きに不備が生じた場合の責任の所在が明確です。費用は依頼内容によって異なりますが、着手金・報酬として一般的に数十万円程度が相場とされています。

一方、信頼できる知人・友人に依頼する場合は費用を抑えられる可能性がありますが、受任者自身が先に亡くなる・体調を崩す・関係が疎遠になるといったリスクがあります。また、法律的な手続きに不慣れな場合、役所や金融機関でのやり取りで困難が生じることもあります。知人に依頼する場合でも、委任内容を公正証書で明文化しておくことが強く推奨されます。

契約の前に、委任したい内容をリストアップする

死後事務委任契約を実際に締結する前に、委任する内容を具体的にリストアップしておくことが重要です。想定される主な内容は以下の通りです。

医療費・施設費等の支払い

死亡届に関する手続きのサポート・調整

葬儀・火葬の手配

各種契約の解約手続き

遺品の整理・処分

デジタルデータの削除

ペットの引き渡し

墓や納骨の手続き

これらの手続きには相続人などの権限が必要になる場合があるので、事前に専門家と相談するとよいでしょう。

「自分には財産がほとんどないから不要」と思いがちですが、手続きの煩雑さは財産の多寡とは無関係です。口座が複数あったり、定額課金のサービスに多く加入していたりするほど、整理には時間と手間がかかります。

なお、死後事務委任契約は遺言書(公正証書遺言)と組み合わせることで、財産の分配と手続きの実行を進めやすくなります。専門家に相談する際は「終活の全体像」を俯瞰した上で、どの手続きをどの契約でカバーするかを整理して臨むとスムーズです。

「身寄りがない」不安を法的な安心へ変える

内閣府の「高齢社会白書(令和7年版)」によると、65歳以上の一人暮らしの割合は男性で約15%、女性で約22%に達しており、今後もその数は増加すると見込まれています。「孤独死が怖い」「死後に迷惑をかけたくない」という声は、高齢の単身者・子なし夫婦から多く聞かれます。

しかし、死後事務委任契約という法的な枠組みを活用することで、「誰かに頼むのは申し訳ない」という気持ちを、「契約に基づいた適切な依頼」へと転換することができます。準備をしておくことは、残された人への配慮でもあります。不安を漠然と抱えたままにするのではなく、まず専門家に相談することが、自分らしい最期を実現する第一歩となるでしょう。

(記事は2026年5月1日時点の情報に基づいています)

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