東京・足立区役所

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 昨年も「ホテル密会市長」や、「学歴詐称市長」など、本人にとってはありがたくない異名を付けられる首長が続出したが、その例にならうならば、今度は「フェラガモ区長」の誕生となるのか。東京都足立区の近藤弥生区長(66)が、利害関係者から高級ブランド・フェラガモ社製のスカーフやプレミア焼酎「森伊蔵」を贈られていたことが区の公益監察員の調査で判明した。「利害関係者」とは東京女子医大の岩本絹子元理事長や同大関係者。岩本氏は学内で「女帝」と呼ばれ、同大に関わる建設工事を巡って背任容疑で逮捕されたいわくつきの人物である。監察員は法令や規則に違反するものではないと認定しているが、区議会の一部からは、トップの姿勢に疑問の声が上がっている。

東京・足立区役所

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【写真を見る】ブランドもの大好き?「近藤弥生」足立区長の素顔

85億円の補助金を支出

 東京女子医大を巡っては、昨年1月、岩本元理事長が新校舎建設を巡って、実態がない「建築アドバイザー」に約1億1000万円の報酬を与え、その一部を自身に還流させるなどして大学に損害を与えたという背任容疑で逮捕された。その翌月には、足立区での新病棟建設についても、同様のスキームによって約1億7000万円の損害を与えた疑いで再逮捕されている。

 この新病棟「東京女子医科大学附属足立医療センター」の建設に関して、思わぬ余波が広がっているのが、足立区の近藤区長である。

 もともと同センターは、荒川区にあった(旧名称は「東京女子医科大学東医療センター」)。それが足立区に移転されるに当たり、区は約37億円で取得した用地を無償で大学に貸し付け、建設費用など計約85億円を補助金として支出。センターは2022年に開院した。しかし、上記で述べたように、ここが疑惑の舞台となっているのだ。

1年かかった調査

 逮捕を受けて、昨年2月、区議会では元理事長や女子医大側から区の幹部職員、区の職員に対して接待や会食、金品授受がなかったかどうか調査すべきとの質問が飛んだ。岩本被告は同大の第三者委員会が「金銭への強い執着心がある」と非難している人物であり、その被告側に巨額の補助金が流れていたのだから、プロセスの透明性をチェックし直すのは当然であろう。

 当初、区側は「必要ない」としていたものの、岩本被告が起訴されたのを受けて昨年3月、3名の弁護士からなる公益監察員が調査を行うことを決めた。その結果が、1年近く経ったこの2月にようやく出たのである。

会食は計9回

 監察員は区長に書面質問、副区長や職員などにアンケートを実施。さらに、区長や誘致に関与した職員10名に聞き取りを行った。そうして出来た報告書によると、東京女子医大サイドと区側の間には、18件にわたる会食や物品の授受が認められたという。

 会食については、2015年から2019年の間、ホテルニューオータニや浅草ビューホテルなどで、区長が参加したものを含めて、計9回が行われている。また、会議の場で飲食物が提供されたことも4回ある。

 これらは会費制であったり、また、上司の承認を得たりしているため、監察員は「違反には当たらない」と指摘している。

家宅捜索の後も…

 調査で見る者を驚かせたのは、区長自身の物品の授受だ。報告書によれば、以下の3件が認められる。

(1)2017年以降、東京女子医大から羊羹や焼酎を2度受領。焼酎は、1万5000円〜2万円程度する「森伊蔵」の一升瓶であった。
(2)2019年、岩本被告の理事長就任祝賀会への参加の御礼として、元理事長からフェラガモ社製のスカーフを受領している。
(3)2024年、区長が両手首を骨折し、足立医療センターに入院。その際、岩本被告からプリザーブドフラワーを受領している。

 ちなみに、(3)については、警視庁が家宅捜索を行った(2024年3月の)後(6月)のことであった。

「社会的儀礼の範囲内」

 これらの事実を適示した上で、監察員は、「森伊蔵」については「一般的な手土産としてはやや高額なものであると思われるが、首長である区長に対する贈答品としては社会通念上許容される」と指摘。

 スカーフについても、

「一般的な返礼品としては、やや高額なもの(当時の価格は不明ながら2〜3万円程度か)と思われるが、区長は同祝賀会の参加にあたって会費として私費で3万円を支払い、さらに、同じく同祝賀会に出席した副区長とともに連名で生花を贈っている」、「区長自らが時間を割いて祝賀会に参加したことからすれば、相応のお礼の品を贈ることは社会生活上ありえること」

