【全文公開】悪役も楽しいとニヤリ…鈴木保奈美の告白「毎回、ペーペーの新人のつもりでいます」

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幅広く挑戦

「お願いしまーす!」

しなやかな声が響く。クールなイメージとは対照的に、俳優の鈴木保奈美(59)は軽やかな足取りで取材場所に現れた。

’86年に『おんな風林火山』(TBS系)で主演デビューし、今年芸能活動40周年。大ベテランといえるキャリアを誇る一方、近年は活動や役柄の幅をどんどん広げている。

昨年出演したドラマ『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)では投資詐欺に遭(あ)う世間知らずの団子屋主人、『人事の人見』(フジテレビ系)では優柔不断な人事部長を演じると、ABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』では一転、堂々たる悪役を怪演。柴咲コウ(44)演じる主人公の弱小芸能事務所を、あらゆる手段を使って潰(つぶ)そうとする大手芸能事務所社長を怖さたっぷりに熱演した。

さらに4月5日放送開始のドラマ『対決』(NHK BS)にも出演。一方で最近は映像作品にとどまらず、舞台も意欲的に取り組んでいる。

「10年ほど前から舞台作品を観ることが増えて、やってみたいなと思っていたんです。『舞台に出たいです』と周囲に伝えると、『嫌いなのかと思っていました』と言われたりして。私は嫌いなんて一回も言っていないし、機会があまりなかっただけなんですけどね。

イメージで業界内の物事が動いているんだなと思い、だったら『そんなことないですよ』とイメージを壊していけばいいじゃないかと、最近は積極的に口に出すようにしています」

舞台への情熱を発信し続け、4月3日からは主演舞台『汗が目に入っただけ』が開幕した。東京公演を皮切りに、広島・大阪・富山・山形と全国5ヵ所を巡業。抱腹絶倒の「お葬式コメディ」で、鈴木は幽霊となった一家の母親を演じる。

「作・演出の冨坂友さん(40)とは、’24年の『逃奔政走-嘘つきは政治家のはじまり?-』以来、2度目の舞台です。前作が終わった時に、『またみんなでやりたいですね』というお話をして、それが今回の舞台へと結実しました。

お葬式って誰もが経験することですし、いろんなことができる題材だと思います。伊丹十三(いたみじゅうぞう)さん(享年64)の『お葬式』という名作映画もありますよね。冨坂さんがお書きになるものは、絶対に面白くなると信頼しています」

最近の鈴木は多彩な役柄に挑(いど)み、どんどん自由に動いている印象だ。本人にそれを伝えると、意外な言葉が返ってくる。

「″自由″という言葉はとても好きな言葉。私は自由を目指したいと思っています。『スキャンダルイブ』の悪役も、(私に)やらせてみたいと思ってもらえたことがとっても嬉しい。いろんな役を一つずつ演じてきて、それを面白がってくださる方がいるんだなと。そういうアプローチに対しては全力でお応えしたいと思いながら、いつも臨(のぞ)んでいます」

「悪役も楽しかったですよ」とニヤリと笑った彼女は、幼い頃からテレビドラマが好きだったそうだ。

時代のヒロイン

「母の影響でNHKの朝ドラや、TBS系の昼帯ドラマの『ポーラテレビ小説』をよく観ていました。ポーラテレビ小説(’78年放送の『こおろぎ橋』)に出ていた樋口可南子さん(67)がすごく素敵で大好きでしたね」

高校3年生の時に『ホリプロタレントスカウトキャラバン』に応募し、応募総数12万人の中から審査員特別賞を受賞。しかし、「絶対に芸能界へ」という覚悟の挑戦ではなかったと回顧する。

「私の高校時代はオーディション雑誌が出回っていて、流行っていたんですよ。なので、わりと気楽に受けていました。まさかそこで合格して、長く仕事を続けられるなんて予想はしていませんから。大学受験もしましたし、強い意志を持って……というわけではなかったんです」

だが、オーディション合格の朗報が届くと、大学進学と同時に芸能界入りを決意する。最初は学業と俳優業を並行するも、出演作が増えるにつれて中退せざるを得ないほど忙しくなっていった。

’91年、24歳で主演を務めたフジ月9の『東京ラブストーリー』は視聴率32%を超え、社会現象になるほどの大ヒット。翌年『愛という名のもとに』、’94年『この世の果て』と、立て続けにフジテレビの連ドラで主役を務めるなど、テレビドラマが世の中を引っ張っていた当時、″時代のヒロイン″の象徴となった。

「当時はキャストもスタッフも若い方が多くて互いの垣根があんまりなく、大学のサークル活動みたいな感じでワイワイやっていた気がします。今と違ってスタジオ撮影がほとんどなくて、いろんなところにロケに行きましたね。

『こんなことを試してみよう』『やっちゃってもいいんじゃない?』と時代の勢いもあった。明け方まで撮影して、ほとんど寝ないで翌朝8時集合というのもやりました。あの頃は若かったし、今はできないよねって笑い話になりますが(笑)」

