皮肉のきいた夫への愚痴を共有し笑い飛ばす妻、対して夫が妻の愚痴を言わないのにはワケがあって…

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 最近、SNSのThreads(スレッズ)で、ある投稿が大きな反響を呼んでいる。「私の旦那のいい所」と題した、夫にまつわる投稿だ。2月27日現在、その「いいね」数は10万近くにのぼり、今もなお増え続けている。

《「チッ」とエアキッスしてくれる》《高熱で寝込む私の手料理が大好き》…まるで大喜利!妻たちの名作【夫のいい所】10選

 最初の投稿は、2月23日の、

《なにかあると「お前が悪い、お前のせい」と真っ先に私を指名してくるレディーファーストな紳士です》

《「自分が使った食器くらい自分で洗ってよ!」っていうと聞こえるか聞こえないかの音で「チッ」とエアキッスをしてくれるところが照れ屋でかわいいです》

《私が高熱で寝込んでも私の手料理を食べたがってくれます。辛くてできない家事は「明日やればいいよ」と言ってくれます》

 というものだった。そう、「私の旦那のいい所」とは、夫への称賛を装った愚痴。夫の「イヤな部分」を、逆に「好きな所・いい所」と言い換える。この逆説的な表現によって、夫の身勝手な振る舞いやデリカシーのなさを痛烈に笑い飛ばしているのだ。この投稿のコメント欄には、全国の妻たちによる“旦那自慢”が次々と披露されることとなった。

皮肉のきいた夫への愚痴を共有し笑い飛ばす妻、対して夫が妻の愚痴を言わないのにはワケがあって…

《うちの旦那は、姑問題で私が誰もいない所で隠れて泣いていたら、「誰もいない所でもずっと笑ってろ」と怒鳴り散らすほど、私の笑顔を見ていたいらしいです 離婚成立したら、最高の笑顔見せてやるわ》

《私が頭痛いと言うと、俺も頭痛いわ〜。私が寝不足かもと言うと、俺も眠くて〜。私が少し仮眠していい?と言うと、私より先に寝てます。何でもお揃いが好きな人です!》

 日頃の夫への鬱憤を爆発させた皮肉の数々……。こうした「夫の愚痴」がSNS上で吐き出される光景は珍しくないが、なぜ「私の旦那のいい所」はここまでバズったのだろうか。

皮肉のきいた愚痴が受けたワケ

「この投稿が大受けしたのは、単なる愚痴の枠を超えて、まさにユーモアの本質を突いた表現だったからです」

 そう分析するのは、人工知能研究者で男女の脳や行動の違いに詳しい黒川伊保子さんだ。

「以前、イギリスの方に、ユーモアとジョークの違いを聞いたことがあります。いわく、『ジョークはからかい。主に、庶民が権力者をいじって、心の距離を縮めるためのもの』。対して『ユーモアは、悲惨な状況に陥ったとき、ひねりや比喩でそれをクスリと笑い飛ばして、自分の気持ちを和らげ、同じ境遇の他者を救うためのもの』なのだそうです」(黒川さん、以下同)

 ユーモアの例として、こんなエピソードを挙げてくれた。満員電車の車内で、ある紳士が、自分の肘の下でイライラしているマダムに「私たち、オイルサーディンみたいですね」と話しかけて、互いのイライラがちょっと和らいだ……というものだ。

「夫の最低な言動を、『優しさ』と言い換えて笑うのは、自分の気持ちを和らげるだけでなく、同じ思いをしている他者を救う行為にもなります。その上、これらはすべて、『世界中の夫あるある』なので、救われた人の数が半端ではない、ということですね。

 さらに面白いのは、多くの夫たちが、『明日でいいよ』とか『僕は食べて帰るから大丈夫』といった言葉を、本気で優しさのつもりで放っているところです。これが皮肉であることにびっくりする、というおまけまで付いた、実によくできたパフォーマンスだと思いました」

なぜ夫は妻の愚痴を公言しないのか

 一方で、SNSを見渡すと「夫が妻の愚痴をこぼす投稿」は、圧倒的に少ない。実社会でも、女性同士が集まると夫の愚痴大会が始まりがちだが、男性同士で妻の文句を言い合っている光景は珍しい。一応、ネット上には「メシマズ嫁」という古くからの批判ワードはあるものの、近年、これがバズったという例は聞かない。

 黒川さんによると、そこには生物としての本能が深く関わっているという。

「男性が、謙遜として『愚妻』と呼ぶことはあっても、妻の愚痴を言いふらさないのは、それが自身の生殖能力の低さを露呈することになるからです。要するに、オスとしてカッコ悪すぎるんですね」

 雌雄生殖を行う動物のオスにとって、遺伝子を残すためにはメスの存在が不可欠だ。特定のメスを確保して、豊かな生活環境を与え、そのホルモンバランスを整えること。それこそが、よりよい子孫を残すために必須条件となる。

「だからこそ、鳥のオスなどはメスのために巣を整え、自分が健康で免疫力が高いことをアピールするために、美しい鳴き声や羽、ダンスなどの派手なパフォーマンスを披露します。

 特に、妊娠と授乳という負担のある哺乳類は、母健康とホルモンバランス(心)の安定が、そのまま子孫の人生の質に直結します。つまり、『惚れた女を幸せにすること』はオスの生殖能力の一部で、男性の脳はそれを本能的に知っているんです」

「好き」から始まる

 この本能は、誰かを好きになった時点で起動するという。

「脳の感覚として、『惚れた女を幸せにすることは男の甲斐性』なんです。そのため、妻の悪口を垂れ流すことは、自分の生殖能力の低さを露呈することになるので、本能的に恥ずかしいと感じるのでしょう」

 対してメス側は、より免疫力の高いオスを厳選して、そのオスがよりよい生殖のためにいかにいい環境を与え続けてくれるかを厳しく監視することで、生殖の質を上げようとする。妻が夫に厳しいのは生物として当然の摂理ということなのか。

「その要求を満足させてくれるオスがいれば、メスは浮気もせず尽くします。男性の生存率やパフォーマンスが高まることは、自らと子孫が生き残る可能性を上げることになるからです。生殖本能は、命が永遠でない地球生物にとって、種を絶やさないための、強い強い感覚。誰も逆らうことはできません」

「妻の愚痴」がバズるのは、それだけ救いを求めている人が多いという証拠。妻たちは、日々の小さなイライラをユーモアにあ換えて吐き出すことで、なんとか自分を保ち、心を慰めているのだ。

 ただ、男性側に知っておいてほしいのは、妻がそこまでして自分を慰めなければならない状況自体、実は夫としてのピンチだということ。積年の恨みでいつかポイッと捨てられないためにも、目の前のパートナーを笑顔にできているか、自分自身を振り返るきっかけにしてみてはどうだろう。

黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会会長、日本文藝家協会会員。2018年『妻のトリセツ』がベストセラーに。以降、数多くのトリセツシリーズを出版。

取材・文/天野那果

デイリー新潮編集部