決定的技術「IOWN」を持つNTT、なぜ株価は上がらないのか?経営陣がいまだ語れない投資家が求める「たったひとつのこと」

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MVNO強化が生んだ「成長の制約」

前編記事〈NTTの株価はなぜ「いまだに」上がらないのか?株式分割で個人株主「激増」のウラで起きていた「異変」の正体〉では、NTT株がボックス圏を抜けられない背景に、1対25の株式分割が生んだ膨大な個人株主と、それに伴う外国人投資家の比率低下があることを指摘した。しかし、NTT株が冴えない理由はそれだけではない。

NTT株の不振の背景には、事業自体の成長可能性に対する懐疑もまた大きな要素になっている。それは、NTTだけではなくKDDIもソフトバンクも、足元、高市トレードで活況を呈した日本株のなかで、もう1つその勢いに乗れていないことにも表れている。NTTの場合、それはNTTドコモの停滞に理由がある。その停滞がどこから来ているのか、分かりやすい資料が図3だ。

この図は2026年2月に開催された個人投資家向け説明会資料から抜粋した2014年3月からの携帯電話契約数のシェア推移になるが、当初僅か4%しかなかったMVNO(NTTドコモやauなどの移動体通信事業者の提供するサービスを利用して、または彼らと接続して移動体通信サービスを提供する事業者、分かりやすく言えば「格安SIM」の提供者)が、2025年9月には17.8%と4.5倍の規模になったことが分かる図になっている。同じようにソフトバンクもKDDIも影響を受けているが、最も影響を受けた事業者はNTTドコモで、そのシェアは43.1%から33.3%に2割減になっている。

この変化の背景にあるものは、総務省の国策としてのMVNO育成の強い姿勢ほかならない。今は政界を引退された菅氏が牽引した政策として有名だが、日本の家計を圧迫しているのは当時の3大キャリアの寡占がもたらす通信費であり、その削減に向けた取り組みが強まるなか、4番目のキャリアとして楽天が参入し、また3大キャリアが自身のなかにMVNOのサブブランドを創設していく流れが生まれた(図4ご参照のこと)。そしてその方向性は現在にも繋がっている。

或る意味、本丸である通信費に国策が切り込んでいるなかでは通信事業者としての成長性については、どうしても制約が生まれる。もちろん、だからこそ、携帯端末がエンタメや通販や決済など生活の全てに「つながる」世界でいかに人々を「囲い込んで」経済圏そのものを構想していくか、各社が鎬を削り、新しい成長を志向している訳だが、方向性は正しいとしても、それが投資家にとって強く成長を感じさせるものかどうか、は議論があるところだろう。NTTだけでなく、「サテライトグロース戦略」など訴求力の高い「見せ方」をしているKDDIも、ソフトバンクも株価的にもうひとつ評価されず相場に乗り切れてはいない。

決定的技術「IOWN」があるのにもかかわらず…

しかし、NTTには単なる通信事業という括りを越え先進的な半導体領域での企業評価を得てもおかしくないIOWNがある。IOWNは決定的な技術であり、この決定的な材料を持ちながら(そして粛々と手を打って取り組んでいながら)なぜ株価が吹き上がらないのか、筆者には強い疑問だ。

そうした思いについて、またなぜIOWNが決定的な技術であるのか、については1年前にも記事に書き、詳細を纏めている(参考記事:なぜNTTの株価は低迷を続けるのか?期待の次世代通信「IOWN」に欠けている「魅力的な物語」)。

関心のある方はその記事も当たっていただければ有難いが、生成AIが劇的なスピードで社会実装されていく世界でIOWNが果たすべき役割はとてつもなく大きい。

図5はやはり2026年2月に開催された個人投資家向け説明会での資料からの抜粋になるが、2023年6月に300億円の出資で創立されたNTTイノベーティブデバイスが担う光電融合デバイスのロードマップと適用領域のスライドになる。最も重要なのはスライドの下に示されている電力効率で、現在PEC-2まで進んでいるこの構想がPEC-4、チップ内光化に至った段階ではサーバーの電力効率が現状の100倍になる、とされている部分だ。AIの社会実装に伴うデータセンターの電力需要が2030年には2024年の2倍になる、と想定されるなか、いかに低消費電力を実現するか、はエネルギー問題を考える上でも最大の課題と考えられており、NTTの持つIOWNは彼ら自身が「ほぼ一択」と自信を持つ技術になる。

例えば関西万博などでも話題を呼んだが、どうしてもIOWNについてはその「距離を無化する同時性」(別の場所での演奏が微妙な時差なく同時に聴こえる、東京で遠隔操作で地方在住者の外科手術の執刀を行うことすら可能にする、など)の力(IOWN1.0)に視点が向いてしまうものだが、本当に評価すべきは、その低消費電力性にこそある。

もちろん、NTT自身がその最大の長所は理解しているし、IOWNについて広報的にもその技術の革新性や潜在的な可能性など認知を高めようと努力している。露出にも気を配っている様子は、HPを見ても、また様々な媒体での記事や動画で理解できる。