 プリザーブドフラワーについては、

「金額は不明であるが、お見舞いとして、花を贈ることは社会一般的に行われるものであり、社会的儀礼の範囲内である」

 こうしていずれも収賄罪には該当せず、区の倫理規定や指針にも抵触しないと判断されている。

足立区史上トップの額

 しかし、一般的な感覚からすれば、賄賂に当たるかどうかは別にして、「森伊蔵」や「フェラガモのスカーフ」を利害関係者から堂々と受け取るのは、首長として、また「李下に冠を正さず」の故事からすれば、軽率極まりない行動であると言われても仕方ないであろう。

「今回の報告書を見て、ますます補助金の支出決定のプロセスに疑念を抱きました」

 とは、この問題を追及する足立区議会「是々非々の会」の逸見(へんみ)圭二幹事長である。

「補助金計85億円というのは、足立区の区政史上初めての、歴代トップの額です。当時、案が出てきた際、区議会でも上限の金額まで出すのかという議論もありましたが、、区側は審査会を経てその数字を出してきた。しかし、さまざまな意見はありましたが、第三者を交えての審査会を経ていたこともあり、議会は承認をしたのです。しかし、今回発覚した贈答品の件を踏まえると、トップ同士の密接な関係があっての額だったのではないか、最初から85億円ありきだったのではないか、と改めて疑念が沸いてきました」

区議会議員にも贈り物が…

 逸見議員が続ける。

「贈答品受領について区長は、“当時は許されると思っていたが、今となって振り返ると、脇が甘かった”と弁明しています。しかし、フェラガモを受け取ったのは7年前ですが、当時から政治とカネの問題について世間の目は厳しかった。その弁明が通るかどうかは疑問に思います」

 実は、東京女子医大サイドは区議会議員にも「プレゼント」を贈っていたという。

「2019年に、議長や副議長をはじめ、各会派の幹事長や、本件補助金についての審議を行った厚生委員会所属議員などに宛てて、『お歳暮』と称して、カタログギフトが贈られたのです。しかし、議会では適切ではないと判断して返却しました。一方で、ちょうど同時期に区長はスカーフをもらっているんです 」 

 フェラガモ受領について区長は、祝賀会で3万円の会費を私費で負担し、花も贈っていることから、「スカーフをもらってもトントンだと思った」と弁明しているというが、 

「祝賀会には副区長も同席し、会費を支払い、花を贈っていますが、その直後には何も贈られていません。区議会議員数名も参加しましたが、彼らのところには何も届いていません。区長だけがもらうのは、社会通念上、認められる行為ではないと思います」

二転三転する答弁

 区の情報公開の姿勢にも問題があるという。

「実は私は以前から、審査会の議事録を公表するよう求め、区もその一部については公開に同意をしていましたが、結局、出さないままでした。元理事長の逮捕後に改めて問い直すと、“(提出を)忘れていた”という。巨額の補助金を出すことの重大さを認識していないのではないかと思います。また、逮捕後、審査会の録音データの提供を求めましたが、最初は既に消去したと述べていたのに、後に“ありました”と二転三転。その上で、会議は非公開が前提だったので、公開は出来ないとのことでした。金品授受の調査についても、最初に要求した時は“しない”と言っていたのに、元理事長が起訴されたのを見て、一転始めることを決めました。公判が始まり、いろいろ表に出てきたらまずいと思ったのではないか。疑念は深まるばかりです」

区職員からのメール

 報告書では、病院の竣工記念式典が行われた際、参加した職員の中に、出された弁当を持ち帰ったり、記念品のボールペンを受領したりした職員がいたことを指摘。これが上司に報告されていないとして、「手続き上の違反がある」としている。しかし、

「こんな些細なことに目くじらを立てるのであれば、フェラガモや森伊蔵をもらった区長のほうがよほど問題ではないか。弁当をもらった職員はアウトで、フェラガモの区長がセーフなら、不公平感は甚だしいと思います」

 実際、逸見議員の元には、複数の区の現役職員から、区長の姿勢に疑問を持つ声が寄せられているという。

「区長は既に5選を果たし、トップとして20年近いキャリアがあります。そのため、区役所内には、区長に対して物を言えない、息苦しい空気が出来ているのではないか、と。85億円の補助金を出した利害関係者から高価な贈り物を受け取っておいて、処分なしでは済まされませんし、それを許せば、真面目に職務に励んでいる職員に対して示しがつかないと思います。この件を追及している中で、区長に“他の利害関係者から物品をもらっていることはないですか?”と尋ねたところ、“相手を利するようなことはしていません”とあいまいな回答が返ってきました。今後も、議会ではこの問題の追及が続きます。また、職員だけではなく、区長や副区長についても、利害関係者から物品を一切受け取ってはならないという、法的拘束力のあるルールを作るべきだと思います」

 本件を巡っては、調査結果に納得しない区民から住民監査請求が出ている。区民の中には早くも「フェラガモ区長」と揶揄する向きもあるという。今後の区長の発言や身の処し方に、大きな注目が集まりそうだ。

デイリー新潮編集部