松ぼっくりで「流れが変わった」…マキロイ連覇の脇で「また2位」のローズ、惜敗でも胸を張って歩き去った“ゴルフ界トップの品格”
マキロイは史上4人目の連覇
今年のマスターズを制したのは、またしてもローリー・マキロイだった。
マキロイは北アイルランド出身の36歳。昨年、悲願のマスターズ初優勝とキャリアグランドスラムを達成し、ゴルフ界を沸かせたばかりだったが、ディフェンディング・チャンピオンとしてオーガスタ・ナショナルに乗り込んだ今年、再び勝利を挙げ、史上4人目の連覇を達成した。
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2年連続でグリーンジャケットを羽織ったマキロイは、愛妻エリカさんや愛娘のポピーちゃん、働きずくめでマキロイのゴルフの費用を稼いで育ててくれた父親ゲリーさんや母親ローズィーさんに囲まれ、至福の表情だった。

世界のメディアは、マキロイの連覇を大々的に報じ、あちらこちらに「Again(再び)」の文字が躍っていた。
もう1人の「Again」
しかし、もう1人、同じ「Again」が付された選手がいた。それは、マキロイが昨年に続いて今年も再び勝った一方で、再び勝てなかった45歳の英国人、ジャスティン・ローズだった。
昨年大会でローズは、マキロイとのプレーオフに敗れて2位に甘んじた。そして今年は、最終日に一時は単独首位に立ち、雪辱は間違いないと思われた矢先、続けざまにスコアを落とし、再びマキロイに敗れて3位になった。
振り返れば、ローズがマスターズで勝ちかけて勝ちそこなった経験は、以前にもあった。2015年大会ではジョーダン・スピース(米国)に敗れ、2017年大会ではセルジオ・ガルシア(スペイン)に勝利を奪われた。
そして昨年は3度目の悔し涙を飲み、4度目となった今年は、マキロイが連覇を達成して光り輝いたのに対し、連敗を喫する結果になった。
なぜ、勝利の女神は、ローズに微笑んではくれないのだろうか。
チャンピオンズ・ディナーの裏で
昨年のマスターズの開幕前までは、マキロイとローズはオーガスタ・ナショナルで惜敗を繰り返してきた悔しさを共有している者どうしだった。
マキロイにも、2011年大会で最終日の前半を独走態勢で終えていながら、後半に大崩れして80を叩き、15位タイに終わった苦い経験があった。2022年大会では2位に甘んじ、2023年、2024年は2年連続で予選落ちとなった。
しかし、それでも「マスターズで勝ちたい」と願い続け、毎年、オーガスタ・ナショナルに挑み続けていたことは、マキロイもローズもまったく同じだった。
マスターズの優勝者だけが参加できるチャンピオンズ・ディナーは、マスターズ・ウィークの火曜日の夜にオーガスタ・ナショナルのクラブハウスの一角で開かれる。そのディナーに参加する資格を持っていなかったことも、2人の共通項だった。
そのマキロイとローズが、昨年大会の火曜日の夜、ひっそりとディナーをともにしていた。それは、オーガスタ・ナショナルのあるメンバーが開いたプライベート・ディナーだったが、同じ火曜日の夜というタイミングから名付ければ、チャンピオンズ・ディナーの「裏ディナー」のようなものだった。
そこで、どんな会話を交わし合ったのかは明かされていない。だが、2人の悲痛な胸の内は、ディナーの穏やかな空気の中で静かに共鳴し合い、お互いに勝利への意欲を高め合っていたのではないだろうか。
試合前に「何も変えようとは思わない」
そんな2人が、それから5日後の日曜日の午後、プレーオフを戦ったことには、運命的な何かを感じずにはいられなかった。
そして、勝利したのはマキロイだったが、敗れたローズは自身の悔しい気持ちを横に置き、悲願のマスターズ初制覇とグランドスラムを達成したマキロイを抱きしめて祝福した。2人のハグは、勝者と敗者と言うより、テレパシーで通じ合う兄と弟のようで、思わず涙を誘われた。
あれから1年。今年のマスターズ開幕前に会見に臨んだローズは、昨年の惜敗を振り返り、こう語った。
「去年は優勝にとても近づいた。だから、とても辛い敗北だった。そう思う一方で、僕はオーガスタ・ナショナルがとても好きだ。これまで喫した3度の2位は、この場所を好きだと思う私の気持ちを変えるものではない」
