「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
その一方で、近年では客から店舗側に「高評価レビューを入れるので、無料で食事を提供してもらえませんか」と誘いかけるケースが急増しているという。一体誰が、どんな目的で交渉を行っているのか? 事業者側の証言を元に、その実態に迫った。
国内屈指の観光名所、箱根。箱根登山電車の終着駅である強羅(ごうら)駅周辺は、近年、外資系ホテルを始め高級志向の宿が増え、インバウンド(外国人観光客)を多く呼び込んでいる。そんなエリアの一角に位置する「グランテラス ルリアン箱根」は、季節ごとに内容の変わるコース料理が評判のオーベルジュだ。同施設がHPで行っている、ある「宣言」がある。「インフルエンサー」を名乗る人物からの料理・宿泊の無料リクエストには、「絶対に応じない」というものだ。
同施設で料理長兼支配人を務める今田貴之さんによれば、宣言を出したのは数年前のこと。オーストラリアから訪れた4人組の観光客との間で起こったとあるトラブルがきっかけだった。
「先に2泊分の宿泊予約が入っていたんですが、宿に到着し、チェックイン手続きの段階になって『私たちはSNSで数万人のフォロワーがいる。アカウントで紹介するから、食事を無償で提供しろ』と要求してきたんです。断ると今度は『泊まらないので宿泊費を返せ』とごね始めた。キャンセル規定を伝えると1泊はしたものの、その後、口コミサイトに『態度が悪い』『施設が古くて雰囲気が奇妙』など、好き放題書かれて……。サイト上の点数が下がり、売上はトータルで100万近く落ちました」
◆「無料提供」を求めるDMが週1ペースで
直接宿にまで来たのはこのときの客が初めてだったが、食事・宿泊を含むサービスの「無料提供」を求めるDMは「4〜5年前から、週1ペースで届いていた」と話す。送信元はインフルエンサーが多く、割合的には、国内と海外が半々という。
「料理が看板の宿なので、『SNSで紹介する代わりに食事を無料にしろ』は十中八九要求されます。無料であればまだ良い方で、中には数百万円近いギャラを要求してくる場合もありました」
事業者が利用客に無料で飲食などのサービスを提供する代わりに、客側が店側の要望に沿った内容やレビューを口コミサイトやSNSに投稿する行為は、一般的に「ステルスマーケティング」(ステマ)と呼ばれる。’23年10月に景品表示法が改正され、ステルスマーケティングは法律上の「不当行為」と明確に定められた。だが、実態としてのステマ行為は今も後を絶たない。特に近年急増しているのは、「高評価レビューを入れるので、無料で食事を提供してもらえませんか」と客側が店側に働きかけるケースだ。その手口は大きく分けて二つに整理できる。
一つはルリアン箱根のように、インフルエンサーが宿に直接営業をかけるパターンだ。フードジャーナリストの山路力也氏が話す。
「(サービス事業者に対するインフルエンサーからの営業は)よく聞く話です。相手に影響力、拡散力がある場合、事業者側が受けてしまっているケースも少なくありません。正当な広告宣伝代行の場合は費用が発生しますが、料理の無償提供なら支出は少ないため、事業者からすれば『願ったり叶ったり』な部分もあるのではないでしょうか」
