この校則、何かがおかしい。ホラー作家・梨の最新作は、拾った生徒手帳を読み進め、違和感の正体に迫る体験型ホラー【書評】

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「上着や防寒具等は学校が指定する品または指定色の無地を可とする」
「靴下は白・黒の無地を基本とする」
中高生の頃、こうした校則に不平や不満を漏らしたことはないだろうか。学校によっては地毛を黒く染めさせたり、下着の色まで指定したりするような「ブラック校則」もあり、友達と生徒手帳を覗き込みながら「ありえない!」と文句を言い合って盛り上がったものだ。もちろん、今まさに厳しい校則に締め付けられている人も多いだろう。
■奇妙な校則から浮かびあがる学園の実態
最初に違和感を覚えるのは、冒頭の「生徒手帳について」という項目だ。「1. この生徒手帳を他の生徒に貸与、または譲渡することはできない」など、よくある規則が書かれているが、手帳の落とし主によって赤ペンでアンダーラインが引かれ、「使える」と書き込まれている。「使える……? 何に?」という疑問を抱いたまま読み進めていくと、今度は「学則」が始まり、さらに書き込みは増えていく。
「提出物は期限を守ること」という条文には「宿題多すぎ」、「金髪・茶髪等の生徒は必要に応じて黒髪への染色を行うこと」に対しては「意味わからん ネットに載ったら炎上するぞ」というツッコミが書かれていて、厳しい校則を煩わしく思う生徒の反抗心が感じられる。
だが、よくよく読んでみると条文にはおかしな文言も紛れ込んでいる。
「本校の就学年限は原則として設けない」
「白昼(10時〜17時)の校外活動は原則慎むこと」
「校外での写真撮影は一切禁止する」
中学高校は3年で卒業できるはずだが、なぜ期間が定められていないのか。昼は外出禁止とされているが、夜なら出歩いてもいいのか。なぜ写真撮影はいけないのか。条文や書き込みを細かく読み解くほど、この学園の奇妙な実態が浮かびあがってくる。
■学園の真実、落とし主の素性。待ち受ける二重三重の驚き!
「学則」が終わると、「時間割表」「諸届・許可欄」「スケジュール」とページが続き、この学園の異様さがさらに浮き彫りにされていく。そして、たどりつくのが巻末のフリースペース。白いページに落とし主の独白が綴られ、この学園の真実、落とし主の企みが明らかに。校則をはじめ、これまでぼんやり感じていた違和感の正体が明確になり、「あ、そういうことだったのか」と目を開かれる。
しかも、すべてがわかったうえで校則を読み返すと、「なるほど、こういう事情があるからこういう書き方になるのか」と気づいて2度も3度も楽しめる。ちょっとした書き込みにも深い意味があったとわかり、その仕掛けに唸らされるはずだ。さらに、校則にちりばめられていた不可解な単語や学園名についても、検索してみてほしい。新たな事実がわかり、もう一段階、考察を深めることができる。
……と、ここで終われば「面白いギミックだったな」と満足し、「逃れることはできないのが校則なのだな」という皮肉めいた感想で終わりそうだが、そこからさらにひねりを加えてくるのが梨さんの真骨頂。本書には別紙が挟まれており、そちらを読むとすべてを覆すほどの衝撃が待っている。ネタバレになるので詳しいことは言えないが、ゾワッと身震いするような、どこか客観的に見ていた出来事が一気に自分事に引き寄せられるような、現実と地続きの恐怖が待っている。
「生徒手帳」を手に入れ、ページをめくり、真相にたどりつく過程は、読書というより現実と地続きの没入型イベントのよう。1冊の手帳から始まる奇妙な体験を、ぜひとも味わってほしい。
文=野本由起