投資家に対してもその認知を高めようとされていることは、昨年10月に行われたPR/IR DAYのテーマが「Toward the Future with IOWN」であり、特に「AI時代に求められる低消費電力デバイス」について語られていたのがその証明でもある。時間と関心がある読者には、ぜひHPからの総合Q&Aセクションまで入れた5つのセッションの視聴を奨めたいが、NTTはしっかりと地に足を着けた取組みを行っているし、くどくなるが、IOWNの持つ可能性は大きなものだし、PEC-2で協働するブロードコムとアクトンを招いたパネルディスカッションなどを聴けば、彼らの技術の世界的な評価も確認ができる。

しかし、それではなぜ株価がボックスを抜けないのか。

その答えは簡単で、NTT自体が投資家に対して、その可能性を投資家の目線で提供できていないからだ。昨年の記事の言葉を使えば、投資家にとって「魅力のある物語」を提示できていないからだ。IOWNが技術者にとって、あるいは社会にとって「魅力ある物語」である提示はできていても、投資家にとっての物語は提示できていないからだ。

このIR DAY自体にそれを象徴するようなQ&Aがあった。紹介してみよう。

NTTにいまだ欠けている「精神」

全体、投資家にとって一番重要なのは、そのビジネスの潜在的な市場規模はどの程度のものなのか、の把握になる。市場規模を理解し、競合を理解し、差別化要素を加味して、どの程度、その市場でその企業が成長できるのか、その見極めにこそ投資の神髄が宿る。

セクション2はNTTイノベーティブデバイスの富澤CTOが「IOWN2.0の実現に向けた光電融合スイッチの開発状況と今後の展望」を語るセクションだったが、セクションの後のQ&Aの質問にはやはり市場規模や競合先を問う質問があった。富澤氏は競合先について、競合先であり共にその課題(コンピューティングの低電力化の実現)の解決に手を携える相手でもあると前置きをされ、エヌビディアやまさにパネルディスカッションにも招いたブロードコムの名前を挙げられていた。しかし市場規模については最後の総合Q&AでNTTの島田社長が回答される旨答えて、回答はされなかった。そして、総合Q&Aで質問を受けた島田社長の回答は、マーケットができていない、単価も顧客も決まっていない、まだない市場であり、回答は控えたい(勘弁してほしい)、というものだった。

そして島田社長は、併せて、例えば光インターコネクトの市場については2032年には7兆円という予想がある、ただし光電融合デバイスは含まれないが、とも語り、現在のメタルの配線が置き換わる訳だが、そもそもメタルの配線の市場規模自体をリサーチ機関が弾き出していない、今後(光電融合デバイスの可能性自体が認知されるなか)数字が出てくるだろうと思う、とも語られていた。

この回答は、もしこれがIR DAYという場面ではなく、例えば国会答弁であったならば、何の問題もなく逆に正確な回答であり、誠実な回答でもあり、官僚答弁として満点だったと思う。しかし、投資家に対峙する局面において、この回答は正しかったのか、と言えばそれは疑問だ。なぜならそこには「こんなに魅力的な事業なのですよ、投資してください」という姿勢が見えないからだ。

筆者が指摘したいのは、まさにそこで、コロンブスがイサベル1世に、どうか航海に出資してください、と航海の可能性を説いた、その精神があるかないか、になる。下卑た表現にはなるが、「どうです、一緒に儲けましょう」という精神があるかないか、になる。多くの日本企業が社会課題の解決を前面に立てて、パーパスを高らかに語る時代になっているが、勘違いしてはいけないのは、社会課題がその企業、その事業において解決される際、そこには価値が発生し、それは利潤というカタチでその試みに関与した投資家にも、従業員にも、価値を受益する社会にも還元される仕組み、それが資本主義だということだ。

第一、300億円もの金額を投じてNTTイノベーティブデバイスを設立した際、そして更に投資していく際、市場はまだないので市場規模は分からない、という前提でその判断をくだしている筈はない。内部には、想定される市場が市場規模と共に算定されていて、その投資がいずれはWACC(加重平均資本コスト)を越えたキャッシュを生み出す、だからこそ投資が行われている筈なのだ。時間軸と想定している市場規模、その市場をどう取り込んでいくのか、企業はそれを語り、投資家はまた自分たちの時間軸でその試みに乗れるかどうか、を判断する。それが資本主義のダイナミズムを生み出していく。

全てをさらけだせないとしても、語れる範囲を語らなければ価値は測れない。ヒントは出した、後はそちらがそちらで情報を集め、計算するのが仕事でしょう?という考え方も成立しなくはないが、現実の株価を見れば、他にもたくさんの投資機会を持つ投資家がそこまでの好意を少なくとも現時点ではNTTに寄せてくれていないのは明白だ。ボックス圏を抜けられない株価が教えてくれる<相変わらず欠けているもの>は、依然IOWNという優れた技術をどうマネタイズしていくのか、にかかる情報であり物語なのだ、と思う。

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