その後、結婚や子育て中心の生活を送り、俳優業は約10年のブランクが空いた。仕事以外の経験も重ねたことで、人生を楽しむ余裕が生まれたと振り返る。昨年11月にはイベントで、西麻布でナンパされたという驚きのエピソードも披露した。

「友人と食事をした帰りに一人で歩いていたら、30〜40代くらいの男性から『一杯飲みに行きませんか?』と声を掛けられたんです。地方から出てきた人で、仕事や人生のお話を聞いたら面白そうだと思って。

すごく行きたかったんですけど、『時間がなくて、ごめんなさい』とお断りしました。ちょうど家で原稿を書かないといけない仕事があったんですよ。それがなければ、ビール一杯ぐらい飲んでもいいかなと思ったんですけど」

最近印象に残った本

さらに、今年の正月は子供時代からの恒例行事である箱根駅伝の生観戦へ。そこでも新しい楽しみ方を見出した。

「お隣で観ていたご家族が、選手が走り過ぎるたびに、賑(にぎ)やかに選手の下の名前を呼んでいるんですよ。『学校名を呼んでも目立たない。下の名前を呼ぶと、″え?″って振り向いてくれるから、この作戦いいですよ!』って教えてくれて。私も一緒に盛り上がって、選手に向かって『ヒロシー!』って気付けば大声で叫んでました(笑)」

人への探求心が尽きない鈴木は、記者をまっすぐ見つめながら身を乗り出すようにしてこう続けた。

「もともとは引っ込み思案で人と喋(しゃべ)るのが苦手な性格だったんです。ただ、仕事の現場でそれだとなかなか人と馴染(なじ)むのに時間がかかったりして、窮屈(きゅうくつ)だと思ったんです。それよりはいろんな人とお話してみたほうがいいな、と。

例えば、今こうやって取材してくださっていて、『どうしてライターさんをやっているの?』とか、『出版社にどんな経緯で入られて、何が面白いですか?』とか。そういうところからドラマも生まれると思うんですよね」

その探求心は、移動中にも表れる。

「最近はみんな電車でスマホを見ているから、本を読んでいる人がいると心が弾みます。この前、男子高校生が太宰治の『人間失格』を読んでいたんですよ。いやぁ、いいなぁ。頑張ってくれたまえって(笑)。素晴らしいと思いました」

読書好きの彼女は、書評トーク番組『あの本、読みました?』(BSテレビ東京)で作家や編集者をゲストに迎える番組MCを務めている。

「番組の宿題もあって、年間100冊以上は読んでるんじゃないかな。寝る前やお風呂の中でも読んでいます。一番読みやすいのは移動時間なので、できれば新幹線や飛行機で遠くに行きたい! と常に思っています」

最近印象に残った本には、『YABUNONAKA-ヤブノナカ-』(金原ひとみ著・文藝春秋)を挙げた。出演した『スキャンダルイブ』同様、性加害を扱った小説だ。

「この小説は性加害自体より、さまざまな立場の人たちがその問題をどう捉えているのかを描き出しています。『スキャンダルイブ』もそうなんですけれど、実際に起こったことだけでなく、周りの人たちがどう受け止めて、どう歪曲(わいきょく)して、それが報道された時にどういう影響を及ぼしてしまうか……というところが肝心だと思いました。

金原さんは、私たちが『なんとなくこんな感じだよね』っていう説明が難しい感情を、くっきりと言語化されていくのでその力がすごいなと思いました。言語化することで人に伝えることができるし、自分でももう一度考え直すことができる。今は何事もSNSで短く、安易な言葉で片付けられてしまって、それにみんなが乗っかっちゃうっていうことが危険だと思うので」

芸能界に身を置き、40年。次なる目標をどう描いているのか。

「まず、40周年という感覚がないです。途中で10年くらい休んでいますしね。むしろ、仕事に関しては毎回一番ペーペーの新人のつもりでいます。自分で思いつくことなんて大したことないと思うし、もっと新しいものを知っている人や、面白いことを考える人はいっぱいいます。そういう方に声をかけてもらえるように、体力だったり、想像力をできるだけ磨いていくことを心掛けています」

ベテラン俳優の口から飛び出した、思わぬ新人宣言。しかし、その存在感は円熟味を増すばかりだ。

エクストリーム・シチュエーション・コメディ(kcal(カロリー))『汗が目に入っただけ』

脚本・演出/冨坂 友(アガリスクエンターテイメント)

出演/鈴木保奈美、足立梨花、小越勇輝、西野創人(コロコロチキチキペッパーズ)、蘭寿とむ、田中要次ほか

東京/2026年4月3日(金)〜19日(日) IMM THEATER

広島/2026年4月22日(水)・23日(木) 上野学園(広島県立文化芸術ホール)

大阪/2026年5月2日(土)・3日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

富山/2026年5月16日(土)・17日(日) 砺波市文化会館 大ホール

山形/2026年5月23日(土)・24日(日) やまぎん県民ホール

公式サイト/http://www.asegameni.jp/

『FRIDAY』2026年4月10日号より

取材・文:郄橋大介(ノンフィクションライター)