「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
◆フォロワー数と投稿内容が乖離した「自称インフルエンサー」
もっとも、「インフルエンサー」について法律上、定まった定義があるわけではない。インフルエンサーを自称しつつ、その正体は限りなく素人に近いケースもあるようだ。
店舗のインスタグラムを通じ、週に3〜4通は「食事の無料提供」を求めるDMを受け取るという高級レストランの経営者に話を聞くことができた。同店は都内観光地の一角に位置し、外国人観光客が客の7〜8割を占める。DMを送ってくるのも、ほとんどが海外インフルエンサーだという。基本的に返信は行っていないが、「影響力を確かめるためにアカウントは見ています」と断った上で、こう話す。
◆「口コミ代行業者」からの営業も
もう一つの手口は、「口コミ代行業者」と呼ばれる業者が店側に営業をかけるパターンだ。この場合は、1投稿あたりの価格が決まっており、業者がライター(レビュアー)を店側に派遣した上で後日、店側が希望する内容に沿った記事や写真が「PR」の表示抜きで投稿される。長野県内にあるとある高級飲食店の店主は、口コミ代行業者から複数回営業を受けたことがあるという。その手法について次のように話す。
「業者から電話があり、まずはネット上における口コミの重要性について説かれます。その後で、『Googleマップ上の飲食店レビューに高評価を入れるので、食事は無償にしてほしい』と言ってくるケースが多いですね。店の宣伝目的に特定の層にだけ食事を無料提供するのは、普段お金を払って来店してくれる他のお客さんへの裏切りに等しい。うちの店はそうした営業は絶対に受けないと心に決めています」
◆従業員が書いた口コミをオーナーが添削…「やらせ口コミ」に手を染める店も
このオーナーが「やらせの口コミ営業を受けない」と固く心に決めている理由がもう一つある。自身が以前勤務していた飲食店のオーナーが、「やらせ口コミ」に手を染めていたためだ。
「ある日店に出ると、オーナーが『今日一人で来るお客さんから、一切料金もらうな』と言ってきました。代行業者にお金を払って、食べログのレビューを書かせていたんです。それだけではなく、その店ではアルバイトも含めて従業員全員に客を装ったレビューを書かせ、オーナーが『添削』までしていました……。拒否しようと思えばできたのかもしれませんが、直属の上司の指示ということもあり断り切れませんでした」
◆“ステマ”が減らないワケ
ステマが「法律違反」となった今もなお素人から業者まで、「やらせ口コミ」の幅は広がる一方だ。このような余地はどこから生まれてしまうのか。インターネット上の法律トラブルに詳しい虎ノ門法律特許事務所の大熊裕司弁護士は、次のように解説する。
「景品表示法は、あくまで『事業者』の側を規制する法律です。例え無料飲食を持ちかけたのが客側でも、彼らは規制の対象にはなりません。こうした状況下では、素人もインフルエンサーも関係なく、言わば誰もが『やらせ口コミ』ができてしまう。ある口コミがやらせであるかどうかは傍目には判断がしづらく、飲食店内部での分裂などが起きない限りは発覚のリスクも低い。そのため、実態として『ステマ』は未だに減っていません」
素人から業者まで、「高評価レビュー」と引き換えに行われる営業が”野放し”となっている現実に、はたして現行法は対応できているのか。再検討すべき時期に差し掛かりつつある。
山路力也(やまじ・りきや)
フードジャーナリスト・ラーメン評論家・かき氷評論家。飲食店のプロデュースやコンサルティングなども手がけている。「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。著書に『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』など多数。
大熊裕司(おおくま・ゆうじ)
弁護士・弁理士。第一東京弁護士会所属、虎ノ門法律特許事務所代表。SNSでのトラブルをはじめ、インターネット上の誹謗中傷・風評被害・名誉毀損などのトラブルに詳しく、年間100件以上の対応実績がある。
<取材・文/松岡瑛理>
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
