戦争長期化、失敗だらけ政策で焦るトランプ氏 「美人閣僚のクビ」と「宗教へのすり寄り」で窮地をしのげるか
反米感情を懸念する米国民
当初の予測とは異なり、米国・イスラエルとイランの間との戦争(中東戦争)は長期化するとの見方が強まっている。
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トランプ米大統領が4月1日に「イランを石器時代に戻す」と警告したことは、紛争の早期終結を期待していた投資家にとって想定外だった。紛争終結の時期が示されなかったことを受けて、原油価格は再び1バレル=100ドル超えとなった。
米国のガソリン価格は3月31日に1ガロン=4ドルを超えた。米国におけるガソリン価格4ドルは消費者の行動を変える「心理的な壁」と呼ばれ、インフレを象徴する。3月の燃料費は前月比25%増加したとの調査結果も出ており、米国民の懐事情は厳しくなる一方だ。

中東戦争は旅行好きの米国民の行動にも変化を生じさせている。
米旅行誌「トラベルウィークリー」が米国の旅行アドバイザーを対象に実施した3月の調査では、72%が「世界で起きている紛争を理由に顧客が海外旅行の予約をためらっている」と回答した。昨年12月の38%から倍増した。
旅行を控える主な理由は「旅費の高騰」や「経済状態」が定番だが、今回の調査では「地政学的な懸念」がこれらを上回った。旅行アドバイザーの42%が「顧客が海外で反米感情に直面することを懸念している」と回答したのだ。
トランプ関税も製造業回帰も散々な状況
米国では既に厭戦気分も広がっているようだ。
ロイターなどが3月31日に発表した世論調査の結果では、66%が「たとえトランプ政権が掲げた目標を達成できなくても、米国はイランとの戦争の関与を早期に終結させるべきだ」と回答した。共和党支持者でも40%がこの考えに賛成だった。
トランプ政権への反発は中東戦争ばかりではない。トランプ関税も同様だ。
世界各国・地域に相互関税を発動すると表明してから4月2日で1年が経った。中国から米国への輸出は減少したが、モノの貿易赤字はむしろ拡大した。データセンター建設ブームで半導体やコンピューターの輸入が急増したからだ。
製造業の米国回帰も道半ばだ。労働コストの高い米国で生産を増やすのは容易ではないうえ、移民制限に起因する人手不足も足かせとなっている。対米投資の拡大を表明した日本企業も米国への輸出を続け、コストを見つつ現地生産と組み合わせているのが実情だ。
閣僚の解任で求心力向上
トランプ関税の負の側面も明らかになっている。米金融サービス企業JGウェントワースの調査によれば、個人破産申請者の41.7%が破産要因は「関税の上昇」と回答し、「生活費の危機」に次ぐ第2位となった。
トランプ政権が推進する人工知能(AI)による雇用への悪影響も顕在化している。キャリアサービス企業、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスは4月2日、米国を拠点とする企業が3月に発表した人員削減は6万620人となり、2月の4万8307人を上回ったことを発表した。人員削減の最大の理由はAIで、25%を占めている。
政権への逆風が強まる中、トランプ氏は閣僚の首を取り換えることで自身の求心力を高めようとしている。
トランプ氏は4月2日、ボンディ司法長官の解任を発表した。少女買春などの罪で起訴され獄中死したエプスタイン元被告に関する情報公開を巡り、自身の支持層(MAGA派)からボンディ氏を批判する声が高まっていたことが理由だ。
キリスト教福音派への接近
民間調査企業YouGovによれば、自分をMAGA派と自認する米国民は有権者全体の約15%を占める。無党派(約6000万人)の多くが投票に必要な有権者登録をしていないことを考慮すれば、MAGAの比率は20%に上昇するとの指摘がある。
現時点でMAGA派の多くは中東戦争に好意的だが、戦況が泥沼化すれば、戦争への批判が高まる可能性は十分にあるだろう。
筆者が注目しているのは、トランプ政権がこのところ、キリスト教福音派にすり寄る姿勢を強めていることだ。米国の全人口の2割以上が属する福音派は、選挙の勝敗を左右する存在とされる。
トランプ氏は4月5日、イランで撃墜され行方不明となっていた戦闘機の乗員が救出されたことについて、「イースター(復活祭)の奇跡」と述べた。ベッセント財務長官も同様のコメントをSNSに投稿したから驚きだ。
これに対し、戦争の正当化などに宗教を持ち出すことは問題だとの批判が出ている。
戦争の勝利をイエスに祈る
ホワイトハウスの宗教色も強まっている。
3月30日、定例会見の場に現れたレビット報道官は、記者たちへの挨拶に次いで「私たちの『アーメン』が聞こえましたか」と質問した。この発言を受けてSNS上では「政教分離はどうなっているのか」といった批判が相次いだ。
政教分離の問題が指摘されているのはホワイトハウスだけではない。ヘグセス国防長官も3月の記者会見で、中東戦争で米国が勝利するようひざまずいてイエスに祈ることを国民に呼びかけて物議をかもした。
トランプ氏自身は熱心な信者ではないと言われている。だが、同氏の福音派重視の戦略のせいで、米国社会の分断がさらに進むのではないかとの不安が頭をよぎる。
8日、米国とイランは2週間の停戦に合意したが、依然収束の道筋はみえない。悩める超大国の今後の動向について、引き続き高い関心を持って注視すべきだ。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。
デイリー新潮編集部