今年こそ優勝するためには何かを変える必要があるのか? あるとすれば何だと思うか? そんな問いかけに対し、ローズは毅然とこう返答した。
「これまでマスターズで3度2位になったことは、僕のゴルフがこの場所で勝つに値するゴルフだったことを示している。ただ、最後の一線を越えることはできなかった。でも、僕は何も変えようとは思わない」
単独首位で後半へ折り返したが
その言葉を実証するかのように、ローズは今年も優勝戦線に浮上した。
首位から3打差の5位タイで最終日を迎えると、1番でいきなりチップイン・バーディーを決めて好発進。7番では、林の中からピンそばに付けるミラクルショットでバーディーを奪った。8番(パー5)のバーディーで首位に並び、9番のさらなるバーディー奪取。
3連続バーディーを決め、2位に2打差の単独首位に立って後半へ折り返したローズは、今年こそ、長年の雪辱を果たすに違いないと思われていた。大観衆の割れるような拍手と歓声は、すでにローズを祝福しているかのようだった。
しかし、その途端、ローズの「何か」が変わった。アーメンコーナーの11番は、グリーン右サイドからピン2メートルほどに上手く寄せながら、パーパットを外した。
続く12番は池越えの短いパー3。ティグラウンドに立ったローズは「完璧に攻略できると思った」そうだが、ティショットはグリーン奥にこぼれ、2打目のチップショットは、打ち損なってグリーンに乗せることすらできなかった。3打目をパターで寄せて1パットで沈めたが、2連続ボギーは手痛いダメージだった。
2打目の寄せ損ないは、熟練の技を持つローズらしからぬ珍しいミスだったが、後にローズは、こう明かした。
「ボールのすぐそばに、松ぼっくりがあった。そこにあってほしくないシロモノで、できることなら取り除きたかった(が、そうはできなかった)」
「突然、流れが変わったんだ」
松ぼっくりを避けてボールだけをクリーンに捉え、しかもグリーン奥からの寄せゆえに柔らかく打ち出したい。そう考えたローズは変則的な打ち方を試みたが、それが、あの奇妙なミスにつながったという。
「パターという選択肢も考えた。でも(ボールとグリーンまでの面の)芝が伸びていて、パターで転がすのは無理だと思った」
続く13番(パー5)で奪い返すぞと言わんばかりに、ローズは見事に2オンを成功させ、ピン3メートルを捉えた。イーグルチャンス、最悪でもバーディーは獲るだろうと思われた。しかし、結果は3パットしてパー止まりとなった。
リーダーボードに目をやれば、最上段には、すでにマキロイが浮上していた。それでもローズは諦めることなく必死の戦いを続け、15番(パー5)でバーディーを奪い返した。しかし、17番では寄せワンに失敗し、またしてもボギー。この時点で、マキロイとは3打の差がついており、ローズの勝利の望みは限りなくシュリンクしていった。
単独首位に立った直後のことを、「突然、流れが変わったんだ。あっという間の変化だった」と、ローズはあらためて振り返った。
しかし、流れを変えた要因の1つが、松ぼっくりだったことは、傍から見ればどこかコミカルでもある。だからこそ、何にもぶつけようのないローズの悔しさ、もどかしさが想像される。
マスターズがあるからこそ
昨年も今年も、優勝に手をかけながら惜敗に終わったローズだが、彼は「それでも、やっぱりオーガスタ・ナショナルは、僕が大好きな場所であることに変わりはない」と言い切る。
「マスターズがあるからこそ、僕のキャリアにはエネルギーが溢れる。自分を信じることもできる。フォーカスすべきマスターズがあるからこそ、もっと練習しよう、さらに前進しようと思える」
これほど深く熱くマスターズとオーガスタ・ナショナルを愛するローズに、勝利の女神がなかなか微笑んではくれないことは不思議でならない。だが、その背景には、きっと何か特別な意味がある。
72ホール目を終えたローズが、肩を落としたり、下を向いたりせず、胸を張り、高い視線を保って堂々と歩き去った姿には、強さと気高さが溢れていた。
どれだけ惜敗を重ねても、心から勝者を讃える優しく潔い人格。不平不満を口にせず、胸を張って毅然と振る舞う品格。
そんなローズの「格」は、ゴルフ界の最高位である。
舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。
デイリー新潮編集部
